(ネタバレあり)伊月慶吾・佐藤マコト「逃亡医F」=女医転落に隠された新薬研究不正の秘密を暴け

同僚の女性医師・八神妙子を病院の屋上から突き落とした容疑で指名手配された青年医師・藤木圭介が、全国各地を逃げ回りながら、降り掛かった濡れ衣と、女性医師が転落した理由を探り出していく、逃亡ミステリーのシリーズが『伊月慶吾・佐藤マコト「逃亡医F」』です。

彼はある大学病院の勤務医だったのですが、同僚の女性医師を屋上から転落し、重傷を負わせ、その女性医師は植物状態に。二人の間に恋愛関係はなかったのですが、警察は痴情のもつれから藤木が八神医師を突き落としたの推測して捜査をしているのですが、藤木は彼女は自殺だったと主張しています。果たして、事件の真相は、そして彼女が転落した理由は・・というのが物語の主筋です。

あらすじと注目ポイント

第1巻 気象観測船の事故を逃亡医Fが救う

まず冒頭の第1話では、同僚の女性医師の殺人未遂の容疑で全国に指名手配されている外科医師・藤木圭介とよく似た人物が、気象庁の気象観測船の乗組員として乗船してくるところから始まります。

藤木は逃亡のため、医師であることを隠し、名前も「鳴海健介」という偽名を使って、観測船の臨時の作業員として乗船しているのですが、船上生活は初めての上に、荒れた海を航海するのが常の気象観測船であるため、船酔いでボロボロの状態になっています。そんな彼に興味を持ったのが、気象観測士の沢井美香子と乗組員の橋爪です。橋詰は乗船前に、友人の刑事・志水から全国指名手配の藤木のことと写真も見ていて、「鳴海」の正体が実は藤木ではという疑いをもっています。

そして、出航から数日後、沖合で事故がおきます。海水の観測装置を吊っていたワイヤが切れ、それが美香子の腕を直撃。彼女の右腕は皮一枚でつながっている状態に切断されてしまうのですが、救援のヘリは、近くで大きな海難事故があったせいで遅れています。このままでは美香子の命が・・という状況で、藤木が逮捕を覚悟で「外科医」として務めを果たすことを決意します。

しかし、観測船のことなので、腕をつなぐための設備、特に血管縫合のための顕微鏡は装備されていません。もし右腕を失うことになれば、美香子は子供の頃からの夢であった、気象観測船の気象観測士を続けることができなくなってしまうのですが、藤木がつくりあげた即席の手術設備は・・といった展開です。

第2話では、臨時の船医として乗船を続けている藤木の乗る気象観測船が漂流しているヨットに接触します。その船には、藤木と同じ大学病院に勤めていた佐伯医師と看護師の志穂の二人が乗っていたのですが、藤木は積まれていた抗がん剤から、佐伯が膵臓がんの末期であることをつきとめます。二人は心中死するためにヨットで漂流していたようなのですが、抗がん剤のほかに制吐剤を含むビタミン剤が積まれていたことから、藤木は志穂が佐伯に隠していたある秘密に気づき、佐伯に延命手術を受けるよう勧めます。その秘密とはいったい・・という展開です。

第3話と第4話では、気象観測船を下船した藤木は過労のせいか高熱を出し、ある町の小さな喫茶店の店主・富樫に助けられます。富樫は、後継ぎだった息子を2年前に暴行事件に巻き込まれたせいで失っていて、さらに妻も息子の死で気落ちして早逝し一人きりで喫茶店を営んでいます。

助けてもらったお礼に、店主の頼みで喫茶店の住み込みのアルバイトとして、息子代わりに働くこととなるのですが、そこに富樫の死んだ息子の事件を担当していた刑事の志水が訪ねてきます。志水は「鳴海」と名乗りアルバイトをしている男が「藤木」ではないかと疑っているのですが、その志水がいる目の前で、富樫の持病の心臓発作が悪化します。

常備薬のニトログリセリンを使えばいいのですが、その処方は医師であることが必要です。藤木は逮捕されることを覚悟で処方しようとするのですが、そこで意識を取り戻した富樫が・・という筋立てです。

第5話と第6話は、喫茶店の町を離れ、別の町へやってきた藤木なのですが、話の冒頭に東北新幹線の「はやぶさ」らしい画と「けっこう賑やかで大きい町」と藤木は言っているので「盛岡」あたりの設定でしょうか。

ここで、藤木は車にはねられそうになっている男の子を助け、その時に靭帯を痛めて入院することになってします。助けた男の子は完全大血管転位症という心臓の難病で、手術を控えていたのですが主治医が不在の時に幼体が急変します。緊急手術をしないと命も危ないのですが、藤木のとった選択は・・という筋立てです。

男の子の父親は新聞記者なで、藤木の正体にも気づくのですが、かつて冤罪記事で加害者と疑われた男性を自殺に追い込んだ経験がどう影響してくるかというところが気になります。

第7話から第9話では、このシリーズのトリックスター的な役割を果たすイースト製薬の研究員をしている「烏」の登場です。実は八神医師は植物状態になってから、イースト研究所の奥多摩にある付属施設で入院治療をしているようです。

