市川哲也「蜜柑花子の栄光」=悪女探偵・祇園寺恋依頼の事件には「裏」がある

髪は白に近い金色に染めていて、顔の三分の一はありそうな大きな黒縁眼鏡をかけ、缶バッジのついたピンクのスタジアムジャンパーがトレードマーク。気だるげで、しゃべりはぶっきらぼうな「不思議ちゃん」キャラながら、行く先々で遭遇する事件の解決率は100%というアイドル探偵・蜜柑花子が活躍する「名探偵の証明」シリーズの第3弾にして2021年現在でのアイドル引退後の蜜柑花子の最終話が本書『市川哲也「蜜柑花子の栄光」(創元推理文庫)』です。

前巻でミステリー作家の仕掛けた監禁殺人事件のトリックを見抜いて、「密室館」からの脱出を果たし、さらに監禁仲間の日戸涼が蜜柑花子の助手となったのですが、今巻では、何者かに脅迫された同じく監禁仲間で、「あざかわ」女子大生・祇園寺恋が蜜柑に6日間で4つの事件の謎を解くという試練を課してきます。

あらすじと注目ポイント>悪女探偵・祇園寺恋依頼の事件には「裏」がある

構成は

序章 祇園寺恋への挨拶
第一章 親と子とのバイロキネシス
第二章 教祖と人体消失
第三章 友人たちのダイイングメッセージ
第四章 姉弟とアリバイ
第五章 名探偵の栄光
終章  蜜柑花子への報告

となっていて、まずは第2弾で登場した悪女名探偵・祇園寺恋のもとへ「蜜柑花子の信奉者」と名乗る蠅マスクを被った人物たちが現れるところから始まります。

彼らは「蜜柑花子の神格化」のために、恋が関わっていて真相を見抜いていながら、解決せずに放置している事件の提供を求めてきます。この日本中に散らばった複数の事件を6日間に解決させて、蜜柑花子の名探偵ぶりを宣伝しようという目的のようです。自分の利益にならなかったり、興味を惹かないことにはまったく協力しない恋なのですが、今回は母親を人質にとられしぶしぶ言うことをきことになります。ただ、このシーンで、蠅マスクたちが恋のことを「祇園寺恋様」と呼び、蜜柑のことは「蜜柑花子」と呼び捨てにしていることは、最後のところの種明かしの重要なカギとなるので覚えておきましょうね。

一方、蜜柑花子のほうは密室館殺人事件の後、第二弾の語り手「日戸涼」を助手に雇い、探偵を開業しているのですが、小さな事件も請け負うのでスケジュールぱんぱんの状態で疲労困憊しています。ここに、祇園寺恋が、蠅マスクたちに依頼された案件を持ち込んできます。恋の悪らつさを知っている涼は蜜柑に断らせようとするのですが、恋から泣きつかれた蜜柑は依頼を受け、蜜柑・涼・恋の三人で、謎解きの旅に出かけることとなります。

まずは12月の始め、大阪でおきた焼死事件です。大阪へ「事件」を求めてやってきた恋は、我が子に「バイロキネシス」という超能力があると信じている母親とその息子、超能力の存在を信じていない父親という親子をみつけ、超能力研究所の研究者に扮して、この親子の挑発を始めます。恋の誘導にのった息子は、超能力を自分をイジメている同級生に見せつけようとするのですが、その時に、彼に声援を送った母親が人体発火で燃え上がり、焼死するという事態が発生したという内容です。恋に連れられたてきた蜜柑は、事件の現場に居合わせたいじめっ子たちから聞き取りを始めて・・という筋立てです。ネタバレを少ししておくと、犯人は「被害者の一番近いところにいる人物を疑え」というセオリーどおりなのですが、動機は驚きの内容です。

二番目の事件は、三年前に、新興宗教団体の施設でおきた人体消失事件です。その教団はマジックを奇跡にみせかけて急成長を遂げていたのですが、反対者にそのタネを暴露され、大量に脱退者がでています。危機感を感じた教祖・祐泉は教団の「大祭」と呼ぶイベントで信者たちが見守る壇上で、教団内の反対者の中心人物を消失させるという「奇跡」を演じるのですが・・という筋立てです。消失は教祖の恋人にふりをしていたアンチ教団派の女性の証言で立証されたことになっているのですが、これがトリックのキモとなっています。

三番目の事件は、埼玉県でおきた転落死事件です。今回、恋は「間桐恋」という偽名で雨宿り中に知り合った男性二人、女性一人のグループと宴会に突入していたのですが、そこででた「廃校にでる幽霊」の話を煽って、肝試しにでかけそこで、男性のうちの一人「都甲」がグラウンドの端にある階段から転落死してしまいます。そして、死体のそばに「い、い、づ」という文字が土に刻まれていて・・というダイイングメッセージものです。メッセージは「いいづか」と読めるのですが、被害者が本当に犯人の姿を見たのか?といったところから推理を始めます。

ちなみに、この話で「蜜柑」は高校時代の親友で警察官になった「中葉」と再会しています。彼との雑談の中で、彼のシズコン相手の姉・詩織里と千賀さんとの恋の行方も明らかになっています。

四番目の事件は、高知で恋が出会った、十数年前におきた猟奇殺人事件で殺された家族が企んだ復讐殺人です。自分と妻の両親を殺された男・嘉手納は、未成年のため死刑にならなかった加害者・佐藤に復讐を計画します。嘉手納は車椅子生活なため、実行犯となるのは、彼の娘・愛衣と息子・未来だったのですが、佐藤が岡山で殺された時、その愛衣には東京にいて、恋人とその友人たちとパーティー中、父親の嘉手納たちは高知で近所の人と宴会中というアリバイがあります。三人が佐藤を殺そうと考えていたのは、嘉手納が残した推理小説の中でも書かれているので、おそらくこの三人の誰かがやったのは間違いないのですが、蜜柑は彼らのアリバイを崩すことができるか・・という展開です。愛衣の恋人の正体と、高知で宴会をしていたという近所の人の証言の細かな言い回しが鍵となってきます。

そして、4つの事件の謎を解いて、恋の母親を開放することができた、と思いきやその女性は犯人によって惨殺されてしまいます。なぜなら、4つの事件のどれかに推理間違いがあったからで、しかも、それは、「恋」がこっそりと「フェイク」の事実を混ぜていたためで、と蜜柑が罠に嵌められていきます。恋とともにアメリカに連れて行かれた蜜柑が、この罠から脱出する方法は・・という展開です。

Amazon.co.jp: 名探偵の証明 蜜柑花子の栄光 (創元推理文庫 M い 10-5) : 市川 哲也: 本
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レビュアーの一言>祇園寺恋はダークサイドに居残る

第2弾の「密室館事件」で、日戸了を見事に騙しきっていたダークサイドの名探偵・祇園寺恋が、罠に嵌められ、蜜柑に助けを求めてくることから、彼女もまっとうな世界に帰ってくるのかな、と思いきや、彼女があちこちで混沌に落とし込んでいる事件を蜜柑花子が解決する、という仕立てになっています。

さらに、2021年11月現在で、蜜柑花子の高校生活を描いたビフォーものは出版されているのですが、祇園寺恋と決別し帰国後の「蜜柑」がどうなったかは霧の中です。屋敷啓次郎が意識を取り戻した後の蜜柑花子の活躍の物語が再び読めることを期待したいですね。

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