舞衣と沖野にマイセン王国からの魅力的な誘いー「化学探偵 Mrキュリー」8~10

実験しか興味のない変わり者の天才科学者「沖野春彦」と四宮大学の庶務課の新米事務職員「七瀬麻衣」をメインキャストに、文系から理系まで幅広く学部を揃えた中堅私立大学・四宮大学の庶務課に持ち込まれる不思議な事件の謎を解いていく化学系コージーミステリー『喜多喜久「化学探偵 Mrキュリー」(中公文庫)』シリーズの第8弾から第10巻。

第8巻 四宮大学に合成麻薬合成の疑惑が発生

第8巻の構成は

第一話 化学探偵と捨てられた覚醒剤
第二話 化学探偵と禁断の果実
第三話 化学探偵と爆発動画の怪
第四話 化学探偵と心の枷
第五話 池のほとりに立つ彼女ー2003年のMrキュリー

となっていて、まず第一話の「化学探偵と捨てられた覚醒剤」は、理学部の排水の中から「覚醒剤」と思われる成分が発見されるところから始まります。

理学部の実験室から出る排水には様々な成分が含まれているので、下水道に放流する前に分析検査することになっているのですが、その中から違法薬物の成分らしきものが検出されたというもの。この分析は、沖野の大学時代からの友人である国島の分析技術研究所が行ったもので正確なことへは折り紙付きです。
そうすると、この違法物質は、大学の教員か学生が故意または偶然に「合成」してしまったものでは、という疑いがかかります。いちばん疑わしいのは物質合成を研究する研究室なのですが、その研究室の内部情報を暴露する書き込みがSNSに流れはじめ・・・という展開です

第二話の「化学探偵と禁断の果実」では、遺伝子工学に基づいて食用植物の品種改良を研究している研究室の音質が荒らされ、いくつかの果実が盗まれるという事件がおきます。大学内でおきる揉め事は何でも担当する舞衣がこの事件の調査を始めたころ、それと並行して、彼女が担当している、小学生の大学見学できていた小学生の一人が意識を失って倒れるという事件も起こります。実は、温室で育てていた果実をこの小学生が食べたため、意識を失ってしまったんだとわかるのですが、その陰には単なる食中毒にとどまらないことが隠されていて・・という筋立てです。

第三話の「化学探偵と爆発動画の怪」は、動画サイトで「爆発場面」を撮影した動画が人気になっているのですが、四宮大学のグラウンドで爆発を起こしたような映像がアップされます。しかし、その爆発跡見られるグラウンドの穴からは、その痕跡や残留物がみつからないというもの。爆発音を聞いたという証言者もいて、その謎の解明に舞衣が乗り出すのですが・・という筋立てです。

第四話の「化学探偵と心の枷」は、このシリーズでかなりの頻度ででてくる学生の恋愛相談です。実験でなかなか成果がだせず、彼女ともほとんどデートもしなくなった理系学生の彼女からの相談なのですが、その学生が絶不調になった意外な原因を解明することとなります。

第五話の「池のほとりに立つ彼女ー2003年のMrキュリー」では、沖野の学生時代の家庭教師のアルバイトの教え子で、沖野の母校「東理大学」の薬学部に進学した「湯浅信希」が、キャンパス内の池のほとりにたたずむ女性を目撃するところから始まります。その池では過去に東理大学を何度も入試に落ちた浪人生が自殺した、という噂があるのですが、若い女性が思い詰めて池のほとりにいれば、そうした過去のエピソードかなくても、自殺では、と疑ってしまうのは間違いのないところ。信希は沖野の助けを借りて、その女性を助けようとするのですが、実は彼女は自殺とは全く逆方向のことを企んでいて・・という展開です。

Bitly

第9巻 四宮大生の悪夢の秘密を解き明かせ

第9巻の構成は

第一話 化学探偵と赦されざる善意
第二話 化学探偵と金縛りの恐怖
第三話 化学探偵とフィクションの罠
第四話 化学探偵と後悔と選択
第五話 化学探偵と夢見る彼女

となっていて、第一話の「化学探偵と赦されざる善意」では、大学近くのマンションから、四宮大学の学生が酔っ払って「ゲロ」を吐いて困る、という苦情が寄せられます。

大学生のプライベートなこととはいえ、大学の評判に関わる上に、新学期に起こる急性アルコール中毒事件の心配もあるので、舞衣がこの事件の調査に乗り出します。調べてみると、四宮大学近くの居酒屋で酒を呑みすぎて気分の悪くなった他大学の学生の双子の兄弟が四宮大学の学生であったため、こうしたデマがとんだとわかります。まずは一安心といったところですが、その後、その呑み会に参加していた学生が、学食のカフェテリアの「漬物」を食べて気分が悪くなるという食中毒事件が発生して・・という展開です。
酔っ払って迷惑をかける学生への、毒による警告が疑われる事件なのですが真相は・・という筋立てです。

