「正義の天秤 アイギスの盾」=女性弁護士殺しの犯人を異色経歴の弁護士たちがあぶりだす

都内有数の弁護士ファーム「師団坂法律事務所」の刑事弁護を専門に担当するチーム1の所属する、元医師、元ニート、元刑事、元裁判官という異色の過去を持つ4人の弁護士たちと、事務所の創設者の娘の甘ちゃん弁護士・佐伯芽衣が、持ち込まれた刑事事件の弁護を通じて、そこに秘められている事件の真相を暴いていく弁護士ミステリー「正義の翼」の第2弾が本書『大門剛明「正義の天秤 アイギスの盾」(角川文庫)』です。

前巻で、佐伯芽衣にリクルートされた元医師の辣腕弁護士・鷹野和也がチーム1の弁護士を大リストラした後、残留した元ニートの杉村徹平、元裁判官の桐生雪彦、元刑事の梅津清十郎という二軍メンバーが、実践を通じて力を伸ばしてきたところなのですが、今巻では、鷹野が弁護士に転職するきっかけとなった、迷宮入りしている女性弁護士殺人事件の真犯人に迫ることとなります。

あらすじと注目ポイント

構成は


第一話 アイギスの盾
第二話 黒と白
第三話 手のひらの楽園
第四話 もう一つの正義
第五話 正義の心臓

となっていて、「序」のところで鷹野が弁護士となるきっかけをつくってくれた女性弁護士・雨宮を殺した犯人の名前が「キムラヒデユキ」とわかり、彼が別の事件の被告として捌かれようとしているところが描かれます。このシーンの仕掛けは最後の話で大ドンデン返しが用意されているので、覚えておきましょう。

一番目の事件「アイギスの盾」は、鉄道のホームで女性を突き落とした容疑で訴追されている被告の弁護です。被告は、突き落とすどころか指一本触れていないというのですが、目撃証言があるため、裁判では圧倒的に不利な状況です。勝訴するための鷹野のアドバイスは「被告に徹底的に黙秘させろ」ということなのですが、その真意は・・・という筋立てdす。少しネタばれすると、この黙秘が功を奏して無罪をかちとるのですが、本筋の話はここからたぐりよせられてくる、女性の転落事故の真相です。

第二話の「黒と白」は、「チーム1」で鷹野に継ぐ敏腕弁護士・桐生が裁判官時代に陪席として裁判に関わっていた受刑者から再審要求がだされ、受刑者の母親からその弁護を頼まれます。その受刑者・出口は、当時、新聞配達員として、被害者の部屋に新聞を配っていたのですが、被害者の女子大生が刺殺され、出口の汗のついたタオルが現場に落ちていたのと、彼が被害者に好意をもってつきまとい、彼女を無断で絵に描いていた、というところから犯人とされたものです。

そして、弁護を引き受けた桐生は、当時の裁判官や出口の勤め先の新聞販売店、被害者の友人たちの聞き込むを行うのですが、桐生のもとに、被害者の血のついた「裁ち鋏」と真犯人と名乗る人物からの手紙が届けられ・・という筋立てです。

「開かずの門」といわれる再審請求をなんとかしていく桐生の手腕に喝采をおくっているうちに、再審請求に隠された真相と事件当時の事実が明らかになっていきます。

第三話の「手のひらの楽園」は、犬のブリーダーを殺害した容疑で逮捕された動物愛護弾田の女性代表・中嶋の弁護を、元刑事の梅津が担当します。中嶋は、そのブリーダーが子犬工場をやっているのではと疑い、飼育場に忍び込んだところでブリーダーが死んでいるのを見つけた、といっているのですが・・という筋立てです。調べるうちに、そのブリーダーは、子犬工場こそやっていませんが、ペットショップの売れ残った犬や猫を密かに処分しているようで、あるペットショップの店長とよくもめていたこともわかります。

このペットに処理費用で、ペットショップの店主ともめたのが殺害の真相では、と梅津はあるペットショップの店長に狙いを絞るのですが・・という展開です。

第四話の「もう一つの正義」では、お嬢様弁護士・佐伯芽衣が、常習的に万引きを繰り返す青年の弁護と、アパートの隣人を殺した罪で起訴されている男の事件を担当します。

後のほうの事件では男は一貫して犯行を否定しています。殺された被害者・川島が、過去に覚醒剤による錯乱で暴れ、通りすがりの女性を殺していて、その被害者の兄・稲森は川島を未だに許していないことがわかります。そして、稲盛の自宅の庭から、川島を刺した凶器が埋められているのが見つかり、と展開していきます。依頼者を冤罪から救ったと張り切る芽衣だったのですが、この事件を担当していたのが、前巻でチーム2のエース・波多野を敗北させた一ノ瀬検事です。彼によって、今まで芽衣の依頼人への信頼が粉々に砕かれて・・という展開です。

この芽衣の失敗に、鷹野が厳しい裁定をくだすのですが、その真意は、というところも読みどころですね。

第五話の「正義の心臓」では、鷹野が弁護士になってずっと追ってきた、「雨宮久美子弁護士殺人事件」の真犯人が明らかになります。鷹野は真犯人の名前が「キムラヒデユキ」だという密告をうけて、同姓同名の凶悪犯に接近しています。どうやら、その凶悪犯の弁護人となり、公判で復讐をしかけるつもりのようです。

一方、チーム1の他のメンバーたちも、鷹野を陰ながら支援しようと、殺された雨宮弁護士のリーガルパッドを手に入れ、独自調査を始めます。そして、その記述内容と元ニートの弁護士・杉村が担当していた事件から、雨宮弁護士殺人の意外な犯人が他の殺人事件も犯していたことが明らかになり・・と展開していきます。

真犯人を知り、鷹野が弁護士として、どう行動するか注目が集まるところです。

Bitly

レビュアーの一言

本シリーズの表題は、故事来歴に基づくものが多いのですが、今話の「アイギスの盾」は話中では架空のRPGゲームの伝説の防具とされていて、一見、故事来歴と関係ないように見えます。

ところが、「アイギス」は元々は山羊皮をつかった防具全般を指す言葉なのですが、「アイギスの盾」には、ギリシア神話のゼウスからアテナに譲られた盾という意味もあって、ありとあらゆる災厄の邪悪を祓う魔除けの盾で、ペルセウスがゴルゴンやメデューサを退治した時に使われたという神話が残っています。

ありとあらゆるものの攻撃を防御する、という趣旨からアメリカ海軍の開発した「イージス・システム」の語源となったもののようですね、

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