中村啓「SCIS 科学犯罪捜査班4」=人間を操る「寄生虫」の正体は「ハリガネムシ」?

天才的頭脳で13の学会の常識・主流の学説を覆す画期的な研究成果を連発するが、その革新性か学会の権威から嫌われ、同僚研究者の殺人事件をきっかけに表舞台から姿を消した天才科学者・最上友紀子と、癌で早逝した妻をコールドスリーウで保管し蘇生の日を夢見ている、最上の大学時代の同級生でキャリア警察官僚の小比類巻祐一が、警視庁捜査一課の変わり者刑事たちを率いて、最先端の科学が絡んだ複雑怪奇な犯罪の謎に挑むサイエンスミステリー『中村啓「SCIS 科学犯罪捜査班 天才科学者・最上友紀子の挑戦』の第四弾。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章
第一章 操縦されるヒト
第二章 増殖するヒト
第三章 原初に生まれた生命(ルカ)
終章

となっていて、まず第一の事件「操縦されるヒト」は、人気のユーチューバーの大学生3人が、自殺の名所でもある崖から、三人そろって投身自殺した事件の捜査がSCISへ舞い込みます。三人とも自殺の原因となることはなく、しかもそろって飛び降りていることから、何かのマインドコントロールが疑われたわけですね。

さらに先に自殺した三人と同じ事務所の所属するユーチューバー二人が投身自殺するという事件が連続しておきます。事件の数日前に、この五人が打ち合わせで偶然一緒になったことはあったのですが、その時に不審な様子はなく、契約更新の話をして、珈琲を飲み、提供されたスポーツドリンクを持ち帰った状況です。

しかし、その時、バイオテクノロジーの研究者で、宿主となるカマキリを操るハリガネムシの研究もしている古屋敷という人物が同席していたことから、彼が五人のマインドコントロールに関与しているのでは、という疑いがでてきて、という展開なのですが、犯罪の凶器の作成者と実行者が必ずしも同一ではなくて・・という展開で、しかも真相はかなり俗っぽい動機ですね。

第二の事件「増殖するヒト」では、SCISの紅一点である奥田莉音巡査の肩細胞が原因となります。彼女は、インフルエンザワクチンの接種で訪れた大学病院で、治験ボランティアに応募して、肩の小さな肉片を研究材料として提供するのですが、その肉片から細胞生物学者が細胞を培養して、小さな脳細胞を作り上げます。そして、それを契機に、脳だけでなく、心臓や肺などの内臓や、腕や足の組織の培養も成功し、玲音の小さな全身分のオルガノイド(試験管内で人工的につくられる臓器)がつくりあげられることになります。

これだけだと単なる先端研究似すぎないのですが、そのオルガノイドの実験を主宰していた細胞生物学者が失踪し。さらに玲音の肩の細胞からつくられたオルガノイドが盗み出され、事件は現代のフランケンシュタイン事件へと発展していきます。

第三の事件「原初に生まれた生命(ルカ)」では、最上元教授が学会から締め出され、大学を退職する糸を引いていたと疑われる日本科学界のドン・榊原茂吉古都大学名誉教授が姿を現します。彼がノーベル賞の有力候補となったのは、アメリカの学者と共同研究を行った、最小のゲノムをもった人工生命体<シンブリン>を作り上げ、さらにそれを放射線照射によって雌雄体を進化させ、地球上の生命誕生の謎の一つを解明した、ということにあるのですが、その<シンブリン>が何者かよって盗み出されてしまう、という事件がおき、科学犯罪がらみということにSCISにお鉢がまわってくる、という設定です。

この<シンブリン>という人工生命体は、研究材料として合成されたもので、実用的価値はほとんどないといっていいのですが、このシンブリンのレプリカを分けてもらって研究していた学者の研究室で不審火がおき、研究者が焼死し、レプリカも焼けてしまうという事故がおっきたことで、最上と小比類巻は、シンブリンの盗難事件に隠された、榊原名誉教授の陰謀の臭いを嗅ぎつけ・・という展開です。

ここにきて、最上教授が榊原名誉教授によって学会を追放された本当の理由がだんだんとわかり始めることとなります。

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レビュアーの一言

本巻の最終話で、八丈島にある最上元教授の研究室兼自宅を訪ねた、小比類巻警視と長谷部警部は、

見上げると、銀色の円盤が浮遊していた。・・・円盤は少しずつ降下してきた。直径二メートルほどだろうか。円盤の株に高速回転するブレードが見え、ホバリングの原理により浮上しているのだとわかった。

というマシンにのる最上元教授に出迎えられるのですが、これはアメリカのワシントン州立大学の研究チームがZEVA Aeroというベンチャー企業と開発中のこんな感じの

ワシントン州立大学提供

eVTOLではないかと推測されます。現在「空飛ぶクルマ」の開発があちこちで進められているのですが、こういうマシンが実用化されれば、空からの通勤が当たり前になるわけですね。

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