幽霊が見える娘「るい」は”不思議”の商売に手を染めるー「ぬり壁のむすめ 九十九字ふしぎ屋商い中」

江戸に暮らす町娘「るい」は、八つのときにおっ母さんが流行り病で亡くなり、十二のときに、左官をしていた父親も卒中でぽっくりいってしまい、15歳でひとりぼっちになってしまいます、彼女は住みこむで働ける奉公先を探すのですが、しばらく経つと、「あること」が原因でたいてい追い出されてしまう、という「ついていない」境遇の持ち主でもあります。そんな彼女がやっと見つけた奉公先は・・といった感じで始まる、「幽霊」が見える少女が亡者や妖しが引き起す事件を解決して、亡者をあの世へ送っていくお気楽系のあやかし時代小説のシリーズが『霜島けい「九十九字ふしぎ屋商い中』のシリーズ。

今回は、そのシリーズが開幕する第一弾「ぬり壁のむすめ」をご紹介しましょう。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 九十九字屋(つくもじや)
第二話 鴬笛

となっていて、まずは「ついていない」娘だと自覚する本シリーズの主人公「るい」が三軒目の奉公先の雑穀矢が倒産してしまい、新しい奉公先を探す道すがら、橋の橋板の縁をつかんでぶら下がってる男の幽霊をみつけるところから始まります。

彼女は幼いころから「幽霊」が見える特異体質であるのと、12歳の時に死に別れた父親が、壁の中に魂が入り込んでしまった「塗り壁」の妖怪になってしまったことが、今までの奉公先では気味悪がられて、クビになっています。今回は奉公先の倒産による失職なのですが、新しい奉公先がみつかるかどうか、激しく悩んでいる、というわけですね。

しかし、「るい」のこの悩みは意外に簡単に解決します。路地裏の奥にあった「九十九屋」という屋号を掲げた店の戸口の脇に小さく「働き手を求む」という貼り紙を見て、店の主人に会って希望を伝えると、しぶしぶながら「臨時雇」として雇ってくれたのですが、この」九十九屋」というのが、世の中の「不思議」を商う商売とわかり・・といった筋立てです。

ここから、「ぬりかべ」の父親の助けも借りながら、この「九十九屋」に持ち込まれたり、迷いこんできた不思議な出来事の謎を解き明かし、この世に残っている亡者の未練を晴らして、あの世におくってやるという「るい」の活躍が始まっていきます。

第一話は、「るい」が奉公先がつぶれて愚痴をこぼしていた橋にぶら下がっていた幽霊の未練を晴らす話。この幽霊を成仏させることが、「九十九屋」で本雇になる条件なので、「るい」もかなり必死になっていますね。
その「未練」というのが、その男(茂吉)を殺した幼馴染の「辰治」という男を懲らしめてくれ、というもの。なんでも、二人はいっしょに屋台店で食い物をだして必死に金を貯め、ちゃんとした店をもつところまでこぎつけたのですが、その店を出すもう少しのところで、辰治が、今までの蓄えを半分よこせ、と言ってきます。もし半分出せば、店をだす元手が不足するので、茂吉は断るのですが、その数日後、二人で酒を呑んだ帰り道、辰治によって橋の上から突き落とされた、という流れです。

恨みをはらすため、「るい」は茂吉を連れて、辰治に会いにいくのですが、当然、茂吉の姿は辰治には見えません。なので、茂吉に聞いた犯行の様子を辰治に伝えると、彼は番所に突き出されるのを嫌がって、「るい」に襲いかかってくるのですが・・という展開です。

もともとは、辰治が金が急に金が必要になったための犯行なのですが、そこには同情すべき事情が絡んでいることが明らかになってきます。

第二話では、九十九屋に正式採用となった「るい」が、小泉町の金物問屋の津田屋が九十九屋に持ち込んできた「いわくつきの鳩笛」の不思議を解決します。

その鳩笛はなんの変哲もない、安っぽい、子供の玩具の笛なのですが、誰も吹いていないのに、勝手に音をたて、その笛が鳴ると、店に「凶事」がおきると言うのです。一つ目は隠居していた先代の突然死、二度目は息子の栄太郎が出先で事故にあう、三度目は店の奉公人に大量食中毒がでるといったことがあって、この凶事は四度、五度と続いているということです。そして、つい三日前にもこの笛がなり、家の者も店の従業員も怯え切っているので、凶事が発生する前になんとか手を打って欲しい、という依頼です。

この笛は、以前、この津田屋に奉公していた「お房」という女中の子供の「松吉」の持ち物で、その松吉は母親が流行病で死んだあと、津田屋でひきとって丁稚奉公をさせていたのですが、一昨年、風邪をこじらせて急死しているとのこと。松吉は店のあちこちで、この鳩笛を鳴らして遊んでいたらしいのですが・・といった流れです。

