松井優征「逃げ上手の若君」3~4=信濃守護と信濃国司の「諏訪侵攻」を食い止めろ

150年続いた鎌倉幕府を滅ぼし、北条一族を敗死させた後醍醐先帝と足利尊氏に対して、信濃の神官・諏訪頼重の一族の力を借りて逆襲を図る、北条得宗家の後継ぎで「逃げ」の名手である、後の中先代の乱の主謀者「北条時行」の逃走と活躍を描く『松井優征「逃げ上手の若君」(JUMP COMOCS)』の第3弾と第4弾。

前巻までで、足利尊氏の反逆で鎌倉幕府が転覆し、得宗・北条高時はじめ主だった一族が殲滅される中、信濃に亡命した北条時行だったのですが、信濃の在地領主・諏訪一族の力を削ぐため、尊氏に任命された信濃守護・小笠原貞宗の派遣する野盗や、後醍醐帝の任命した信濃国司との戦いが展開されます。

第3巻 諏訪領の守りの要衝地で、軍師・吹雪と出会う

第3巻の構成は

第17話 教育1334
第18話 悪党1334
第19話 防衛戦1334
第20話 仏1334
第21話 出血1334
第22話 御仏1334
第23話 臣従1334
第24話 不可思議1334
第25話 神力1334

となっていて、まずは前巻の最終盤で、北の国境での小笠原貞宗の一派らしい勢力の動きを偵察するため、時行と彼の配下の弧次郎、亜也子、風間玄蕃、諏訪大社の巫女・雫のメンバーが現地の村に入ったところから始まります。

ここで、時行たちは二刀流を使う若者に襲われるのですが、雫のおかげで、その若者が「吹雪」という名前で、野盗に襲われて壊滅した村の子どもたちを集めてゲリラ戦で抵抗していることを知ります。
吹雪たちが野盗と戦っている「中山荘」は実は諏訪の守りの要に位置していて、ここから諏訪の大集落の攻略も用意になるという場所です。

この地点を確保することを狙う「瘴奸(しょうかん)」という小笠原貞宗の雇った傭兵隊長率いる野盗一派から生き残った子どもたちを守るため、時行たち「逃若党」との戦いが始まることとなります。
野盗の幹部級たちは、逃若党の弧次郎、亜也子と吹雪が始末をしていくのですが、首領格の「瘴奸(しょうかん)」は、時行が相手をします。

鎧兜、篭手で装備を固めている「瘴奸(しょうかん)」を建物の中におびきいれ、吹雪直伝んの「引き逃げる」刀使いで内小手を斬り出血させることに成功する時行に対し、「瘴奸(しょうかん)」はじわじわと時行を追い詰めようと迫ってきます。しかし、大鎧を着て鈍重な彼の動きは、素早く「逃げる」時行の動きに翻弄されるばかりで・・といった展開です。

斃れる前の「瘴奸」の回想シーンで、彼も根っからの悪党ではなく、この時代に鮮明になってきた武家の惣領相続制の犠牲者であることがわかります。

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第4巻 悪辣な信濃国司の近衛軍を叩いて、保科党を脱出させろ

第4巻の構成は

第26話 国司1334
第27話 死にたがり1334
第28話 悪酔い1334
第29話 将1334
第30話 騎馬戦1334
第31話 生きたがり1334
第32話 刺身1334
第33話 ジェネレーション1334
第34話 礼儀1334

となっていて、4月に入り二毛作の麦の収穫を始めている農民たちに、信濃国司となった清原信濃守が年貢を課すところから始まります。

鎌倉幕府の時代は表作である「米」だけに年貢を課すというのが不文律だったのですが、新政府の勢威をバックに反故にしたわけで実質的な重税ですね。鈴木由美さんの「中先代の乱」(中公新書)によると、若狭国太良荘での百姓の訴えの事例が紹介されていて、おそらく信濃や若狭だけでなくあちこちで増税の嵐が吹いていたのだろうと推察されます。

この国司の横暴に対して北信濃の諏訪神党の一員で川中島の地侍・保科弥三郎が国司に対し叛旗を翻します。大軍を擁する信濃国司+信濃守護軍に対し、少数の保科勢は圧倒的な劣勢で全滅の恐れもあるため、諏訪頼重の要請で、北条時行と逃若党のメンバーが保科のもとへ行き、戦いの停止と逃亡を説得する役目を果たすこととなります。

しかし、時行の説得も聞く耳もたず、死に急ぐ保科に対し、時行は彼の感情を逆撫でするような

といった言を吐き・・といった展開です。

そして、時行の決死の説得で逃げることを承知した保科たちに対し、信濃国司の配下の乱暴者の武将・和田米丸率いる「国衙近衛」軍が迫ってくるのですが、風間玄蕃の変装術で信濃国司軍の行き先を撹乱し、敵の武将・和田米丸をおびき出し・・といった展開です。最後の極め技は逃若党の孤次郎と保科党の四天王の連携プレーが、和田米丸を切り裂くこととなります。

最終的には、時行たちの猛攻を受けた国司の怯えもあって、無事、保科党の撤退は成功するのですが、本来なら楽勝のはずの信濃国司+信濃守護軍の保科党掃討戦の失敗劇を見ると、この後の朝廷と足利幕府との対立の先触れのような感じがしてきます。

第32話の「刺身1334」は、鎌倉時代の海の幸を思い出す「時行」に、鯛の刺身を食わそうと、「逃若党」のメンバーが鎌倉の海から鯛を獲って直送しようと奮闘する話なのですが、若君の思いに応えようとする配下の努力という美談にみせかけて、「鎌倉侵攻」の偵察行というのが企画者である諏訪頼重と雫の食えないところです。

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レビュアーの一言

今回、北条時行が脱出させた「保科弥三郎」ですが、後に時行の起こした中先代の乱に呼応して、信濃の守護所を襲撃するなど反足利の兵を挙げ、中先代の乱鎮圧後は南朝方について戦っていますね。あくまでも反足利尊氏ということなのでしょうか。
この保科氏は戦国時代は、高遠氏、武田氏、後北条氏、徳川氏と主君をかえながらも家を存続させています。保科家に養子としてはいって会津藩の初代藩主となった保科正之は徳川家光の義理の弟という説が有力ですね。さらに正之が養子にはいることによって廃嫡された元世子の正貞も上総国飯野藩主となり、今に続いています。

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