霜島けい「あやかし同心捕物控」=「のっぺらぼう」の南町同心、江戸の怪異事件を解き明かす

江戸時代の町人文化が華やかに咲き誇った「文政年間」。江戸南町奉行所の定町廻り同心「柏木千太郎」は、腕も立ち、情にも篤く、正義感に溢れた人物なのですが、誰もが一目見たら忘れない風貌をしています。なんと、彼は目も鼻も口もない「のっぺらぼう」。

「あやかし」出身の同心が、心は優しいが風貌がいかつい同僚「片桐正悟」や千太郎を慕っていて彼の思うところが共有できる下っ引き「伊助」たちと、江戸市中で「あやかし」に関連して起きる怪事件の数々を解き明かしていく、あやかし時代ミステリーが『霜島けい「あやかし同心捕物控」(光文社文庫)』です。

第一巻「のっぺら」のあらすじと注目ポイント

第一巻の構成は

第一話 あやかし同心
第二話 ばらばら
第三話 へのへのもへじ

となっていて、本シリーズの主人公・柏木千太郎はけして化け物が同心株を買って奉行所役人になったわけではなく、先祖代々の同心であった柏木兵衛のところに、晦日には関八州の狐が集って参詣するという稲荷の総本山「王子稲荷」の娘狐・お艶が人間の娘に化けて嫁入りしてできた子供。「人間」と「あやかし」のハーフというわけですね。

なので、父親の引退に伴って、家督を継ぎ、今では、口がないので筆談による取り調べもこなし、剣術の腕もたつので、市中の江戸っ子は

火事と喧嘩と化け物は江戸の華、のっぺらぼうが十手持ちで何が悪い。

といった感じで「あやかし」の血を引く同心に好意的なようです。

で、シリーズ最初の事件は、大店の蝋燭問屋大野屋に奉公している「トキ」と名乗る序ちゅうから訴えが入ります。なんでも大野屋には「おしの」という十六になる娘がいるのですが、彼女が「乙吉」という男に惚れて逢引きを繰り返しているのですが、この男は大店の若い娘を騙しては拐わかして女衒に売り飛ばしているとその女は訴えます。

トキの訴えが本当かどうか疑わしいところが多いのですが、千太郎は乙吉の身辺を調べたところ、彼が最近行方知れずになった山城屋の娘が持っていた簪と瓜二つのものを「おしの」にプレゼントしていたことがわかります。そして、千太郎たちは乙吉をしょっぴこうとするのですが、そこに「トキ」が現れ・・という展開です。少しネタバレしておくと、トキも「あやかし」の仲間ですからね。

第二話の「ばらばら」では、大川の土手の草むらで、首と手足がすっぱりと切り落とされて要になくなっている「生きた」女の胴体が発見されるところから始まります。その後、あちこちで、女の手や足がみつかるのですが、それをその胴体に近づけると、何事もなかったかのようにくっついて生身の身体になっていきます。

そして、胴体が見つかったころ、行方知れずになっている商家のお内儀がいることがわかります。なんでも、夫婦喧嘩の末、家宝の茶碗を旦那にぶつけて壊してから行方がわからなくなっているようなのですが・・という筋立てです。商家に伝わる家宝の「茶碗」にまつわり怪異がもととなっています。

第三話の「へのへのもへじ」は、千太郎には彼の人柄に惚れこんで女房になった「お初」と五歳になる娘の「小春」がいるのですが、その小春が目鼻のない父親の顔に「へのへのもへじ」をいたずら書きします。娘の書いたものなので、そのまま奉行所へ出て、市中見回りをしている千太郎に「お父ちゃん」とすがりついてくる女の子が現れます。その子は「おりん」といって、母親・おようと親子二人暮らし。もとは武蔵の国で暮らしていたのですが「江戸へ行く」といったまま姿を消した亭主を探して江戸へでてきたということで、へのへのもへじは、父親の風貌を絵で描こうとした母親がうまく描けなくてへのへのもへじでごまかしたというもののようですね。

そして、親子を手伝って「父親探し」を始めた千太郎たちは、母親のおようが父親の声がするという三味線の師匠にうちに乗り込んでみると・・という展開です。おようとおりんの正体を推理してみてくださいね。

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第二巻「ひょうたん」のあらすじと注目ポイント

シリーズ第二巻の構成は

第一話 ひょうたん
第二話 丑の刻参り

となっていて、第一話の「ひょうたん」は、口のない千太郎が食物をとるために使っている「ひょうたん」が湯屋で盗まれる話です。

その「ひょうたん」は千太郎が幼い頃、彼の臍からでてきたもので、そのひょうたんの口から食べ物をいれると千太郎に栄養がいく、という代物で、それがないと千太郎は食物がとれず餓死してしまいます。

