「チ。ー地球の運動についてー」1〜5=地動説はかくして受け継がれていった

地球がまだ宇宙の中心で、太陽をはじめ天空の星が地球を中心に回転していることが「定説」であるとともに「神の教え」であったころ、天体の観測結果と「異端」の人々が遺した記録から「地動説」に憑かれた人々の姿を描いているのが本シリーズ『魚豊「チ。ー地球の運動について」(ビッグコミックスピリッツ)』です。

本シリーズの舞台となるのはヨーロッパの15世紀始めのP王国となっているのですが、当時、イタリアではルネサンス期であったのですが、本シリーズの舞台となるヨーロッパのほとんどの地域ではまだ科学技術の面では「中世の暗黒期」と呼ばれるキリスト教の教義が最優先であったと思われます。

そんな時代の中で、宗教的な教義と反する「地動説」を信奉する人々には多くの苦難と迫害が加えられたことは想像に難くないです。

あらすじと注目ポイント

第一集 12歳の少年・ラファウは命をもって地動説を残す

本シリーズはまず、P王国の大きな城塞都市にある教会の司祭のところで養育されているラファゥの物語から始まります。彼は孤児だったようなのですが、その頭の良さと人付き合いの良さから、ポトツキ司祭に可愛がられ、大学進学もできる境遇になっています。

ラファウ青年は、合理的に世渡りをしていくことをモットーとしていて、好きな天体観測も養父のいいつけで大学入学後はやめて、神学の研究に専念するつもりなのですが、これが父の知り合いの天文学者・フベルトと関わったことから、天文観測を続けることを決意します。

そして、フベルトの刑死後、彼の遺した石箱の観測結果をもとに、地動説を立証するため、密かに研究と観察を続けるのですが、その秘密を養父の司祭に気づかれます。実は、養父も若い頃、天文学を研究していて、異端審問で糾弾されそうになり、転向していて・・という展開です。

養父の密告によって捕縛されたラファゥは、養父と同じように転向して生きていくことを選ぶのか・・、といった筋立てです

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第二集 地動説を証明する「石箱」、再び世に出る

第二集は、第一集で獄中でラファウが服毒自殺をしてから10年後、金で決闘を請け負う「代闘士」オクジーの物語に移ります。

彼はこの地上に絶望していて、早く天国へ行きたいと願っているC教信者なのですが、彼の同僚・グラスがこの世の完璧さを証明するために「火星」の観察を続けていて、グラスが火星の逆行現象を観測したあたりから「地動説」へオグジーが導かれていく前振りとなっています。

そして、オグジーとグラスは異端審問官ノヴァク、ダミアンの依頼で異端者の護送業務に就くのですが、護送中に、その異端者から山の中腹に置かれた石箱の中に「天国などはなく、地球が天国より美しい」証拠が入っていると告げられるところから彼の運命が変わり始めます。

異端者の情報で、石箱を見つけたオグジーたちは、その中に、ラファウがフベルトに教えられて見つけた天文の観察結果と地動説の計算結果が収められていることを知るのですが、残念ながらその内容は難しすぎてオクジーたちには理解できません。

そこで、グラスのアドバイスでの知り合いの修道士・バデーニにそれを託すのですが、実はバデーニは「惑星の逆行現象」の謎をとくために異教、異端者のよって書かれた禁書を閲覧した罪で右眼をロウで焼かれた刑を受けた上で、修道院から村の教会に追放された修道士です。

石箱の中を調べたバデーニは、その中に星々の観察結果と地動説を証明する記録を見つけ「宇宙が変わるぞ」とオグジーに告げます。

封印されていた「地動説」が再び世に出現した瞬間ですね。

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第三集 天才天文少女・ヨレンタの助けで「地動説」証明は大進展

地動説を証明する記録を見つけたバデーニとオグジ−なのですが、それはまだ不完全なもので追加の観察と計算を必要とする代物です。こもため、街の掲示板に、天体の記録と数学的な能力がないと解けない問題を貼ってまわり、解答者を求めます。この掲示板は、教養のある上級市民たちが問題を出題したり、解答者になったりする掲示板で、日本でいう「算額」のようなもののようですね。

そして、問題を貼り出してわずか数時間後、その解答を記す人物が現れるのですが、それはなんと「少女」で・・という展開ですね。

この少女は「ヨレンタ」という名前の女の子で、この街にある天文研究所に付随した一般開放の図書館に勤務しているのですが、もともと優秀で、天文部署で研究したいという希望をもちながら、「女性」であるため、その途が閉ざされているという境遇です。

彼女はそれでも自らの研究成果を世に出したくて、上司に論文を託すのですが、その上司に研究成果を横取りされるという仕打ちにもあっています。

彼女は女性であるがために研究成果も発表できない境遇に憤り、バデーニとオグジーの「地動説」研究に協力をしていくことになります。

そして、「地動説」研究をすすめ、地動説を立証するためには、多くの観測データが必要となるため、ヨレンタは彼女の師匠である「天動説」の大家と言われる天文学者のピャスト伯に、そのデータの提供を求めていきます。天動説の完成に一生をかけているピャスト伯が出した条件は、「満ちた金星」という天体現象の検証です。

