井上真偽「恋と禁忌の述語論理」=美人「数理論理学者」は名探偵の推理を検証する

「名探偵が早すぎる」で犯罪の起こらない、あるいは未然防止されるという掟破りのミステリーを持ち出してきた筆者による「数理論理学」によるミステリ―が本書『井上真偽「恋と禁忌の述語論理(講談社文庫)』です。

「数理論理学」っていうのは本書によると「人間の論理構造を数学的に解析するもの」で「すべての人間の思索活動の頂点に立つもの」だそうなのですが(管理人にもここの文章の意味は分かりません)、T大学卒業後、フランスの大学で革新的な研究をし、そのままフランスの金融機関に就職して大金を儲けて退職し、セミリタイア生活を送っている、数理論理学の専門家でアラサー女性「硯」さんが、甥っ子の森帖詠彦くんのもちこんでくる、すでに市井の”名”探偵によって推理された事件の「検証」をする、っていうのが本書の流れです。

あらすじと注目ポイント>美人「数理論理学者」は名探偵の推理を検証する

構成は

レッスン1「スターアニスと命題論理」
レッスン2「クロスノットと述語論理」
レッスン3「トリプレッツと様相論理」
進級試験「恋と禁忌の・・・?」

となっていて、一話目の「スターアニスと命題論理」では、冒頭で、硯さんと詠彦くんの人間関係とか、硯さんの変わり者ぶりが描かれているので、物語のディテールを頭にぶち込んでおいてください。

事件のほうは、詠彦くんが、彼の幼馴染の「藍前ゆり」という女性に誘われて、女子大OGの女子会に参加したところで起きます。参加者は詠彦くんとゆりちゃんのほか、20代の社会人の女性4人。会場は、その中の一人の自宅で、テーブルには参加者の一人でアジアンカフェの店主をしている女性の作った「マレーシア料理」が出ていたのですが、食事中、一人の女性が嘔吐して倒れて死んでしまいます。

原因は料理のカレーの中に入っていたアニサチンという毒物。これは日本の「しきみ」の実に含まれているもので、このしきみの実と、中国系の料理でよく使われる八角(スターアニス)がよく似ていて、現場の庭に植わっていた「しきみ」の実が間違って使われてしまったのでは、とされるのですが真相は・・という事件です。

実は、この事件は、すでに「藍前ゆり」のお姉さんで、花屋をしながらいくつもの事件を解決している花屋探偵「藍前あやめ」さんによって一つの謎解きがされています。
それは妊娠していた被害者を流産させようと、子宮収縮効果のあるスターアニスを食べさせるつもりで、しきみを食べさせてしまった「事故」だというものだったのですが、「硯」さんは、スターアニスは日本に自生しないという事実から、ある別の真実の可能性を見抜き・・という展開です。

ここで、数理論理学の「公理」と「推論規則」から目的の「論理式」を導く=謎解きが展開されていくのですが、その数理的証明に幻惑されないように気をつけましょう。

第二の事件は、大阪の繁華街にあるビル内で起きた殺人事件の推理検証です。

学生ながら経営コンサルタントをしている女性の先輩・中尊寺先輩に連れられて大阪に来ていた詠彦くんは、彼女が相談にのっている経営者が所有するテナントビルで、入居しているイタリアンレストランの従業員の女性が、ビル一階の共有の女性トイレで絞殺されているのが発見されます。凶器はこのレストランの従業員用の特製のネクタイで、第一発見者はレストランの店長です。

中尊寺先輩は、被害者が犯行当時、ネクタイをしていないと推理し、彼女を殺したのは、他にネクタイを持っている店のスタッフ、つまりはレストランの店長が犯人と推理するのですが、「硯」さんの繰り出す「述語論理」を使った数理論理学による謎解き検証では、中尊寺先輩の推理の論理の弱さを見抜き・・・という展開です。

第三の事件では、夏の暑い時期、都内の原宿でランチをしている「硯」さんに、詠彦くんがほぼ半年前、山梨県の避暑地の人里離れた山荘でおきた殺人事件の推理検証を依頼します。

事件のほうは、その山荘の持ち主でS系の美少女・申神蓮花が、山荘の離れの中で鈍器で頭部を殴ら手、家電のコードで手足を椅子に縛られた状態で座らされて絞殺された状態で発見されます。

この山荘には被害者と被害者の妹になる双子の姉妹が住んでいて、犯行当夜と翌朝、離れに出入りする双子の一人が見かけられてます。さらに、庭に積もった雪には、一人分の往復の足跡が残っていて、犯人は双子のうちの一人であることが濃厚なのですが、双子の一人にはアリバイがあり、残りの一人は怪我をしていて手が不自由だったり、と犯人と決める証拠が希薄で・・という展開です。

今回は、作者の他の著作で探偵役を務める、聖痕が見える未来予知能力のある探偵「上笠丞」の推理を「硯」さんが検証をしていきます。

そして、最終話の「恋と禁忌の・・・?」では、今まで詠彦くんが「硯」さんにお願いしてきた「推理の検証」を頼んだ事件の本当の秘密と、詠彦くんが硯さんに語ってきた理由が明らかになるのですがそれは・・という筋立て。この詳細は本書のほうでお確かめください。

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レビュアーの一言>数理論理学は怖くない?

最初、本書をめくると、謎解きをする主人公が、天才的な知能をもつ数理論理学者で、あちこちに数式や論理式がずらずらとでてくるので、「これはとても無理だ」という第一印象を抱かせるのですが、大丈夫。数理論理学なんてのはちんぷんかんぷんの管理人でも楽しく読めましたし、本書でワトソン役を務める「森帖詠彦」くんも数理論理学の超初心者で、わからないことは遠慮なく、ホームズ役の「硯」さんに疑問をぶつけてくれているので、完全に理解はできなくても「雰囲気」はわかるの安心してください。

ひとまず、この「硯さん」ものは、本作だけなのですが、シリーズ化が期待される一作です。

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