降田天「偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理」=交番勤務のへらへらしたお巡りさんは意外な名探偵

神奈川県の地方都市で小京都と呼ばれる神倉市の駅前交番には、表情にも口調にもしまりがなく、髪も警察官にしては長くて、どこかしらへらへらした軽薄な感じを与える「狩野雷太」という警察官が駐在しています。

駅前交番を訪れる容疑者たちは、彼の風貌に惑わされ、いつの間にか、自分の犯罪を丸裸にされていて、といった感じで展開する叙述系の「交番ミステリー」が本書『降田天「偽りの春 神倉駅前交番狩野雷太の推理」(角川文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「鎖された赤」
「偽りの春」
「名前のない薔薇」
「見知らぬ彼女」
「サロメの遺言」

となっていて「偽りの春」は2018年の「第71回日本推理作家協会賞(短編部門)」の受賞作です。
第一話目の「鎖された赤」は幼いころから、狭く薄暗い部屋の中で赤い着物を着せた少女の世話をするというイメージにエクスタシーを感じていた青年・宮園尊は、今は養護施設に入所している祖父の家にある「蔵」の中に、少女を誘拐してきて監禁します。

誰にも気づかれずに少女を育てるという行為に歪んだ快感を覚えていたのですが、監禁を始めて数日後、外食をしたときに蔵の鍵をどこかに落としてしまいます。このままでは少女が餓死すると、焦った宮園は素性を隠して、祖父の家のある神倉市の駅前交番で、鍵の落とし物がないか尋ねます。

その対応をしたのが「狩野雷太」という警察官なのですが、へらへらした風貌で、のらりくらりと質問されていくうちに、どんどんぼろが出て行って、といった展開です。狩野が「みっちゃん」と呼ぶ同僚交番勤めの警察官・月岡との掛け合いをしながら、容疑者が隠していく「秘密」を剥いでいく様子は見事なのですが、宮園が少女監禁に快感を覚えるようになった原因は?といったドンデン返しが用意されています。

第二話の「偽りの春」では、老々詐欺をしている水野光代ほか老人ばかりで組織する詐欺グループが、だまし取った金を同じグループの仲間・朱美と希という男女に持ち逃げされれてしまいます。さらに、彼らが詐偽をしていることをばらされたくなければ、一千万円用意しろという脅迫状まで届きます。

自分の持ち金は、仲良くしている隣のシングルマザー親子に贈りたい光代は脅迫金を別途工面するため、キャディの仕事で見つけた小金持ちの老人の家から金を盗み取るのですが、その帰り道、めまいを起こしたことで、偶然、狩野たちのパトカーに乗せられることとなり・・といった展開です。今回も、パトカーの中での会話の中で、狩野によって光代の嘘がぼろぼろと明らかになっていくのですが、脅迫状の送り主が本当に詐欺グループの仲間だったのか。といったおまけのドンデン返し付きです。

第三話の「名前のない薔薇」は、母親の入院先で、浜本理恵という看護師が珍しい薔薇を贈ってくれたことがきっかけで知り合い、恋愛関係になった看腕利きの泥棒・絵坂が、彼女と別れるときに、彼女の依頼したある家の「クリーム色の薔薇の花」を盗んで贈ったことから始まります。

数年後再会した彼女は、絵坂の贈った薔薇を栽培して「美人すぎる園芸家」として有名になっています。しかし、クリーム色のバラ以降珍しい薔薇が育成できていない彼女は、人気を守るため、絵坂に新品種の薔薇をある園芸科のもとから盗み出すよう依頼します。

そして、盗み出された薔薇を理恵が栽培しているところに、その園芸家のところから、理恵の剪定鋏が発見されてた、と神倉駅前交番の狩野と月岡が聞き込みにやってきます。薔薇の窃盗のことがばれるのかと思いきや、その園芸科のところから「薔薇」は盗まれていない、という事実がわかり・・と言う展開です。少しネタバレすると、意外なハッピーエンドが待ってます。

第四話の「見知らぬ彼女」は、同級生の女子学生・夏希とルームシェアしている美穂は、お金持ちで甘えんぼの夏樹をいつしか疎ましく思うようになってきています。その感情は、卒業制作の手伝いをさせられ、さらに実力でつかんだと思っていたデザイン会社の内定が、彼女が父親にお願いした結果だと知って爆発し、夏樹の隙をみて、スマホに日時予約をした「殺す」というメッセージを登録するという嫌がらせをしてしまいます。

ところがこのアプリにバグがあり、1月16日に予約したはずが、1月1日に作動してしまい、その日、夏樹は駅のホームから転落して大怪我をおってしまうのですが、夏樹を後ろから突き飛ばす人物がいた、という証言も現れ、美穂は自分が犯人とされるのでは、と怯えるのですが・・という展開です。

夏樹の事件の捜査を狩野が本庁時代に同僚の神奈川県警の葉桜が頼まれたところから、狩野もこの捜査に首を突っ込んでくることとなります。

第五話では、アニメの原作者の作家の目の前で、売れなくなった声優が死んでいる場面から始まります。周辺の状況から、その作家・高木カギが容疑者として拘留されるのですが、彼には犯人となりたがっているような気配があり、真実は「狩野雷太」の前でしか話さないと彼を取り調べに呼び出そうとします。森田の狙いはどこに・・といった展開です。

少しネタバレすると、この第五話は第四話から数年後の物語で、狩野雷太が本庁から交番勤務にとばされた原因も明らかになる物語です。

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レビュアーの一言

ミステリーの探偵役というと、頭脳明晰が見てわかるようなタイプと、犯人を油断させる風貌のタイプに分かれるのですが、今巻の主人公「狩野雷太」は明らかに後者のタイプで、犯人とのなにげない、人を食ったような会話で、犯人に「ぼろ」を出させてていくという典型的な「刑事コロンボ」風のオトシのテクニックを披露してくれます。
ただ、彼が謎解きで明らかにしてくるのが、犯人の犯行トリックだけではなく、その陰に隠れていた犯罪であったり、秘密も一緒に「ぼろん」とでてくるのが本シリーズの特徴です。どんな秘密が一緒に転がり出てくるかは、原書で自らお確かめくださいね。

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