法医学者は、女子高生のツイン自殺の謎を解くー椹野道流「南柯の夢 鬼籍通覧8」

大阪府にある医科大学の法医学教室を舞台に、茶髪で口と目の大きな、トトロを細くしたような女性医師・伏野ミチルと、ビジュアル系のロッカーのような風貌で怖がりの医学部の大学院生・伊丹崇、伊丹の小学校時代の同級生でガッチリした体型にセサミストリートの太い眉毛で大きな目のマペット似の風貌ながら動きのいい敏腕の刑事課の刑事・筧兼継をメインキャストに繰り広げられる法医学ミステリー「鬼籍通覧」の第8弾が本書『椹野道流「南柯の夢 鬼籍通覧8」』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

一章 ひとりじゃないって
間奏 飯食う人々 その一
二章 過ぎし日々が戻るとき
間奏 飯食う人々 その二
三章 ないしょのはなし
間奏 飯食う人々 その三
四章 心の在処
締めの飯食う人々
飯食う人々 おかわり!

となっていて、今回のメインの事件は、女子高校生の自殺。大阪市内のお嬢様学校に通っている女子高生が自宅の浴室で、水を張った浴槽に手をつけて手首をカッターナイフで切ったという事件だったのですが、今回異様なのは、右腕を浴槽に突っ込み、洗い場に脚を投げ出す姿勢で座って絶命している女の子の左腕と自分の右腕をしっかりと絡ませ、手を繋ぎ、まったく同じ姿勢で座り込んでいる女の子が浴室内にいたことです。
その少女・片桐結花は、自殺した女の子・香川樹里と幼馴染で仲も良かったとのことですが、死んだ少女から離れようともせず、誰が何も訊いても黙ったままという状況です。

さらに解剖してみると、手首を切った傷にはためらった形跡もなく、胃の中からは自殺する直前に食べたと思われる紅茶の匂いのするホットケーキ欠片と睡眠薬の欠片が見つかります。
普通の自殺の様子と違うところの多い事件に、ミチルも戸惑うばかりなのですが・・・という筋立てです。

一方、伊丹のほうは、この自殺事件とは関係のない同級生の旧家の片付けに駆り出されています。もともと、伊丹くんは、小学生の時、大阪にいてそのころはイジメに苦しんでいたのですが、同級生の中でも、いじめっ子から伊丹くんをかばってくれていた女の子・村松咲月に、筧といっしょに彼女の祖父の住んでいた家の片付けの手伝いを頼まれた、という事情です。

彼女の祖父の家は、昔からの旧家であるので、家屋敷も大きく、蔵もあるお宅なのですが、その蔵の二階から、なんと「即身仏」を発見してしまいます。それは、昔から蔵の中に置かれている「開けちゃいけない箱」で、開けると中に入っているものに呪われるという言い伝えのあるものだったのですが・・・という展開です。
少しネタバレしておくと、この即身仏のミイラが女子高生の自殺事件と関わってくるのかな、と思わせるのですが、そこはフェイクで、旧家にありがちの因縁めいた話になってきますので、今巻の最後のほうでお確かめください。

で、メインの事件のほうは、自殺した女の子・香川樹里の側にいた片桐結花が、樹里の解剖をした法医なら、事件の真相を喋ると言い出したことから、解剖をしたミチルが呼び出され、彼女が本格的に事件と関わっていくことになります。

そして、本来ならテレビドラマとは違って、解剖を行った法医学者が容疑者と面談したりといった捜査に関わることはないそうなのですが、警察の異例の依頼で、取調室で片桐結花と面会したミチルに彼女は樹里の死体をみてどう感じたかを問いかけてきます。それに対して「とても綺麗だった」と答えるミチルに、結花は

「よかった。樹里ちゃん、最後までそんなに綺麗だったんだ。よかった!」

と柔らかな笑みを浮かべます。これをきっかけにミチルに心を開いた結花が語ったのは、大人になっていく自分を感じながら、汚れた大人になっていくのを拒絶する少女たちが計画した、二人が共同でつくる「未来のスケジュール」でした・・・、という展開です。

親友の死んだ時の様子を一部始終打ち明けた後、小さな字でびっしりと書かれたメモ帳をみせて

「樹里ちゃんがしたかったこと、全部リストアップしたの。これは樹里ちゃんの代わりに、わたしが全部経験する約束。だから、死なへん」
「・・・樹里さんの人生も、あなたが生きるつもりなの?」
結花はにっこりして頷いた・
「うん。いつかわたしが死んで、空の上で樹里ちゃんに会えたら、いっぱい報告することがあるように」

という少女にどういう言葉をかけたらいいか、ミチル同様悩んでしまう結末であります。

ちなみに、第1巻から第6巻までの流れで行くと、事件に巻き込まれるのは伊丹くんであったのですが、前巻から「ミチル」が巻き込まれる割合が高くなってきています。
シリーズは、だんだんとホラー色が薄れていっているのも特徴なのですが、伏野ミチルが「探偵役」として存在感を次巻以降増していくのかもしれません。

Bitly

レビュアーから一言

本巻のサブの事件として、伊月くんの同級生の祖父の家の蔵で発見される「即身仏」の正体を探っていく事件があるのですが、ミステリ―の中でも「ミイラ」を小道具に使ったものはいくつかあります。やはり、その怪奇性がミステリ―と親和性があるせいでしょうか。

例えば、島田荘司さんの、イギリス留学中の夏目漱石が、シャーロックホームズと一緒に、呪いをかけられて一夜にしてミイラになった男の謎を解く「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」とか、北森鴻さんの蓮杖那智シリーズの、那智の助手を務める内藤の曾祖母の故郷の即身仏伝説の正体を暴く「触身仏 蓮杖那智フィールドワークⅡ」、最近では伊豆諸島の神の出島でミイラ化した女性が発見されるところから始まる、川瀬七緒さんの昆虫法医学者シリーズ「潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官」などがあります。怪奇色は異なりますが、いずれも面白いミステリ―ですので、読んでみて損はないですよ。

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