市川哲也「放課後の名探偵」=姉依存を脱した悠介の助力で蜜柑花子は名探偵となる

「名探偵の証明」シリーズで、元アイドル探偵として、名探偵の苦悩を一身に背負いながら謎を解いていた蜜柑花子の高校生時代を描く、ビフォー「名探偵の証明」の学園ミステリーの第2弾が本書『市川哲也「放課後の名探偵」(創元推理文庫)』です。

東京から澄雲高校に転校してきて、そのおとなしめの様子から全く目立たない生徒であった「蜜柑花子」。前巻では、「姉愛」の過ぎる中葉悠介と知り合い、彼を「表向きの名探偵」として学園におきる数々の事件の謎を解き明かしていったのですが、悠介の姉・中葉詩織里も卒業し、姉への依存症を克服した悠介を隠れ蓑に謎解きを展開していきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
ルサンチマンの行方
オレのダイイング・メッセージ
誰がGを入れたのか
屋上の奇跡
エピローグ

となっていて、プロローグは、この高校の生徒らしい自殺志願者のモノローグとなっています。これは最終話のところで詳細が明らかになるので、覚えておきましょう。

第一話の「ルサンチマンの行方」のルサンチマンというのは、弱者が強者に対して抱く「妬み」「嫉妬心」のことで、最初のところだけ読むと、この話の主人公「田川泰平」が自分を無視し続ける、教室カーストの最上位者である「倉ケ崎有紀」に対してのものかと思ったのですが、実は、中葉悠介に対するものでした。

彼がイケメンであることに加えて、蜜柑花子と仲がいいことに嫉妬して、彼の声望を地に落とすために、蜜柑の財布を盗んでその罪を着せようと企むのですが・・といった展開の話です。盗まれた財布を探すふりをしながら、最初から犯人を見抜いている「蜜柑花子」の推理はさすがに名探偵の能力がフル発揮されています。

二話目の「オレのダイイング・メッセージ」では、ダイイング・メッセージが遺された事件を起こしたいと切望しているミステリ研の部長・丸山信吾が 自らの身体を使って事件を作り上げていきます。彼は部室の片づけをしている際に脚立から落ちて頭に怪我を負うのですが、怪我をしたままで校内をうろついて同級生や後輩に怪しげな印象を与えた後、部室で殺人事件を偽装するのですが、彼の遺した(偽装)ダイイングメッセージが示す犯人は・・という謎解きです。

三話目の「誰がGをいれたのか」では、第一話ででてきた教室カーストの上位者・倉ケ崎有紀が蜜柑花子に、蜜柑の机の中に死んだゲジゲジを入れた、蜜柑に醜態を演じさせようという悪だくみを計画します。彼女は、中葉悠介のことが好きなのですが、彼が自分の好意に気付かず、蜜柑花子と仲良くしていることが気に食わないようです。倉ケ崎は五限目の教室移動の時間を利用して、蜜柑の机の中にゲジゲジを仕込むのですが、六限目に教室の戻ってくると、ゲジゲジが自分の机の中に移動していて・・というなぞ解きです。ネタバレを少しすると、自分が教室内の女王様とおもいあがっていると、側にいる人間にも気づかないことがあるようです。

四話目の「屋上の奇跡」は、プロローグででてきた自殺願望者・和波和の自殺を蜜柑花子が中止させることができるのか、という話です。和波は実の父親の死後、実家を叔父に乗っ取られていて、それを悲観して屋上からの飛び降り自殺を計画するのですが、前話で蜜柑花子へのゲジゲジの嫌がらせが原因で、今まで仲良くしていた仲間たちからハブられてしまった倉ケ崎有紀と自殺争いを繰り広げることとなります。蜜柑と悠介が屋上でお弁当を食べることが習慣となっていることや、第一話で校庭のマットが片づけられていないままになっていることなど、今までの小さなアイテムが、二人の自殺阻止に活きてくることとなります。

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レビュアーの一言

澄雲高校を卒業して、大学に進学した蜜柑花子は、「アイドル探偵」としてデビューし、大活躍していくわけですが、「屋上の名探偵」「放課後の名探偵」で、悠介と過した日々がその土台になっていることは間違いなしです。

エピローグのところで、犯罪者が完全無欠のトリックを考案しても、名探偵が確実の看破してしまう理由を明らかにしているのですが、「名探偵がいるから奇跡が起こるんじゃない。名探偵が最善をつくしたとき、そこに奇跡が生まれるんだ。」という悠介の言葉に「名探偵の証明」シリーズで、自らの身体と精神をとことん消耗させながらも謎解きをする蜜柑花子の原点があるような気がします。

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