畠中恵「えどさがし しゃばけ外伝」=「しゃばけ」をめぐるビフォー・アフターの物語のア・ラ・カルト

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」と「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で活躍するファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの外伝の第一弾が本書『畠中恵「えどさがし しゃばけ外伝」(新潮文庫)』です。

弘法大師によって猪除けとして料紙に描かれた犬神が抜け出た「佐吉」が一太郎の「兄や」として彼のお守りをすることになったいきさつや、時代を経て明治になって、長崎屋とそこにいた妖(あやかし)たちがどういう生活をしているかが描かれます。

収録と注目ポイント

収録は

「五百年の判じ絵」
「太郎君、東へ」
「たちまちづき」
「親分のおかみさん」
「えどさがし」

となっていて、まず第一話の「五百年の判じ絵」は、もともとは空海こと弘法大師に師事していたのですが、その没後、この世にある目的を見失い、日本国中を放浪していた佐吉が、江戸時代になり、三島宿の茶屋で古そうな「判じ絵」をみかけるところから始まります。それには末尾に書いてある宛名らしきところに、「鮭」の絵が半分、鳥の巣、頭のところ指さしている人、絵が描かれていて、解読すると「さすけへ」と読め、どうやら自分に充てた「判じ絵」ではないと思い始めます。

そして、判じ絵のことがきになりながら旅をしている道中に、主人のために葡萄を運んでいる朝太という奉公人や、壊れた稲荷神社の修繕のために売り飛ばされそうになっている娘に化けた狐に出会い、という展開で、この判じ絵に導かれて、一太郎の祖母・お銀と出会い、という流れで、彼が一太郎のお守りをすることになった経緯が描かれます。

第二話の「太郎君、東へ」は、利根川の河童を統べる禰々子のもとへ、荒川の河童たちが領土争いにやってきます。彼らは、利根川の化身である「坂東太郎」に唆されてやってきたらしく、彼らを撃退後、太郎を問い詰めると、最近、川の大掛かりな普請を始めた者がいて、それがもとで不機嫌になり、川の流れをひどく荒くしている様子です。

太郎が機嫌がおさまらず川が荒れたままだと、河童の暮らしにも差し支えるため、河川改修をしている人間たちのところで様子を探っているいるうちに、そこの現場指揮を務める武家と彼の元許嫁の恋バナに巻き込まれ・・という展開です。

第三話の「たちまちづき」では、上野の広徳寺の僧侶で「妖封じ」で名高い高僧・寛朝のもとへ、大きな口入れ屋を営んでいる安右衛門・お千夫婦がやってきます。この夫婦、妻のほうがとても強い夫婦なのですが、妻のお千のいうことには、亭主には女の妖「おなご妖」がついていてそのため、亭主が軟弱なのだと主張します。「おなご妖」という妖など誰も聞いたことがないのですが、お千は、高名な寛朝なら、この妖を祓えるはず、祓えないなら評判倒れだと主張して・・という展開です。

この後、この妖怪のたたりなのか、安右衛門が暗がりで何者かに襲われて怪我をして、といった事件もおきて・・と物語が動いていきます。

第四話の「親分のおかみさん」は、長崎屋でおきる事件でもいろいろ面倒をみてくれる「日限の親分」清七におかみさんの話です。清七のかみさんの「おさき」は病弱で、寝込むことが多いのですが、あるとき、彼女が臥せっているとき、男の赤ん坊が家の土間に捨て子されます。

この子の面倒をみたり、引き取り先をさがしているうちに、そこに隠れていた、盗賊たちの悪だくみに気付き・・という展開ですね。この話で、「日限の親分」のところに、なさぬ仲のせがれである「清吉」ができた経緯がわかります。

最終話の「えどさがし」の舞台は、「江戸の地が東京と称するようになって、二十年以上の時が流れていた」とあるので、少なくとも明治20年以降の東京の銀座。ここで、「京橋」という名を名乗っている「仁吉」と長崎屋にすくっていた、貧乏神、屏風のぞきや家鳴たちが、新聞社の記者の射殺事件の謎をとく話。「仁吉」と妖たちは、ここで会社を営みながら、すでに亡くなった「若だんな」が生まれかわってくるのを待っている、という設定ですね。

事件の謎をとく鍵は、明治になってこれからの暮らしに不安を抱く元武家の老人たちにあるのですが、詳細は原書のほうで。

ちなみに、「仁吉」が出会う、妖あがりの「秋村」という巡査の語る

秋村によると、明治になってからこっち、アーク灯の光の下に、時々姿を現す妖達をみかけるのだそうだ。もっとも強い光の側には、濃い闇がある。人ならぬ者達は、その闇に巣くいつつ、表に出ているのだろうという。

というあたりには、同じ筆者の「明治・妖モダン」シリーズに通じるものがあるように思えます。

Bitly

レビュアーの一言

第二話の「太郎君、東へ」では利根川の改修工事がテーマとなっているのですが、利根川の大規模改修工事が始まったのは、徳川家康が江戸入りをしたころで、この話にもでてくる「会の川」の締め切りが文禄3年(1594年)とされているので、この話自体は、「しゃばけ」シリーズの舞台よりも随分、昔の江戸初期のことと推測されます。

江戸時代初期の「江戸」の様子については、門井慶喜さんの「家康、江戸を建てる」や「徳川家康の江戸プロジェクト」あたりに江戸建設にかかわった多くの人物伝がでてるので、興味の湧いた方はぜひ。

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