内藤了「魍魎桜 よろず建物因縁帳」=人柱の旅僧に寄せた娘の純愛を浄化せよ。

広告代理店に勤務するバリキャリ・ギャルながら、怪異を呼び寄せてしまう「審神者」の才能もあわせもつ高沢春菜が、仙龍の号を持つ曳き屋師にして、古来から伝わる隠温羅流の導師である鐘鋳建設の経営者の守屋大地、守屋の会社の従業員で軽薄そのものの風貌ながら文化人類学の専門家・祟道浩一、廃寺三途寺の生臭住職・加藤雷助と、建物や山河に依った怪異を封じ浄めていく「よろず建物因縁帳」シリーズの第5弾が本書『内藤了「魍魎桜 よろず建物因縁帳」(講談社タイガ文庫)』です。

前巻では長野山中の犬神の系統の一族がかつて犬神の因縁を封じ込めた山に通すトンネル工事の現場で起きた二つの事故死をきっかけにおきた怪異を、犬神の山を「曵く」ことによって解決した春菜・仙龍チームなのですが、今回は住宅地近くの丘陵でおきた地すべりで人柱の入った瓷が出土したことで巻き起こる怪異に挑みます。

あらすじと注目ポイント>人柱の旅僧に寄せた娘の純愛を浄化せよ。

構成は

プロローグ其の一 怨念の鎖、仙龍を縛る
其の二 小林教授、祟られる
其の三 仙龍、死霊を背負う
其の四 雷助和尚、摘み草をする
其の五 春菜、死霊に憑かれる
其の六 魂呼び奇譚其の七 魍魎桜
エピローグ

となっていて、まずは、春菜が鐘鋳建設の取引している配管業者であるマイホームクラブが請け負っている家庭の配管工事の現場に呼び出されるところから本格的にスタートします。その会社はある一般家屋のリフォームをしたのですが、キッチンの台所が詰まるというトラブルが頻発します。しかも、その詰まっているものが長い女性の黒い髪の毛なのですが、そこに住んでいるのは、ふたりとも白髪の初老の夫婦。この髪の毛はいったい誰のもの?というところで、鐘鋳建設が担当した様々な現場で、「サニワ」としての能力を発揮した春菜を呼んだ、というわけですね。

案の定、彼女はその家に入ったときに、若い女性の姿をみかけたり、香水の匂いを強く感じたりと他の人が感じない「もの」を発見します。そして、彼女が「嫌な気配」がすると指摘する納戸の天井裏から見つかったのは、女性の髪をひとつかみ、髪で巻き、赤い糸で縛ったものが入れられた桐の箱で・・ということで、この排水管の詰まりが、この家の旦那の元愛人の「怨み」に起因していることがわかります。このエピソードはこれで終結なのですが、仙龍の宿命や、今巻の怪異の謎解きのヒントにもなっています。

で、本編の物語のほうは、上越市の丘陵地帯で地すべりがおき、そのとき崩れた土砂の中から鎌倉時代あたりに埋められた、竹で編んだザルに三和土や壁土などを塗って固めた「ザルガメ」が出現したのですが、その中に、一人分の人骨が座位の状態で入っているのが発見されます。この地域は昔から地すべりの多いところで、それを鎮めるための「人柱伝説」が残っているところなのですが、それが発見されてから、老婆の幽霊がでるという噂が立ち始めます。薄暮れ時になると、「ザルガメ」が見つかったあたりで老婆が、声をかけてきて、近くのお寺に行きたいのだが、道に迷ったと声をかけてきます。声をかけられた人が道を教えると、自分は足が悪いのでおぶってくれ、とおぶさってくるのですが、それがとんでもない重さ。その重さにつんのめると、いつの間にか、その老婆の姿が消えているという怪異譚です。

怪異譚はさておき、民俗学者の小林元教授は、いつものように、見つかったザルガメとそのい謂れの調査を始めるのですが、その小林元教授が怪我をしたり、老婆に出会った人たちが熱を出して寝込んだりして、という流れです。

おそらくは、この老婆の祟りだと思われるのですが、祟る理由がわからないまま、寝込んでいた人たちの中で心不全で亡くなる人もでてきます。地元では、この人柱のザルガメを掘り出したことが原因では、恐怖が広がる中、この人柱伝説で、人柱になったのが旅の僧であることや、昔、発見された丘陵地帯には、この丘に毎日お参りしてくる娘がいて、彼女が年老いて死んだ後、そこから桜が生え、今もそこに残る「魂呼び桜」だ、といった伝承が明らかになってきます。

そして、仙龍や小林元教授とともに、この地へ調査に訪れていた春菜の周辺に、老婆の姿が現れ始めます。次の祟りのターゲットは春菜では・・といった展開です。

すこしばかりネタバレすると、この人柱となった旅僧とこの地の村長の娘との「純愛」物語が、怪異の謎ときの鍵となっているのですが、そのあたりは、今回、仙龍たちが魂を鎮めるために行う「魂呼び桜」の樹木曳きの壮麗さとあわせて原書のほうでお楽しみください。

Bitly

レビュアーの一言>隠温羅流に伝わる宿命とは?

今巻では、鐘鋳建設の社長で隠温羅流の導師は、先祖代々、42歳の厄年で死んでいるということが明らかになります。仙龍に好意を寄せている春菜は、冒頭の話のところで、因縁を一つ解くと、それが黒い鎖のようになって、彼の足にからみつくところを霊視して、それが仙龍の命を奪う「因縁」であることを推理します。そして、その因縁を解く方法を、この巻あたりから真剣に探し始めるのですが、これは以後、このシリーズの一大課題になって最終巻まで続いていきます。

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