畠中恵「またあおう しゃばけ外伝」=「しゃばけ」のアナザーストーリーふたたび

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」と「鳴家」、「屏風のぞき」といった妖怪たちが、江戸市中で活躍するファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの外伝の第二弾が本書『畠中恵「またあおう しゃばけ外伝」(新潮文庫)』です。

第一弾の外伝では、若だんな・一太郎と出会う前や、一太郎がすでにこの世を去ってからのエピソードが多かったのですが、第二弾では、一太郎が病気で臥せっていたり、他所へ出かけている間の周辺のエピソードを中心に語られます。

収録と注目ポイント

収録は

「長崎屋あれこれ」
「はじめてのお使い」
「またあおう」
「一つ足りない」
「かたみわけ」

となっていて、まず第一話の「長崎屋あれこれ」は、物語の大半は熱を出して寝込んでいる若だんなの一太郎から、長崎屋の離れに巣くっている妖たちや、一太郎の祖母である大妖のおぎんの命令で長崎屋の女将のおたえたちを守っている守狐のことなどが語られます。そのうちに、長崎屋の菩提寺でもある広徳寺の僧侶・秋英から語られる、妖退治で名高い寛朝や寛永寺の寿真のエピソードが語られます。今話は大きな事件がおきることもなく、ほんわかとした長崎屋の離れの風情といったところです。

第二話の「はじめてのおつかい」では、戸塚の猫又や猫を統べている猫又の長「虎」に長崎屋からたくさんの猫又柄の手拭が贈られてきた返礼に、虎のひ孫の「虎次」と、藤沢宿の長のひ孫「くま蔵」が、長崎屋の若だんなに「きつね膏薬」を届けに江戸へ初めて旅をする、という話です。

お礼の品の名薬のほかに、たっぷりと旅の資金をもらって江戸を目指す虎次とくま蔵なのですが、「おのぼりさん」であることは明々白々で、現在の保土ヶ谷あたりにあった境木の茶屋で雲助に金と薬を盗まれたり、猫を捕獲して三味線屋に売ろうとしている口入屋の奉公人から猫を助けたことで因縁をつけられ、副業として盗人をしている口入屋たちを、江戸の長崎屋まで案内して盗みの手引きをさせられそうになったり、と「はじめてのおつかい」らしく、たくさんのトラブルに見舞われていく、という展開です。

第三話の「またあおう」では、熱を出して寝込んでしまった若だんなの代役で、貧乏神の金次と屏風のぞきの風野が、それぞれが所蔵している古い書物や巻物、絵を見せあう会合に出席します。ところがその席で、突然の突風に襲われ、書物や絵がびしょ濡れになったことから、それらに憑いている付喪神を守るため、金次たちが長崎屋のそれらを持ち帰ったことから「不思議」が舞い込みます。

こうした古い書物などについている付喪神は、新しい素材で修復すると妖力を失ってしまう怖れがあることから引き取ったのですが、修復して力を取り戻した古物のうち、「桃太郎」の草双紙の中に貧乏神の金次や屏風のぞき、家鳴たちが引きずり込まれるという怪異がおきて・・という展開です。鬼退治の昔話が書かれた草紙が長い保管の末に、平和方向に変質していくのが、このシリーズらしい展開です。

第四話の「一つ足りない」は、中国から渡ってきた九千坊という河童の頭領が、一旦落ち着いた九州で、河童の天敵・猿の悪だくみで、その地の領主・加藤清正に疎まれて、東国へ配下を連れて逃れるのですが、そこでも再び猿からの圧迫に遭遇します。

しかし、九千坊の持っている人間の言葉を喋れるようになったり、人間の変身することのできる「玉」を奪うために、利根川の河童の頭領・禰々子河童を拉致したことから、河童vs猿の全面戦争に発展し・・という展開です。

もちろん、戦闘のほうは、目を覚ました禰々子河童の剛力によって猿+人間勢力がこてんこてんにやられることになるのですが、これが九千坊の九州復権へとつながっていきます。

第五話の「かたみわけ」は、妖退治で有名だった広徳寺の寛朝が亡くなって、彼が封じ込めて保管していた怪異が現れる品を、檀家の希望で、形見として渡してしまったことから起きた怪事件です。

渡した品の多くは返ってきたのですが、鳥の根付、猫の絵が描かれた文鎮、美人絵の掛け軸、幽霊画、ビードロの金魚の5つの品にあわせ、「失せし怪異」と呼ばれる謎の品物が行方不明になってしまいます。そのうち、寺の家鳴のいくつかが行方知れずになったり、寺に現れた幽霊画から抜け出た幽霊によって、寛朝の孫弟子・寛春が連れ去られてしまい・・という展開です。寛朝の後継者である秋英が、妖たちの協力を得て、妖封じの第一人者に成長していきます。

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レビュアーの一言

第二話で、とら次たちが、若だんなへのお礼として持っていく、「きつね膏薬」は、藤枝宿、今の藤枝市の名薬です。現在の藤枝市と焼津市を流れる瀬戸川の川庄屋のところへ急いで川を渡りたいと美しい娘がやってきます。同情した川庄屋は自ら肩に乗せて向こう岸に渡すのですが、娘がお礼とそて出してきたお金はよく見ると「桜の落ち葉」に変わっています。怒った川庄屋が脇差で切りつけると、娘は狐に変じ、前足を切り落とされて逃げていきます。この狐の前足を返すのと引き換えに教えてもらったのが、傷によく効く「きつね膏薬」であった、という民話に基づくものですね。

ただ、「きつね膏薬」という名薬は、今の岐阜県の中津川にもあって、村人から袋叩きにあって怪我をしている狐を助けた老百姓がお礼に傷によく効く膏薬の作り方を教わる、というもので、怪我をした狐に名薬の作り方を教わるという構造は似通っています。

日本人の思考スタイルの中に、狐はどんな傷も直すことのできる不思議な能力を持つ霊獣、といった意識がビルトインされているのかもしれません。

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