ピャスト伯は若い頃、その現象を見たというのですが、それは彼の信じる「天動説」を根底から否定する証拠となるものなのですが・・という展開です。
観測者となったオグジーが見た天体現象がどうだったか、は原書のほうでお確かめを。

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第四集 地動説を完成させた二人を異端審問官が襲う

ピャスト伯の持っていた膨大な観測データを手に入れた、バデーニは地動説の検証を深めていきます。

当初、真円軌道と考えていた惑星の軌道が楕円軌道であることをつきとめたり、と地動説を完成の域に近づけていきますね。

そこで、バデーニは、オグジーとヨレンタにそのことを街の酒場で報告するのですが、偶然そこでヨレンタの父親を紹介されます。

その父親というのはラファウを始め数多くの人々を異端者として摘発し、処刑へ結びつけてきた敏腕の異端審問官・ノヴァクで、という流れです。ヨレンタは父親の職業については詳しく知らないようで、バデーニが聖職者の仕事のかたわら天文や占星術の研究もしていることが会話の端々にでてきます。異端者護送のトラブルでノヴァクに殺されそうになったオグジーは顔色をかえていますね。

異端審問官であるノヴァクは、「街で偶然拾った日記に暗号がびっしり書いてあり、それを解読したら宇宙論の話が書いてあり、その中に異質な宇宙を支持する内容があった」という匿名の手紙が審問庁に届いたため、その真偽を調べにきていたようですが、偶然会った、バデーニとオグジーの会話の中に不審なものを嗅ぎつけ、彼らの研究内容を見せてほしいと迫ってきます。

研究室の中に置いていた書類などは一応、クリーンなものばかりなので、ノヴァクの疑いも晴れるか、と思われたのですが、机の上に置かれていた、異端者からもらった球状のネックレスを見つけられてしまいます。

一旦帰ったと見せかけて、手勢を連れて再びやってくるノヴァクたち異端審問官に対し、バデーニたちは逃走を図るのですが・・という展開です。

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第五集 バデーニたちは処刑されても地動説を未来へつなげる

バデーニとオグジ−が「地動説」の研究をしていることをつかんだ異端審問官・ノヴァクは二人を捕縛しようとするのですが、一旦捕まればご拷問の末、十中八九、火炙りになるのは間違いないので、オグジーたちも必死で抵抗します。

実戦経験のない新人の異端審問官たちは次々と返り討ちにあい、ノヴァク自体もあわや、という危機を迎えるのですが、後続部隊の到着でなんとか助かり、オグジーとバデーニの拘束に成功します。

そして、意識を回復したオグジーに対し、ノヴァクの尋問はオグジーに拷問を加えて、それをバデーニに見せて、石箱の所在や協力者を白状させようという方法です。
オグジーが拷問され、目を潰されるのに耐えきれず、バデーニは石箱の在り処を白状してしまい、とうとう石箱の中の記録は異端審問官の手に落ちてしまいます。10年前に死をかけて12歳のラファウが守った「地動説」の証拠もここで失われてしまうことになるのですが、バデーニはなにか策を講じているようです。

そして、中程からはバデーニ・オグジーの処刑後、残されたヨレンタの話に移ります。異端者として処刑された二人と一緒にいたため、彼女も尋問にかけられることになるのですが、どうやらこれは彼女が疑われているというより、異端審問官間の勢力争いで、父親のノヴァクの力を削ごうというライバルである助任司祭の陰謀ですね。

少しネタバレをすると、彼女は助任司祭の陰謀をききつけた新人の異端審問官によって助けられ、逃亡に成功するのですが、彼女を逃した新人くんは、かわりに殺されて「ヨレンタ」にみせかけて火炙りの刑にされます。最愛の娘が死んだと思わせて、ノヴァクを再起不能に陥れようという卑劣なやり方ですねー。

物語の最後半では、バデーニが捕まる前にセットした仕掛けで、失われた「地動説」を復活させる記録が、復元されていきます。それは、いつもホームレスにパンを与えていたオグジーの行動を利用したものだったのですが、その詳細は原書のほうでお確かめを。レイ・ブラッドベリの「華氏451度」の焚書で本が焼かれる世界で「本」がどうやって受け継がれていくかを彷彿とさせるやり方です。

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レビュアーの一言

本シリーズの舞台となるのはヨーロッパのP王国となっているのですが、ヨーロッパの地動説の歴史とかを考えると、コペルニクスが活躍した「ポーランド王国」のことを暗喩していたり、C教はキリスト教と考えればいいのでしょう。
第一巻でラファウ少年が入学したがっていた大学も、管理人の推測では、ポーランド最古の大学で、コペルニクスも在籍した「クラクフ大学」であろうかと思われます。ここは法学が有名であるとともに、天文学や数学も隆盛だったところです。
ただ、本シリーズを、地動説に関する歴史マンガと考えるのは管理人は反対で、さまざまな迫害がありながら、科学的な真実を発見し、受け継いでいこうとする人々の物語としてとらえたいですね。

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