第二話の「化学探偵と金縛りの恐怖」は、何者かに追いかけられ、押さえつけられて首を絞められるという悪夢を繰り返し見るようになった女子学生の悩みの解決に舞衣が乗り出します。その女子生徒の夢は、きまって彼女がアパートで眠った時にみる夢で、他の場所で眠った時にはみることはなく、原因はなにか精神的なトラウマなのでは、ぐらいしかわからず、舞衣の調査も途中でとん挫。
ところが、同じころ、四宮大学で廃棄物の盗難が相次いでいて、その犯人が、彼女と同じアパートの1Fに住んでいて、その男の部屋がゴミ屋敷化していることがわかったところで、彼女の症例の意外な原因も明らかになってきます。

第三話の「化学探偵とフィクションの罠」は、舞衣の幼馴染の人気俳優・美間坂剣也の新ドラマで、沖野をモデルにした「化学探偵」ものが再び収録されることになるのですが、そのドラマの脚本が、ある麻薬常習者をあぶり出していくことになります。

第四話の「化学探偵と後悔と選択」は小説家志望で、小説を書くために大学を中退しかけている妹を心配する兄が極度の体調不良になり、舞衣の「なんでも相談室」にやってきます。
この兄のほうも、とても生真面目な性格で、起きている間はほとんど実験か実験に関する文献を読んで過ごしているという具合なので、体調不良の原因は、「妹の心配」だけでなく、その生真面目さにあるとも推測されたのですが、妹の「早朝散歩」に意外な原因があることを、沖野が明らかにします。

第五話の「化学探偵と夢見る彼女」では、立石琴子という弁護士志望の四宮大学法学部の女子学生が主人公。彼女が生真面目すぎて恋バナの一つもないのを心配した、彼女の高校時代の部活の先輩・美夏は、琴子に認知症の老人の生活介助のボランティアサークルで一緒に圧胴することを奨めたところ、これに琴子がドはまり。

熱心に活動をしていたのですが、美人の彼女に近寄ってくる男子学生は多く、そのうちの一人の男子学生を好きな女子学生に恨まれるようになってきます。そして、琴子の実家の庭に生ごみが放置されたりといった嫌がらせがおき、ついには、悩んでいる琴子が美夏からもらった「「いい夢」をみるサプリ」を飲んでぐっすり眠ったその夜、琴子の部屋の窓に生ごみが投げつけられる事件がおきます。犯人は、サークルで琴子をことを恨みに思っている女子学生なのでしょうか?でも、どうして琴子の実家の部屋の位置を?といった筋立てです。
少しネタバレすると、親切な顔で近づいてくる人が「真犯人」っていうのはミステリ―の定番の一つでありますね。

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第10巻 舞衣と沖野にマイセン王国からの魅力的な誘いがかかる

第10巻はひさびさの長編です。

四宮大学に北欧のマイセン王国の皇太子・ユリヤ王子が視察にやってくるところから始まります。

マイセン王国というところは、科学技術で国を繁栄させているところで、日本の化学技術の状況をみるために、実際の大学を視察するためにやってきた、というのが名目の理由で、実は、彼の母親が「マイセン王国の未来を考えるためには、四宮を知らなければならない」と遺言していたためのようです。日本の都市にひとつにすぎない「四宮」のどういう秘密が隠されているのが、というのが今巻の謎解きの一つとなります。

この謎をとくため日本に長期滞在するユリヤ王子なのですが、舞衣に対して「お妃候補の一人に加える」という問題発言や、沖野に対してマイセン王国の研究所に転籍しないかとリクルートをかけてくるなど、舞衣と沖野の将来を大きく左右するネタをふってくることになります。

そして、今巻のもう一つの軸は、このシリーズの他の巻と同様の、四宮大学の悩める学生たちの相談事の解決です。経済学の「入江」という学生の友人からの相談事なのですが、大学生活に魅力を失った様子の彼は学校にも出てこなくなり、仙人のような暮らしをしている袖崎という人物をリスペクトして、彼の忠実な弟子のようになっています。

袖崎は沖野の同級生で、大学時代、学内試験を効率的にクリアする学生の集まりである「試験対策委員会」の委員を務めるなどリーダー格の人物で、大学卒業後、大学院を経ずに外資系の化学メーカーに就職した優秀な人物だったのですが、大麻所持の前科があり、今では警察がマークを続けているという状況です。ここ四宮市では、近くの天波山で、「砂漠緑化」の研究のために何棟かのビニールハウスで植物栽培を行っているということなのですが・・という筋立てです。

袖崎の心酔するあまり、大学を中退しかける学生の引き留めと彼が犯罪者になるのを防ごうとする沖野と舞衣なのですが、その活動の中で、お妃騒動とマイセン王国へのリクルートに二人がどういう「答え」を出していくのかは原書のほうで。

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レビュアーの一言

第10巻の舞衣ちゃんがユリヤ王子から「お妃候補」のオファーをされるところではひょっとすると、と思わせるところがあるのですが、少しだけネタバレしておくと、舞衣ちゃんの「お妃話」のほうは、ユリヤ王子の本当の意中の人を射止めるために彼が仕掛けたフェイクのようですので、「舞衣」ファンの方は御安心ください。なので、シリーズ終了の怖れはひとまず回避された、と考えればいいのでしょうか。
ただ、率直な感想をいうと、キャストが固定化されてきたきらいがあるので、次巻以降はガラッと異質な新キャストの登場が望まれるところでもあります。

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