バウンティー・ハンター、いわゆる「賞金稼ぎ」という商売は、アメリカでポピュラーなのですが、日本では保釈金を建替える業者がほとんとない上に、建替えた保釈金を踏み倒す被疑者を捕まえて保釈金保証業者に引き渡すことが認められていないため、「賞金稼ぎ」をビジネスとしている人はほとんどいないのではないでしょうか。
そんな「賞金稼ぎ」ビジネスを、母親を介護している元刑事、若くて美人の女性マタギ、警察オタクの大企業の若手経営者の三人が、トリオとなって、賞金目当て(?)に、迷宮いりしそうな事件の謎解きと解決に乗り出すのが、この『川瀬七緒「賞金稼ぎ スリーサム」』シリーズです。
シリーズのメインキャストは
〇薮下浩平
元警視庁の刑事で、将来はノンキャリながら警視以上の出世は確実というぐらいの敏腕だったのですが、母親がクモ膜下出血の後遺症で植物人間状態になったため、介護のために退職。現在はなんでも屋の「私立探偵」
〇上園一花
北海道生まれの、色白スリムで、一見すると華奢な人形のような美少女ながら、実体はマタギだった祖父じこみの腕利きのハンター。罠猟から銃猟までオールマイティにこなし、イノシシやシカの害獣駆除の優れた技術に、全国の自治体から依頼が絶えないのですが、極度のコミュ障で世間知らず。ただ、結婚願望は強く、たくさんの出会いサイトに登録している。
〇桐生淳太郎
シボレーをキャンピングカーに改造した車に、警察無線や警察システムのハッキングから街中にある防犯カメラへの侵入まで行えるハイテク機械を詰め込んで、警察情報や事件情報を収集している、三十歳すぎの警察マニア。実は桐生製糖株式会社という大手食品メーカーの御曹司で重役。さらに、ビジネススキルもとても高く、オタク活動もビジネス拡大の一環みたいなところがある。
といった三人。薮下と桐生は、薮下が警察官当時からの腐れ縁なのですが、ある事件の調査をきっかけに、一花も二人と手を組んで、賞金稼ぎ事業に乗り出していくことになります。
「賞金稼ぎ! スリーサム」(小学館)のあらすじと注目ポイント
シリーズ一巻目となる「賞金稼ぎ! スリーサム」の構成は
第一章 水と油、金とマニア
第二章 ハンターと白いワンピース
第三章 ガンロッカーと罠
第四章 二人の起点
第五章 チーム・トラッカー
となっていて、まず最初は、淳太郎が重役を務める桐生製糖の顧問弁護士・益田が、薮下のところへ、半年前におきた「大規模放火事件」の調査を持ち込んでくるところから始まります。
事件の中身は8年前に閉店したペットショップから出火して近隣の12軒の店・家屋を焼いて、6人が犠牲になった大きな火事で、保険金目当ての放火の容疑者としてペットショップの元経営者の相原幸夫が取り調べをうけたのですが、容疑不十分で釈放されています。
状況証拠的には、この元店主が一番クサいわけですが、警察マニアの桐生淳太郎は何かを嗅ぎつけたのか、町内会の者が彼に危害を加えないように、彼を南千住のボロアパートに匿って、隣には淳太郎に心酔している女性を住まわせて監視させるという完全保護体制をとってます。
こんな中、焼け跡の調査を続けていた薮下と桐生は頻繁に、現場にやってくる真っ白いレーズの日傘をさしている若い女性を見かけるのですが、というのが美人の腕利きハンター・上園一花との出会いです。
このあと、コミュ障ながら、ハンターとしての抜群の才能と野生の勘を持つ彼女と手を組んで調査をしていくことになるのですが、彼女のハンターとしての観察眼が、毎日、この火事現場に、三本足の犬を連れた、歩幅が狭くて均等で、いつも小走りしているような感じの人物、つまりは犬連れの年寄りが訪れていることがわかってきます。
さらには、この相原と同じようなペットショップの放火全焼事件が2年間のうちに4軒ありることもわかってくるのですが、この2つが結びついたとき、放火事件は意外な方向に転じていき、ということで、国際テロリストの登場する連続殺人へと発展していきます。
「二重拘束のアリア」(小学館)のあらすじと注目ポイント
シリーズ第二作となる「二重拘束のアリア 賞金稼ぎスリーサム」の構成は
episode1 一年生存率、二十パーセント未満
episode2 時間の動き出した部屋
episode3 殺しの境界線
episode4 リンクする二人の女
episode5 狩る者、狩られる者
となっていて、前巻の最後のほうで、薮下、一花、淳太郎の三人で、迷宮入りしかけている刑事事件の再調査と、現在起きている事件の調査を手掛ける犯罪の専門調査会社「チーム・トラッカー」がオープン。
この会社の初事件としてもちこまれるのが、三年半ほど前におきた結婚三年目の夫婦・鷲尾真人・結衣子が互いに殺し合った、という事件の真相究明です。
もともと仲の良かった夫婦だったのですが、ある夜、夫が妻に金属バットで殴りつけ、妻はサバイバルナイフで応戦し、夫はその夜に失血死、妻は頭蓋骨骨折と脳挫傷で二週間後に死亡という陰惨なものなのですが、妻の両親が離婚のもつれによる事件という捜査結果に疑問を抱いて、三人の会社に調査を頼んできた、という経緯です。もちろん、すでに警察も他の調査会社でも調査済みの案件で、新しい結論なぞ望みようもないアゲインスト感満載の事件です。
しかしいつ倒産してもおかしくない調査会社なので、依頼を引き受け調べていくうちに、この夫婦の住んでいたアパートの部屋に盗聴器や盗撮カメラがしかけていたことがわかったり、結衣子の友人と名乗る女が結衣子の幼馴染が夫・真人を誘惑していると噂を流していた、とか死んだ二人の周辺に怪しげな「女」の影が見え隠れすることに気づいてきます。そして、その女は自分の正体を隠し、善意のふりをして一花に近づいてくるのですが・・・、という展開です。
普通の女性の顔をして近づき、人の心を操るシリアルキラーの不気味さがだんだんと伝わってくるのですが、その女の悪意に気づいた一花が、女をナイフで脅して、逆に恐怖のどん底に陥れた上で
月子さん、わたしはあなたを狩ろうと思います。今後どこへ行っても何をやっていても、近くにわたしの珪肺を感じるはずです。好きに逃げてください。ハンデです。わたしは今まで狙った獲物を逃したことはない
と笑いかけるあたりは、怖いながらも、この女の鬼畜のような犯罪を考えるちょっと胸がすく感じですね。
レビュアーの一言>コミュ障ハンター・一花に注目
本シリーズの魅力はなんといっても、メインキャストとなる薮下、一花、淳太郎の三人の強烈な個性なのですが、中でもひときわ目立つのは、24歳の美女ハンター・上園一花ちゃんですね。彼女が第二巻の後半で、山ごもりをして有害鳥獣駆除をシているときの
どんよりと薄暗い森の中でもひときわ目立つ派手なピンク色のハンティングベストを着込み、同じ色のキャップをかぶっている姿は遊び半分で山に入るチャラついた女にしか見えない
といったファッシションをみると、やはり若い女性なんだね、と思ったのですが、「間違って撃たれないために派手にしsています。それに動物にピンクは見えませんので」というファッション選択の理由をみると、ねっからの「ハンター」であることがわかります。随所随所にでてくる彼女の凄腕ハンティングの「ワザ」を読んでいくのも、本シリーズの楽しいところですね。
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