しかし、他の者には使い途のないもので、誰が何の目的で盗んだのか調べていたところ、その湯屋にいた一人の男の子がもっていってしまったらしいのですが、どこの子か手がかりがありません。

そんな折、庭でいる「小春」のもとに、その男の子・小太が現れます。小春とともにその姿をみた千太郎の母・お艶は彼が「天邪鬼」であることを見破るのですが、彼は「お花を守らないといけない」と言い残して姿をくらましてしまいます。「お花」という女の子は最近おきた小間物問屋の一家が皆殺しされた押し込み事件で、唯一行方がわからなくなっている女の子の名前なのですが・・という展開です。

第二話の「丑の刻参り」は、伊助の許嫁の「お由良」が、友人の「お文」がふられた男に復讐しようとして「丑の刻参り」を試みようとしたことに巻き込まれて遭遇する怪異です。

お文は不忍池の近くの林の中で「丑の刻参り」が行われているという噂をききつけて、どんなやり方をするのか見物にでかけます。それにお由良も同行するのですが、そこで不気味な女と出会い、その後、彼女が二人の近くに出没するようになり・・という筋立てです。

この話では「丑の刻参り」の藁人形が打ち付けられるのは、不忍池の近くに植えている桜の木なのですが、その桜の木には昔、植木職人がきれいな花を咲かせようとして、人の血を肥料をやっていた、という噂が残っているのですが・・という展開です。

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第三巻「とんちんかん」のあらすじと注目ポイント

第三巻の構成は

第一話 とんちんかん
第二話 憑き物

となっていて第一話の「とんちんかん」では、青物売りの行商で暮らしている「お駒」という女の子が盗人の容疑で番所へ突き出されてきます。

彼女は包丁などの打ち物を商っている杉丸屋の奉公人が集金帰りに殴られて奪われた三両の盗人として杉丸屋の番頭に番屋につれてこられています。なんでも、お駒が店に入ってきて、こっそり杉丸屋の集金袋に入った三両を店の売り物の陰において立ち去ろうとした、というのです。お駒は自分は盗んでいないと頑強に否定しているのですが、その少し前にも、彼女は別の店に盗まれた集金袋を「拾った」と届けにきていて・・という発端です。

彼女はもともとは江戸近郊の小さな村の生まれで、幼いころに洪水で両親兄弟と死別し、叔父の家に厄介になっていたのですが、不作の年に女衒に売られ、江戸へ連れてこられたところを正体不明の大男が女衒たちに襲い掛かったところを脱出した、という境遇です。

青物の行商で暮らしをたてている彼女に同情して、千太郎の母親・お艶や妻。お初は彼女に柏木家の手伝い仕事を頼んで、青物の売れ行きの悪い時の援助を始めるのですが、彼女の周囲に、女衒たちが出没し始めます。そしてそれに呼応して、彼女を守るかのように「大男」も出没し始めて・・という展開です。

お駒が洪水に見舞われた故郷の村でどんな「あやかし」に出会ったいたか、というのが謎解きのヒントになりますね。

第二話の「憑き物」の発端は、浅草寺近くの路上で一人の男が刃物で刺され、命を落としたことから始まります。ちょうど市中見回りをしていた千太郎と同僚の正悟がその現場にかけつけるのですが、刺された男・金太は虫の息。死ぬ間際に千太郎の腕を痣ができるほど握りしめ、小石を千太郎の手に無理やり握らせて死んでしまいます。

金太が掴んだ腕にできた痣はかなり重傷で、そこが盛り上がるように腫れてきます。そして、ぷっくりと膨らんだそれに眼や口のような窪みができ、話をするようになり、という「人面瘡」の怪異譚へと発展していきます。

その「人面瘡」には金太の霊が憑いているようなのですが、事件の手がかりについては「覚えていない」と何もしやべりません。しかし、彼が住んでいた長屋に目つきの悪い男がすぐさま引っ越してきたことや彼が生前得意だった「判じ絵」から、彼には生き別れになった幼い娘がいて、その娘はある大店の養女になっていることがわかります。彼が殺された原因は、このあたりにありそうで、千太郎たちは娘を養女にした大店の隠居に話を聞くことにするのですが・・という展開です。

呑んだくれで、妻を病死させてしまった男がみせる、幼い娘を守るための誠意がグッときます。

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レビュアーの一言

「あやかし」の血をひいた「のっぺらぼう」が主人公ということで、不気味な怪異ミステリーを想像する人も多いかもしれませんが、そこのところはご心配なく。江戸を舞台にした、あやかし系コージー・ミステリーといっていい物語になっています。

しかも「丑の刻参り」を除いて、登場する「あやかし」たちが知り合いの人々をどうにかして守ろうとしたり、知り合いを殺めた犯人を捕まえようとするものばかりなのが、心を暖かくしてくれるので、ささくれたミステリーや血なまぐさい時代小説に疲れた方は、これで心を解きほぐしてみてくださいな。

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