岡田屋鉄蔵「無尽」9=伊庭の小天狗は見合い話が決着しないまま、再び上洛?

幕末の四大道場といわれ心形刀流の伊庭道場の宗家の生まれで、新選組の沖田総司と並び立つ、幕府側の凄腕剣士である幕府遊撃隊隊長・伊庭八郎を主人公にした幕臣側の幕末ストーリー『岡田屋鉄蔵「無尽」(少年画報社)』シリーズの第9弾。

前巻で、将軍・家茂に従って上洛した京都で、試衛館道場の土方歳三や沖田総司に再開したものの、双方の立場が大きく隔たっていることを自覚して江戸へ帰還した伊庭八郎。江戸帰還後、ようやく将軍の警固を務める奥詰衆に正式任官されてのその後が描かれます。

あらすじと注目ポイント

伊庭八郎の奥詰衆への任官には幕閣の中からのまだ若いという反対があったようですが、講武所の教授方の重鎮・男谷精一郎や、榊原鍵吉、さらには京都で新選組と並んで、見廻組そ組織し不逞浪士取締に尽力している佐々木只三郎の強い推薦により反対派も渋々承知したようです。

警固の経験からいうと、清河八郎に扇動された浪士三人に襲撃され、それを撃退した八郎の腕前は証明済のはずなのですが、これも名門の剣士にたいするやっかみだと思われるんですが、それに屈することなく、八郎は「奥詰衆」務めや講武所の剣術指導をかっちりとこなしています。

ただ、政治情勢のほうが安泰というわけにはいかなくて、各藩を動員しての「長州征伐」は征長総督を務める尾張藩の弱腰や薩摩の西郷吉之助が長州に助け舟を出したこともあって、グダグダのまま、討伐軍は動きをとめています。

八郎たち若手の旗本は長州の横暴や薩摩の企みに憤慨しているのですが、幕府の長老方は戦争が終わりそうなことに安堵している気配がミエミエです。ただ、ここで注目しておきたいのは旗本たちの長州・薩摩に対する「反感」の強さですね。まあ、ここには江戸者が田舎者に馬鹿にされてたまるかってなところもあるのでしょうが、水戸の天狗党に対する処罰の吉厳しさに比べると長州への処罰が相当軽いものですんでいるので、このあたりは若い旗本・御家人たちには我慢のならないことだったのも頷けます。

そして物語のほうは、戦乱の気配が濃くなる西日本の情勢を尻目に、伊庭八郎の「結婚」話が過熱していきます。幕府の奥詰衆に若くして抜擢されるイケメンで、将来は江戸の剣術道場の名門「錬武舘」の十代目になるであろうことが確実な青年ですので、あちこちから見合いの話がもちこまれるのは当然のことなのですが、このシリーズでは、その一つとして義妹の「礼子」ちゃんとの話も持ち上がってきます。

彼女が八郎を慕っているのは、このシリーズの読者ならよき知っていることですし、気立てもよくて、家事の抜群の美人ときているので、平時であればすんなりとまとまっていったのかもしれませんが、幕末動乱がこれを邪魔したというシチュエーションにされています。

伊庭八郎のでてくる小説などでは、彼の恋人として顔を出す「礼子」ちゃんなのですが、史実では残念ながら八郎と夫婦になることはなく「木原家」へ嫁にいったとされていますが、ここから先の詳細はちょっと不明です。

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レビュアーの一言

本巻の最後で、将軍・家茂は三度目の上洛に出立するのですが、この上洛中に兵庫開港を決定した老中・阿部正弘たちが朝廷から咎められ、これに腹を立てて、将軍の辞職と江戸への帰還を朝廷に申し出ています。この裏には、朝廷を牛耳る公家や一橋慶喜への不信感があるったようです。すでに幕府内も挙国一致というわけではなくなっているようですね。こういうストレスの数々が若い家茂の生命を削っていったのは間違いないですね。

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