あさのあつこ「えにし屋春秋」=「縁」を結ぶも切るも、お客の注文以上に仕上げます

人の縁を結び、あるいは縁を切ることを請け負うという江戸でも珍しい商売をする「えにし屋」にさまざまな思いと悩みを抱えて訪れる人々と、その人たちの「縁」を差配する、誰もが注目する美貌の持ち主「お初」の「えにし」商売を描く時代ミステリーが本書『あさのあつこ「えにし屋春秋」』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

その一 花曇り
その二 夏の怪

となっていて、まず第一話の「花曇り」では、浅草今戸町にある「利根屋」という油屋に奉公している「おまい」という十六歳ぐらいの女の子が、雷門の裏手にある仕舞屋(しもたや)で、『えにし屋」の「お初」から化粧と着付けをされているところから始まります。
彼女は 八つの時に、妹の薬代を賄うためにこの利根屋に奉公にだされたのですが、実家ではいつも妹のために我慢をさせられていた上に、容姿ほうこうを母親から貶されてばかりだったので奉公以来、実家とは縁切りの状態です。
そんな天涯孤独に近い「おまい」が、プロの手でスタイリングされているのは、利根屋の娘・お玉が、見合いの前に行方をくらましてしまったため、正式の見合いをする前に神社の境内で遠目から「お玉」を観察したいという相手の目をくらますために代役に立てられたというわけですね。

自分の容貌に自信がない「おまい」は俯き気味に境内の中をあるくのですが、「お初」にその度に注意されるのですが、屋台の鰹節を盗んで折檻されている子供に出会い、こどもの頃の記憶が蘇り・・という筋立てです。

この後、女が代役をした利根屋のお玉は、実は子持ちの職人のところへ押しかけ女房に入っていることがわかり、連れ戻そうとする親と娘の間で揉めるのですが、娘の行動には「えにし屋」が絡んでいることがわかります。さらに、今回の見合い話にも、別の魂胆が隠されていて・・ということで、二重三重の仕掛けが隠れています。
少しネタバレしておくと、シンデレラ物語と思わせておいて、さらにどんでん返しが仕掛けられているのでご注意を。

第二話話目の「夏の怪」では、大身の旗本が奥方と離縁したいので縁切りをしてくれ、という依頼を持ち込んできます。彼は旗本の家に婿養子に入っているのですが、奥方か「鬼」に変じてしまったというのです。
といえのも、その奥方は養父の介護を長い間、一人でやっていたのですが、その養父か亡くなった通夜の夜、太腿から肉を切り出して食っていたのを目撃した、というのです。さらに、養父の妾であった女中も後をおって自害するのですが、その遺体からも肉を切り取っている跡が見つかります。
果たして、その奥方は本当に人肉を食する鬼になってしまったのか、それ以外は気立もよい女性で、旗本の侍は離縁したくない気持ちが見え見えです。「お初」は、奥方の行動に、養父との人に言えない秘密が隠されていることを推理します。
お初の推理を聞いて、この話は一旦収まったように見えたのですが、その後、嵐の翌日、大川にその旗本が浮かんでいるのが見つかります。酒に酔った上、川に落ちたのだろうと片付けられるのですが実は・・という展開です。
少しネタバレすると、奥方の本当の「心」に少し背筋が寒くなるかもしれません。

Bitly

レビュアーの一言

後半部分では、えにし屋の主人の「才蔵」や「お初」の生い立ちが明らかになるとともに、彼らを狙っているかもしれない夜盗の残党の存在が仄めかされていて、次への展開を期待させています。
この巻では、「春」と「夏」の縁切り縁結びで終わっているので、是非とも「秋」「冬」の続編を望みたいところです。

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