佐々大河「ふしぎの国のバード」9=バードは青森での山地災害を乗り超え、函館に到着する

明治初期、戊辰戦争の影響がまだ残る上、交通事情や衛生事情も現在とは比べものにならないほどの悪条件の中、日本各地を踏破し、当時の「日本」の諸事情を記録したイギリス出身の女性冒険家・イザベラ・バードの横浜から、日本海側へ抜けて北海道へと至る「日本奥地紀行」の大冒険を描いたシリーズ『佐々大河「ふしぎの国のバード」(ハルタコミック)』の第9弾。

前巻で、当時の東北の大都会「秋田」できちんとした宿舎に泊まって体を安め、その宿屋の娘の、家柄が釣り合わないため親から反対されている祝言に出席したバードは、大荒れの天候の中、米代川を遡上して函館へむかって歩みを進めています。

本巻では、青森県内で土砂崩れに巻き込まれる災害にあうのですが、それを乗り超え、津軽海峡を渡り、函館へ至るまでが描かれます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第41話 碇ヶ関①
第42話 碇ヶ関②
第43話 黒石
第44話 津軽海峡
第45話 函館

となっていて、冒頭では、青森県の内陸部の南端、現在では平川市になっている「碇ヶ関」を越えるバードたちの姿が描かれます。ここはかつては、江戸時代は津軽藩と秋田の佐竹藩の教会として関所や町奉行所が置かれたり、参勤交代の時の宿舎もあった温泉郷のようです。本巻では、豪雨災害によって山崩れに襲われ、碇ヶ関内の山間の集落で陸の孤島の中で数日を過ごすこととなります。

もともとのスケジュールでいえば、7日以内に函館へ到着し、そこでヘボン医師の治療を受ける予定であったのですが、交通遮断が長引くこととなります。バードは、その地で、住民のつくった赤松の内皮を挽いて固めて蒸した「松皮餅」などの救荒食をとりながら、住民たちの怪我の治療にあたることとなります。

この災害の中で出会ったのが、災害や世情が良くないときに改めて正月行事を行って祝い、心機一転を図る「取越正月」という行事です。バードは村の長老から、村人の治療のお礼に備蓄食料を使った正月料理をふるまわれ感動しているのですが、そのついでに、正月餅とキリスト教の聖体のパンとの共通点を考え出すところには、彼女の探検家であるとともに、文化人類学者的な側面を見るような気がします。

巻の後半では、黒石を経て、青森港から外輪船で函館へ到着します。

この航海ではひどい荒波にみまわれていて、外輪船についてのバードの講義はさすが旅なれていると思わせるところです、さらに、彼女がチャールズ・ダーウィンと面会し、極東の地まで旅をするようすすめられるあたりの回想は、彼女の探検家としての原点が描かれていて興味深いですね。

そして、秋田での情報では、ヘボン医師は7日勘程度しか函館には滞在できないという話でしたが、ありがたいことにスケジュールを組み直して、バードの到着を待っていてくれたようです。おかげで、ここで背中の古傷の治療を受けるのですが、症状はかなり悪化しているようで、環境が厳しくなる一方の「蝦夷旅行」では相当の苦難が想定されるところです。

ただ少しネタバレすると、彼女は蝦夷地探検を1878年9月まで行った後、10月からは西日本の神戸、大阪、京都を旅しているので、命には別状ないので安心して物語の展開を楽しみにしましょう。

ふしぎの国のバード 9巻 (ハルタコミックス)
ふしぎの国のバード 9巻 (ハルタコミックス)

レビュアーの一言

バードの蝦夷地探検では、函館駐在のイギリス領事・ユースデンの力で、北海道内の開拓使の宿舎の優先利用などの特権を使えることとなり、旅行環境としてはかなり改善が期待できることとなります。これは、イギリス国民であるバードへの特別な援助ともとれる行為ですが、実は、北海道の地政学的な戦略価値を重視した国家戦略として、バードの旅を助け、北海道の地理、気候の情報を手に入れるという意味が隠れています。

というのも、函館には当時のロシア帝国も領事館を置いていて、不凍港の確保のため北海道の港の確保を狙っていて、それを牽制する必要があったわけですね。大国による国際政治のせめぎ合いに巻き込まれる可能性のあるのは、東欧や中東・アフリカだけではないようですね。

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