山本巧次「鷹の城」=戦国時代の密室殺人の謎解きの探偵役はタイムスリップした南町同心

戦国時代へのタイムズリップものというと、古いところでは半村良さんの「戦国自衛隊」に始まって、最近のコミックでは「信長のシェフ」「信長協奏曲」「センゴク小町苦労譚」などが数多くあるのですが、いずれも現代の人間が過去へタイムスリップしてしまうのですが、現代の科学知識や歴史の知識を活用していくというシチュエーションがほとんどです。

そんなタイムスリップものの常識を覆して、江戸時代の八丁堀の同心が、戦国時代の末期に迷い込んでしまうのが本書『山本巧次「鷹の城」(光文社)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は


狐たちの城

となっていてまずは、江戸時代の南町奉行所の定町廻り同心・瀬波新九郎が。寛永寺の裏手のあたりで盗みに入った家で主を刺殺して逃亡していた犯人を追い詰めようとしているところから始まります。

この逮捕劇の最中に地震がおきて崖から落下し、戦国時代にタイムトリップしてしまう、という結構、ベタな設定です。ただ、落下したのは江戸なのでが、タイムスリップ先は、豊臣秀吉が中国攻めをしている播磨という設定ですね。

そして、タイムスリップした先で、織田方に襲われて瀕死の重傷をおった毛利方の密使に出会います。彼は、織田勢に囲まれて籠城を決意している「青野城」へ、毛利勢が加勢を決めた事を知らせる密書を持っていたのですが怪我のため果たせず、タイムスリップした瀬波にその密書を託す、という流れです。

彼は、城内に入り、江戸時代の同心の姿にかなりの不審感をもたれながらも、なんとか密書を城主に渡します。その後、織田方に襲われるのを避けて城内に留まるのですが、そこで城内でおきた殺人事件に巻き込まれ・・という展開です。

事件のほうは本丸屋敷の武具の物置にしている奥の部屋で城の重臣の一人が刺殺されているのが発見されます。さらに、その部屋のさらに奥の壁の隠し扉の先に隠されていた、天然の洞穴を利用した抜け穴で、豊臣方の乱破が殺されているのが見つかります。そして、この乱破の死体の近くに、武具置き場で殺されていた侍・山内主膳の刀が落ちていたのですが、その刀には血曇りや刃こぼれもなく、この刀で乱破を斬ったとは思えません。

この二人を殺した犯人を突き止める探偵役に、毛利方の使者と誤解されていて、殺人の動機が一番無い瀬波が駆り出されることになったですが・・と展開していきます。
山内を殺した犯人は彼に恨みを持つ者か、豊臣方への裏切りを企んでいる人物のどちらかでは、という疑惑の広がる中、瀬波が捜査をすすめるのですが、豊臣勢の包囲の続く中、裏切りが疑われる人物も相当数いて・・という筋立てです。

話の中では、城主の娘である奈津姫との淡い恋物語も織り交ぜてありますね。

鷹の城
鷹の城

レビュアーの一言

たいていのタイムスリップものというと、主人公の歴史知識や科学的な知識や技術を使って、スリップ先の人々の常識を超えた捜査をしいくのが通例なのですが、今回は、江戸の定町廻り同心という歴史的な知識も科学的な技術も少なくて、あるのは、江戸の街で鍛えた取り調べの技術と推理力という、いささか頼りない捜査活動が進められていきます。

ただ、最後のところで、「先祖の危機を解決して、自分が存在することを確保する」というタイムスリップもののお決まり事はきちんとクリアしていますので、最後まで読んでくださいね。

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