法医学者、拉致される。目的は過去の贖罪?ー椹野道流「池魚の殃 鬼籍通覧」

大阪府にある医科大学の法医学教室を舞台に、茶髪で口と目の大きな、トトロを細くしたような女性医師・伏野ミチルと、ビジュアル系のロッカーのような風貌で怖がりの医学部の大学院生・伊丹崇、伊丹の小学校時代の同級生でガッチリした体型にセサミストリートの太い眉毛で大きな目のマペット似の風貌ながら動きのいい敏腕の刑事課の刑事・筧兼継をメインキャストに繰り広げられる法医学ミステリー「鬼籍通覧」の第7弾が本書『椹野道流「池魚の殃 鬼籍通覧7」』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

一章 おそれてはならない
間奏 飯食う人々 その一
二章 二人は一人に勝り、三人は・・・
間奏 飯食う人々 その二
三章 求めよ、さらば与えられん
間奏 飯食う人々 その三
四章 与えるは受けるより幸福なり
締めの飯食う人々
飯食う人々 おかわり!

となっていて、今巻は、真っ暗闇の中で意識を取り戻す伊丹くんの姿から始まります。スーツ姿にコートを着た姿で、後頭部を何かで殴られて腫らした状態で、クッションフロアに転がされていたというもので、もともと怖がりで、子供の頃の肝試しも半泣きとなってますし、第一巻から第三巻までの事件がらみのホラーの時も怯えまくっていた「伊丹くん」なので、今回も暗闇の中でパニックに陥って過呼吸になってしまい、一緒に閉じ込められていた「ミチル」さんに、ギュッと抱きしめられて回復する、といった体たらくです。

監禁されていた場所は、元小学校の体育館を撮影スタジオに改造したもので、伊丹くんとミチルは、大学の解剖棟で何者かに意識を失わされて、それぞれ別々にこの元体育館へ運び込まれてきています。そして、閉じ込められた二人の側には、ミイラ化した人間の腕が転がっていて、ミチルさんのスマホがその腕をスタンド代わりにしてのっかていたという怪奇+悪趣味な仕立てになっています。彼らの財布はそのまま手つかずですし、拉致した時に殴ったほかは乱暴な扱いもしておらず、一体だれが、何の目的で、というのが今巻の謎解きですね。

この謎を解くため、伊丹と筧は、元体育館の撮影スタジオの持ち主である人物を探したところ、その持ち主はその地域の地主の一人息子・佐川利雄という男性で、将来的に特撮映画の撮影をするために、その体育館を購入し、コツコツと一人で改造していたらしいのですが、既に自殺してこの世にいません。持ち主の両親も高齢で認知症を発症していて、老人ホームに入所している、という状況です。

佐川璃雄と言う名前から、彼が自殺する3年前のさらに前年。駅のホームから転落事故を起こしているのがわかり、そのミイラ化した腕は、佐川が駅のホームから転落した時に、電車に礫団されたものを本人がミイラにしたものとわかるのですがこれに関する手がかりはそこまで。

途方にくれる伊丹と筧だったのですが、体育館に監禁されていた時の様子を録画した動画がYouTubeに突然アップされ、そのURLを記した手紙が届くのですが・・という筋立てです。ただ、この動画も暗闇の中で伊丹くんとみちるさんが会話しているのを録画しただけのもので、再生回数が伸びるわけでもなく、これをネタに脅迫できる代物でもなく、全く目的が見えません。手紙の中には短い「毛髪」が同梱されていて、これが何かの手がかりになるかもしれないため、ミチルたちはО大学に残されている今まで鑑定してきた膨大なDMAデータとの照合をはじめることとなります。

ただ、事件のほうは意外にあっさりと犯人が割れてきます。ミチルと伊丹は自分たちで手がかりを探すため、体育館の持ち主で自殺した佐川の専門学校当時の友人に聞き込みをしていたのですが、体育館に残されていた犯人らしき人物の足跡と防犯カメラに映っていた車のステッカー映像から、友人の一人である中島が犯人ではないかと目星をつけます。
警察で尋問された中島は、素直に犯行を認めるのですが、今回の拉致のターゲットは伊丹ではなくて、「ミチル」であることを自白します。彼はミチルは自分や佐川とは全く面識がないが、二人の「大事な人」のことは知っていて、その人のことを思い出してもらうことが今回の犯行の動機だった、と言い出すのでした・・・という展開です。

少しだけネタバレ的感想をいうと、犯人はミチルに対して

でも、とある人のことを、あなたは思い出すべきだ。あなたは自分の言葉が、その人にどんな影響を与えたか知らないでいる。知らないまま、法医学の先生として、人の死にかかわる仕事を続けている。僕は、それが許せないだけです。

というのですが、これはミチルに中島本人の自責の念と、当たりバチをもってきているような気がします。ちょっとミチルが可哀そうな気がします。

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レビュアーの一言

本シリーズには、アイスブレイク的な色合いのある「間奏 飯食う人々」という挿話があって、そこで伊丹や筧、あるいはミチルたちの「日常」が綴られているのですが、今巻の最後のところの「飯食う人々 おかわり」では、ポテトチップを「ルーチェ」という真ん中あたりで上斜め向きに湾曲したピンセットで食べるシーンが出てきます。

ポテチを箸等で食べる目的は、本来は手にポテチの油がつくのを嫌がってのことなのですが、本シリーズの龍村医師は、ピンセットで挟む組織にあわせて最適な力で掴めるようコツをつかむため、というのですから、「法医学者」の鏡のような人ですね。
ただ普通の人向けには「チップストング」というのがAmazonでも百均でも売ってますので、そちらを使われたほうがよろしいかと思います。

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