内藤了「畏修羅 よろず建物因縁帳」=春菜は会社を襲う女性の死霊を浄化する

広告代理店に勤務するバリキャリ・ギャルながら、怪異を呼び寄せてしまう「審神者」の能力もあわせもつ高沢春菜が、仙龍の号を持つ曳き屋師にして、古来から伝わる隠温羅流の導師である鐘鋳建設の経営者の守屋大地、守屋の会社の従業員で軽薄そのものの風貌ながら文化人類学の専門家・祟道浩一、廃寺三途寺の生臭住職・加藤雷助と、建物や山河に依った怪異を封じ浄めていく「よろず建物因縁帳」シリーズの第8弾が本書『内藤了「畏修羅 よろず建物因縁帳」(講談社タイガ文庫)』です。

前巻で、長野の善光寺ゆかりの寺に封じられていた、江戸期の連続猟奇殺人事件を描いた草紙が生み出した「魔」を浄化した春菜+仙龍チームだったのですが、今回は、隠温羅流の当主の因縁の秘密を探るため、古代からの伝説の残る地の調査を始める一方で、春菜の勤務する広告会社に襲来してきた女性の死霊と対峙します。

あらすじと注目ポイント>春菜は会社を襲う女性の死霊を浄化する

構成は

プロローグ
其の一 トイレの黒髪
其の二 春菜、鬼を見る
其の三 雪女の怪
其の四 神の社と瘴気の塊
其の五 吉備津の釜作戦
其の六 燃えない遺骨
其の七 畏修羅
エピローグ

となっていて、まずは春菜の務めるアーキテクツの社屋で怪異がおきるところから始まります。それは社内の清掃を担当している女性が営業フロアのところで、怪しい影に両肩を押さえつけられて動けなくなったところに、「ゆるさない、のろってやる」という呪詛の声が頭の中でした、というものなのですが、それ以前にも、男子トイレの中に長い黒髪が固まって落ちていたり、コピーが突然、黒髪がコピーされた紙をはきだしたり、といったことは続いていたようです。

この不審事は、とある大手飲料メーカーを退職して天下ってきた役員・手嶋常務がきてから始まっているので、彼が原因では、と皆が推測するのですが、当人は大会社の社員風を吹かして、アーキテクツの社員を怒鳴り散らす高慢な性格なため、誰も言い出せずにいる、という設定です。
さらに、彼は退職前の会社で、取引先の女性・佐藤伽耶と浮気をして、結婚を餌にさんざん貢がせておいて、グラビアモデルをしている若い子に乗り換えて彼女を捨ててしまった、という下劣な男で、捨てられた女性は精神に変調をきたして実家にひきこもっていることが、だんだんとわかってくるのですが・・といった筋立てです。

とはいっても、さすがに気味が悪いので、神主を呼んで「お祓い」をすることになるのですが、その儀式の前日に、手嶋の妻が自宅の前の駐車場で心臓発作で急死します。ところが、その口の中から固まった黒髪が見つかって・・という感じで、社内でおきる怪事の発生原因は常務であることに集約していきます。さらに、常務が乗り換えた浮気相手も、グラビア撮影の最中に急死したり、捨てられた女性が、常務を怨みながら自殺していたこともわかり、ということで、話は一挙に「死霊の祟り」となっていくわけですね。

一方、春菜のほうは、隠温羅流の当主にかけられた「因果」を解く方法を調べるために、鐘鋳建設のコーイチと一緒に調査にでかます。行き先は、「怨毒草紙」を浄化したときに、春菜が言った「絶対、鬼にはしない」という言葉を聞きつけて依りついてきた、隠温羅流の祖先に関連していそうな鬼が「鬼の名前はオオヤビコ、号は飛龍、吉備の生まれ」と彼女に告げたことにヒントに、隠温羅流がその名前に含んでいる「温羅」伝説の残る岡山とルーツと思われる山陰ですね。そして、最初の訪れた出雲大社で、瘴気をまとう女性の姿を見かけるのですが、そこで調査のほうは一端、中断。手嶋常務の妻や浮気相手の死亡の連絡が入り、急遽、長野へと呼び戻され、会社に出没する「死霊」の浄化を頼まれることになります。

もともとは下劣な男の仕打ちで生じた死霊の呪いなので、浄化して手嶋常務を助けるかどうかというところは悩むところなのですが、仮に手嶋を呪い殺してしまえば、死霊となった女性の霊も「鬼」化してしまうため、春菜は、彼女を救うために、男の命も助けるという選択をするわけですね。ただ、春菜や鐘鋳建設の仙龍・コーイチ、雷助和尚たちが身の危険を感じながら浄化を行ってくれるにも拘わらず、手嶋は傲慢な態度を崩さないので、ここらはそこまで、この男を助けないといけないのか、とイラつくところでもあります。

この自分を騙した男を取り殺そうと死霊と化した「伽耶」が夜な夜な男が隠れている鐘鋳建設の倉庫へやってきて、男を引きずり出そうとする様は、上田秋成の「吉備津の釜」さながらの怖さですので、心して読んでくださいね。

少しネタバレをすると浄化の終わった後、手嶋常務は頭の毛を全て失うという罰を受け、会社からも姿を消す、といった報いを受けるのですが、彼がやってきたことを考えると、もっと厳罰でもいいような気はしますね。

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レビュアーの一言>隠温羅流の秘密の一端が明らかに

今回、春菜が「飛龍」という鬼から得たり、出雲へ調査にいっての成果は、「オオヤビコ」「大屋毘古」という神に関係していそうなことや、隠温羅流の祖先は信州の人ではなく、別の地、おそらく山陰から流れてきたということと「たたら」に関係ありそう、といったところまででまだまだ周辺情報のレベルです。
次巻では、今度こそ「温羅」伝説の岡山に調査にでかけるので、そこでの成果が期待されるところです。

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