あさのあつこ「おいち不思議がたり」=人の遺した思いの見える医者志望の少女が、連続毒殺事件の謎をとく

江戸深川六間堀町の貧乏長屋「菖蒲長屋」で、町医者を営んでいる父・松庵の手伝いをしている16歳になる「おいち」は、思いを遺して死んでしまった人の姿を見たり、声を聞いたりといた特殊な才能の持ち主。

医者を目指して励む彼女が、診察の手伝いの合間に、その力を使いながら、死者の因縁の絡んだ事件の謎を解き明かしていく、ガールズ・時代ミステリーの開幕巻が本書『あさのあつこ「おいち不思議がたり」(PHP文芸文庫)』です。

主人公を取り巻くのは、昔、大名家のお抱え医師にという話があったほど腕はいい名医でおいちの父・松庵、松庵の義理の姉で紙問屋の女将・おうた、喧嘩の怪我の治療の時に「おいち」に怒鳴られたことがきっかけでおいちに惚れた飾り職人の新吉、相生町の髪結い床の主で、「剃刀」というあだ名をもつ腕利きの岡っ引き・仙五朗といった人物たちで、彼らが向こう意気が強くて、怖れを知らない「おいち」の捜査を助けていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

菖蒲長屋
雨のおとない人
初夏の謎
鬼女の眼
修羅場の男
ぴらぴら
お梅
科人の姿
真実の顔
人の世の

となっていて、まず冒頭では、石段の上から落ちて頭から血を流している男の子が連れてこられます。その子の姉が下から声をかけると足を滑らして転げ落ちたということなのですが。おいちには、その子を背中から押す、白い手の幻が見えて・・と、「おいち」の不思議な能力が事故の真相を見つけ出すところから始まります。

彼女は、誰かの憎悪とか想いや妬みといったものを抱えていると、それが「見える」という特殊な能力をもっていて、その夜も、苦しみ、助けを求める女性の姿を戸口に見るのですが、その女性の姿が、おいちの縁談話で持ち込まれた大店の生薬屋・鵜野屋の若旦那・直介の背中にのっているのを再び見ることとなります。

その若旦那は、昔、父親の代の時、店が潰れそうになったときに「おいち」の父親の助けられた恩返しに、高価な生薬を卸値で提供したいと申し出るなど、人柄の良い人物のよおうなのですが、店を訪ねた時、おいちは、そこの女中から若旦那は、前の奥さん・お加代を毒殺した「鬼」だという話を聞かされます。さらに「お加代」だけでなく、「お梅」という下働きをしていた娘も心臓発作で急死していたことがわかります。

その「お梅」の風貌はおいちが夜中に見たり、若旦那の背中にのっているのをみた女性にそっくりらしく・・という展開です。

心臓発作を起こして死んでしまう毒物といえば「トリカブト」が有名なのですが、強心作用や鎮痛作用があるため、そのまま使うことはないのですが、加熱したりして毒性を弱め、漢方薬の材料としても使われていたものがあるので、生薬屋の関係者であれば、手に入れることも可能であったわけですね。

女中によって「毒殺魔」とされた若旦那は、「おいち」の縁談の相手にもあり、それからも、父親の商売を助けてくれたお礼、として、おいちの父親のところへ、高価な薬を惜しげもなく届けてくれます。何度会っても、二人の女性を殺した「鬼」のような人物とは思えないのですが、彼と所帯をもつと、おいち」にも毒殺の手が伸びるのか・・・という筋立てです。

そして、死んだお加代の実家「白水屋」で過去に、「おさん」という年配の女中が同じように心臓発作で急死していたということを知った「おいち」は四番目の犯行を阻止するため、鵜野屋に急ぎます。そこでは、おいちに若旦那を「鬼」と罵った女中・お徳が若旦那にお茶をもってきているところで・・という展開です。

ここで、ふむふむ犯人は、と推理したあなた。実はこの先に二度三度のドンデン返しが用意されているので、原書のほうでお確かめください。

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レビュアーの一言

この作品は「ガールズ・ストーリーーおいち不思議がたり」として2009年に刊行されたものなのですが、未だ古びない青春時代ミステリーですね。

この後「桜舞う おいち不思議がたり」、「火花散る おいち不思議がたり」、「星に祈る おいち不思議がたり」とシリーズ化されています。威勢のいい江戸娘「おいち」のファンとなった方には、おいちの成長の姿が楽しみなシリーズとなっています。 

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