一方、藤木は糖尿病のため意識をなくしていた少女を助けた縁で、飛騨のスキー場のロッジで働いていたのですが、ここで八神医師が自殺した理由を探る手がかりとなる、八神の共同研究者だった、細菌学者の都波の行方の手がかりをつかみ、彼の向かった出雲へと向かうことを決意します。

そこへ、優秀な男性の精子を集めて私設精子バンクをつくっている烏丸が、以前から狙っていた藤木の精子の採取のため、飛騨のロッジへとやってきます。彼女から逃れるため、藤木に命を救ってもらったロッジの娘・秋美の案内で、冬山越えを試みるのですが・・・という展開です。

ここで、八神医師の転落が、藤木が突き落としたせいではなく、新薬開発のトラブルに巻き込まれた彼女が心を病んでの自殺未遂であったことがわかります。

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第2巻 女医転落死の謎を解く細菌学者を探し出せ

第10話から第11話は出雲での「都波教授」の捜索が始まります。しかし、地方都市とはいえ、全く手がかりもないところでの人探しは難航するのですが、偶然、松江のホテル内のギャラリーで、都波教授が山中で微生物を採集しているところを描いた絵を見つけます。それを描いた画家・白井によるとその絵は都波に譲ることなっているとのことで、彼女をたどって都波教授に会うことができそうです。しかし、都波教授からその画家に連絡があった時、白井は急性の緑内障を発症し・・という展開です。

第12話〜第13話は松江から浜田ヘ向かう都波教授を追って、ヒッチハイクをしているときにであった、競走馬を育成している兄妹に出会い、彼らが搬送していた競走馬の危機を救う話。競走馬を浜田競馬場へ搬送している彼らのトラックに乗せてもらって浜田に向かう途中で、搬送していた競走馬のウィンディホマレが突如体調を崩します。どうやら腫瘍ができていて、助けるためには腫瘍の摘出が必要なのですが、開腹手術をすればレースにはでられなくなり、走れない競走馬には毒殺の運命が待っています。妹の悲しむ姿を見た藤木は腹腔鏡手術を試みるのですが・・という筋立てです。

第14話から第15話は、都波教授を追って、福岡へやってきた藤木は父親の冤罪を晴らそうとしている女性・清水亜美の手助けをします。彼女の父親は数年前に、友人の諸井という男性と釣り船で海に出たのですが、そこで諸井が海に転落死、ひと月後、彼の死体が打ち寄せられます。ところがその死体の頭部に鈍器で殴られた跡があり、父親が殺人の罪で逮捕され、その後獄中死したという経緯です。

しかし、最近、死んだはずの「諸井」らしい人物を見かけたという情報があり、調べていたところだったのですが、藤木がサウナで出会った人物が、その「諸井」らしくて・・という展開です。今回は藤木の医学知識を生かして、偽装犯の諸井のあぶり出しのためのトラップをしかけます。

第16話は、双子の養蜂家姉妹を襲う蜂蜜の偽装販売をしている悪党たちを撃退する話です。最初は、妹を乱暴しようとしているところを救ったのをきっかけに、姉妹の養蜂地を奪い、さらには蜂を殺虫剤で全滅させようとする悪巧みを打ち砕きます。

第17話から第18話は、生き別れとなっている娘の結婚式に手作りの料理を密かに出したい料理人の父親の願いをかなえるお話。しかし、この父親はガンにかかっていて、その放射線化学治療のために味覚障害にかかっていて、料理をつくっても味が判定できない病状です。藤木は、彼に料理をさせるため、無断でガンの切除手術を強行していきます。

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第3巻 逃亡医F、女医転落の陰に隠れた悪党を見つけ出す

第19巻から第20巻では、フリーカメラマンをしている植物人間となっている八神妙子の兄が登場します。彼は妹を突き落としたのが藤木だと信じ込み、藤木の行方を執念深く追い始めます。この男から藤木をうまく逃していくのは、精子コレクター女子の烏丸なのですが、彼女の色仕掛けの大活躍は原書のほうで。

第21巻から第22巻は、八神医師と共同研究者であった都波教授がようやく研究室へ帰ってきます。このタームで八神医師の自殺の真因が明らかになります。
第23話から最終話にわたっては、八神医師の研究していた新薬の研究成果を横取りしようとしていた黒幕の正体が明らかになってきます。

植物状態になっている八神医師の面倒をみていることからイースト製薬が黒幕のひとつであるのは推測できるのですが、八神医師にスキャンダルをしかけ、藤木医師に冤罪をきせた関係者はもっと大きな広がりを見せます。その中には、藤木の大学時代の先輩も含まれているのですが、彼は妻が難病にかかっていることからひきずりこまれたようで・・といった展開です。

少しネタバレすると、最終的には植物状態だった八神医師の病状にも朗報が届きますのでご安心を。

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レビュアーの一言

本シリーズの読みどころはまともな手術器具のない現場で藤木医師が、その場にあるものを活用して即席の手術環境をつくっていくところなのですが、それとタメを張るのがイースト研究所の研究員で精子コレクター・烏丸の色仕掛けの採取活動など天衣無縫な動きですね。
テレビドラマでは、「烏丸京子」役は前田敦子さんが演じるようですが、さてどんな「烏丸)役が見られるのでしょうか。
ちなみの「逃亡医F」はKindle Unlimited1の対象となってます(2022年1月16日現在)ので、会員の方はぜひご一読を

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