あさのあつこ「烈風ただなか」=親友の許嫁の遭遇した殺人が、父の秘密と藩の重大事件を暴き出す

江戸時代中期の石高十万石の中堅どころの「石久藩」を舞台に藩の上士の端っこの組頭の家の嫡男「鳥羽信吾」を主人公に、彼が友人の「間宮弘太郎」や「栄太」とともに、藩政の闇に繋がる陰謀に巻き込まれ、その謎を解きき明かしていく「ただなか」シリーズの第二弾が本書『あさのあつこ「烈風ただなか」(角川文庫)』です。

前巻の「薫風ただなか」では、信吾の友人・栄太の襲撃して大怪我を負わせた者たちの大量殺人が発端で、藩主暗殺の企てが明らかになり、いままで藩政を動かしていた重臣や、その反対派の中心人物の家臣が同時失脚するという大事件が起きたのですが、今巻では、前作の「薫風ただなか」では明らかにならなかった、「藩主暗殺計画」の内密の調査を進めていた信吾の父親の秘密が明らかになります。

あらすじと注目ポイント

構成は

一 年月
二 雷雲
三 風紋
四 風を受ける
五 逆風の中を
六 風雲
七 遥かに遠く
八 日に映えて
九 色なき風に
十 一葉の覚悟

となっていて、藩内情勢は、若い藩主による藩政改革の動きが急ピッチで進み、あちこちであつれきを産み始め、さらに薫風館でも、前巻の藩主暗殺疑惑事件に端を発した政変のため教授陣も変わり、信吾もこれからどういう方向に進んでいくか、決断が迫られる時期となっています。

変化は、信吾の周囲の人物にも訪れていて、前作で信吾と薫風館で一緒に学んでいた、荒蕪地の庄屋の息子「栄太」はその才能を藩に認められ、江戸で「町見術」の学問を修めるために留学していますし、親友の普請方の嫡男「間宮弘太郎」には同じ普請方の家の娘との縁談話が持ち上がってきます。。

さらに一番の大きな出来事は、鳥羽家を出て、旧友の姉・巴と同棲をしている父・兵馬之介との間に赤ん坊ができたということかもしれません。このことが父親が正式に鳥羽家を出て、信吾が家を継ぐ契機ともなるのですが、この理由は巻の後半部分で明らかになります。

そして、事件のほうは、信吾が弘太郎が家計を助けるために薫風館を退学する、と打ち明けられたついでに彼の実家を訪れたところから始まります。

弘太郎の実家の近くの林の中で、実家の近くに住む老隠居が何者かに斬られた男の死体を発見するのですが、いつの間にかその死体が消えてしまったというのです。ただ、この老隠居は最近かなりボケてきているのでてっきり幻想だろうと弘太郎たちは結論づけるのですが、その後、死体があったという林の中の小川で老隠居が浅い小川で溺死しているのが発見され・・ということで一挙に連続不審死事件となっていくわけですね。

さらに、信吾が弘太郎に、縁談相手の「八千代」を紹介してもらったところ、それまで快活に話をしていた彼女が信吾の名前を聞いた途端、怯えて悲鳴をあげて逃げ去ってしまったというエピソードが追い打ちをかけます。

何かを隠しているらしい、八千代を弘太郎とともに問いただしたところ、彼女は「砂金」が大量に入った袋を取り出してきます。実は彼女は老隠居が死体を発見する前に、斬られて死ぬ間際の男から、その砂金袋を信吾の父親に届けるよう託されていたのですが、母親の病の薬代に砂金の一部を使ってしまっていたため、信吾の名前を聞いて驚いて逃げてしまった、という経緯ですね。

ところが、この砂金袋には「石久藩」の藩主の家紋が入っていたことから、単純な砂金強盗事件ではなく、なにやら藩政にかかわり陰謀の臭いが強くなってきます。さらに、砂金の届け先として死んだ男が指定した、信吾の父に砂金袋を届けると、彼は自分の意外な正体と、

信吾の兄が落馬して急死した事故の真相を明らかにし始め・・という展開なのですが、詳細は原書のほうで。父と兄の秘密を聞いた信吾が、自分の将来をどうしていくのかも気になるところですね。

また。あさのあつこさんの時代物には珍しく、ここから大アクションシーンが連続していきますので、そこのところもお楽しみください。

ちなみに少しネタバレしておくと、信吾の父の正体が藩主の意を受けた「密偵」ではないか、という説は前巻ぐらいからあったのですが、真相はそれを上回るものですね。

Bitly

レビュアーの一言

今巻では、信吾の親友・弘太郎はともに16歳で、弘太郎はひとつ下の同じ組屋敷に住む「八千代」を嫁にもらうこととなり、弘太郎の妹・菊沙は13歳で大店の商家に嫁ぐ設定になっています。

ネットで調べてみると、当時、男子は15歳、女子は13歳で一人前とみなされていたようですが、一般的な初婚年齢は女性が16歳から17歳というのが多かったようなので、二人の結婚は若干早目ですね。

このあたりは、名目十万石ながら内実十五万石、良港をかかえて交易も盛んな「石久藩」といえども財政は厳しい状況のようで、普請方という下士の弘太郎の家はさらに家計は厳しい上に、八千代の家は病人の母親をかかえてさらに窮乏していたのでしょうから、双方早く身を固めることと、菊沙の嫁にいく商家からの支援も期待してのことかもしれません。

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