「SCIS 科学犯罪捜査班3」=クローン人間の謎は小比類巻の秘密へと結びつく

その天才的頭脳で13の学会の常識・主流の学説を覆す画期的な研究成果を連発するが、その革新性か学会の権威から嫌われ、同僚研究者の殺人事件をきっかけに表舞台から姿を消した天才科学者・最上友紀子と、彼女の大学時代の同級生で、警察庁のキャリア警察官僚の小比類巻祐一が、警視庁捜査一課の変わり者刑事たちを率いて、最先端の科学が絡んだ複雑怪奇な犯罪の謎に挑むサイエンスミステリー『中村啓「SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』の第三弾。

前巻では、ゾンビウィルス、VR、ナノロボットをめぐっての事件だったのですが、今巻では、ゲノム編集による遺伝子改変、クローン人間、臓器移植にからむ事件で、最上元教授と小比類巻、長谷部たちSCISのメンバーが謎解きに挑みます。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章
第一章 編集される生命
第二章 同じ夢を見るクローン
第三章 移植される記憶
終章

となっていて、冒頭のところでは、第二巻の終わりあたりからほのめかされていた、小比類巻の死んだ妻そっくりの女性に出会うことになります。彼女から自分にそっくりな顔の女子江がほかにもいることを告げられ、妻がクローンでは、と疑い始めます。そっくりさんの話を聞いて、「ドッペルゲンガー」と思うか「クローン」と考えるかで、その物語の趣向が変わってきますね。今回は科学ミステリーらしく「クローン」のほうです。

物語のほうは、第一の事件「編集される生命」で、ほとんど骨と皮のミイラのように干からびた男性の死体が、集合団地の一室で見つかる所から始まります。

死んでいた男性は、ゲノム編集の研究者で大学の現役教授なのですが、自宅の冷蔵庫の中にはたくさんの食物が貯蔵されていながら、飢餓死していた、という設定です。死んでいた菅谷教授が現在取り組んでいたメインテーマは、蚊が人の血を吸う習性をなくすために、遺伝子をいじる遺伝子ドライブの研究だったのですが、その後の聞き込みで、彼の研究室から食欲にかかわる遺伝子を操作したネッタイシマカをいれていた袋が一つ紛失していた、っていうのが謎解きのヒントになりそうですね。
そして、菅谷教授が大学に来なくなる直前、教授のところへ大手製薬会社で殺虫剤の研究をしている研究者・木下が訪ねてきていたことがわかります。その研究者の自宅へSCISのメンバーが聞き込みに向かうと、そこには飢餓死一歩手前の木下が倒れていて・・という展開です。
少しネタばれすると、木下が菅谷教授の研究室から遺伝子操作されたネッタイシマカを盗んではいるのですが、飢餓死の黒幕は別のところにいるので要注意です。

第二の事件は「クローン人間」絡みです。

自分の亡くなった妻にそっくりの女性が世の中に複数いて、しかもその一人の黛美羽という女性が自分に会った直後に、ひき逃げで死亡したことを小比類巻は、そこの何か大きな陰謀が隠されている予感を抱えるのですが、第二話の冒頭で、第一巻の「焼け焦げる脳」ででてきたトランスヒューマンを信奉するNPO「ボデイー・ハッカー・ジャパン協会」の総帥の弟が、美羽のそっくりさんに接近してきて、協会のシンボルをかたどったネックレスを渡しています。ここは後の話でも重要なエピソードになるので覚えておきましょう。

事件の本筋のほうは、関東圏を中心に9人の男児が行方不明となる事件です。その子供たちは生まれた病院が別々ながら、顔がそっくりなところから、小比類巻の妻の場合と同様、クローンではとの疑いが出るわけですね。
この男児行方不明事件と並行して、美羽のそっくりさん探しもするのですが、残念ながら、彼女は何者かによって口封じをされてしまい、小比類巻の妻の秘密を探りだすまではたどりつきません。

そして、本筋の9人の男児誘拐事件には彼らの出生に関与した産婦人科医院が関与しているのですが、彼らの目的は、9人の男児を一堂に集めてトランス状態にして、お互いの意識の共有をさせる実験なのですが、もし、この実験が成功すれば、人クローンによる人間の古来からの「願望」がかなえられることになるのですが・・という展開です。

第三の事件の「移植される記憶」は臓器移植に関連しておきる事件です。
冷凍保存している「妻」を蘇らせる方法が開発されていないか、ネットを調べていた小比類巻は、半永久的に動く、人工の腎臓を、かつて移植した腎臓と交換した人物がいる、という記事をみつけます。

そして、この人物のほかに、心臓移植をうけていた大富豪の患者が、半永久的に動く心臓と交換する手術をうけないかという申し出を受けていたのですが、それに同意しないまま、心臓を摘出されて死んでいるのが発見されます。この二つの移植の案件には何か共通点があるのでは、とSCISのメンバーたちは捜査を始めるのですが・・という展開です。

少しネタバレをしておくとしておくと、臓器移植をしたときに、移植された患者が、ドナーの記憶をもったり、性格が似てしまうことがあるという、記憶は脳内だけに保管されているのではないかもしれない、という臓器移植上の謎に関連するものなのですが。母親の歪んだ子供愛の絡んだ、なんともなーという犯罪ではありますね。

Bitly

レビュアーの一言

本巻では、本筋の事件解決と並行して、小比類巻の妻「亜美」が冷凍保存されているアメリカの企業が「ボディー・ハッカー・ジャパン協会」と関連があることが判明したり、協会の代表者とそっくりな人物が二人いたのですが、いずれも病死していることがわかったり、とこのシリーズが人間の「クローン」と「不死」という隠しテーマがあるのでは、といった印象が強くなっています。次巻以降、「小比類巻」とその妻「亜美」の物語はどう展開していくのでしょうか?

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