津田屋の依頼を引き受けた九十九屋は、その笛を預かることとなり、笛の見張りとして、「るい」が店に泊まり込むこととなります。そして、その夜、店を5、6歳ぐらいの子供が一人、いつの間にか入り込んできて、笛を探しているようなのですが、笛が高い所にあるため思うようにいきません。じれったくなった「るい」は思わず笛をその子どもに渡してしまうのですが・・といった展開です。

この痕、鳩笛は「津田屋」で見つかり大騒ぎになったため、この不思議をなんとかするため、「るい」が九十九屋の店主・冬吾にかわって、津田屋に乗り込みます。そこで、彼女は店のあちこちに現れては消えて逃げ回る松吉をつかまえようとするのですが・・といった展開です。

その境遇から、店に恨みをもっているのでは、と疑われている松吉なのですが、この子の「純」な気持ちにほろっとさせる結末です。

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レビュアーの一言

今シリーズのはじまりとなるのは享和二年(1802年)の江戸という設定です。享和は寛政の後、文化の前の1801年から1804年までの短い時代で、公方様は徳川家斉公ですね。

享和の前は、浅間山の噴火や大飢饉のあった「天明」や松平定信がリードして幕政改革をすすめようとしてとん挫した「寛政の改革」といった激動の時代だったのですが、享和の4年間は比較的、平穏な時代であったようです。その分「あやかし」が入り込むスキマのあった時代かもしれません。

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「九十九字ふしぎ屋商い中」シリーズは2021.09.08現在で 第7弾まで刊行されています。

憑きものさがし: 九十九字ふしぎ屋 商い中 (光文社時代小説文庫)

古道具屋で買った枕が、夜な夜な赤子のように大声で泣き喚く。八幡様の祭りの絵に描かれた人物がいつの間にか増えていた――。「不思議」を売買する九十九字屋には、今日も怪しい品々が持ち込まれて……。るいは、憑きものの正体を求め、気はいいがちょっと迷惑な『ぬりかべ』の父親らとともに奔走する。切なくてほっこりとあたたかい、新感覚時代小説シリーズ第二弾!

おもいで影法師: 九十九字ふしぎ屋 商い中 (光文社時代小説文庫)

かつての上役・菅野の屋敷で、岡っ引きの源次は誰もいない場所に黒々と伸びる影を見る。まるで針仕事をしているような女の影。菅野はそこに、半年前に亡くなった妻の久がいるというのだが――。(表題作) あやかしたちが引き起こす不思議とそこに浮かび上がる人々の想い。幽霊が見えるるいと「ぬりかべ」の父親らの活躍を描く、ほっこり切ない人気シリーズ第三弾!

あやかし行灯(あんどん)~九十九字ふしぎ屋 商い中~ (光文社文庫)

親子ゲンカで家出中だったぬりかべの父・作蔵が、拐されかけていた女児を救った。親探しに奔走するるいに、九十九字屋主人の冬吾は猿江町の辰巳神社に行ってみろという。ただし神主には近づくなともいうのだが……。やがて、るいは冬吾の生い立ちに秘められた切ない因縁に気づいてゆく。世のふしぎの裏にある人やあやかしの想いを温かく描く人気シリーズ第四弾!

おとろし屏風: 九十九字ふしぎ屋 商い中 (光文社時代小説文庫)

「八枝様を助けて」。日に二度三度とるいの前に現われては訴える少女おコウの幽霊。おコウは生前、座敷牢で非業の死を遂げた八枝の世話をしていらしいのだが……。九十九字屋主人の冬吾の忠告を守らず、るいはおコウが落としたいわくありげな櫛を持ち帰り、亡魂の怨念騒ぎに巻き込まれてしまう。冬吾と八枝の間にある深い因縁とは? 好評シリーズ第五弾!

鬼灯(ほおずき)ほろほろ~九十九字ふしぎ屋 商い中~ (光文社文庫)

お盆用の鬼灯を求め、ナツと一緒に浅草寺にやって来たるいは、子供に財布を掏られそうになる。ナツが捕まえた男の子、寛太は棲む家もなく丸二日食べていないという。少年には、何やら女の亡者が憑いているようだったが……。寛太が「姉ちゃん」と呼ぶ女の正体とは?(表題作)あやかしたちと心やさしき人々の交流に胸がじんとあたたまる、大好評シリーズ第六弾。

月の鉢 (九十九字ふしぎ屋 商い中)

十五夜の二日後。店先に現れた子連れの女の幽霊が「うちの人を助けて」と言い残して消えた。九十九字屋店主の冬吾が、るいを連れて亭主の住む長屋へ急ぐと、そこには死んだように眠る男と水を張った平鉢が。抜けた魂を呼び戻そうと、鉢に手を浸す冬吾だったが……。(表題作) あやかしたちとの切なくもあたたかい交流を描く全三話を収録。大好評シリーズ第七弾!

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