日本の伝統建築に隠された世界遺産の謎を見つけ出せ=蒼井碧「建築史探偵の事件簿」

奈良の大学で建築史を専攻する「死人」のように生気のない不気味な目の持ち主である主人公・不結論馬(ふゆいろんま)が、義兄と同じ大学で歴史学を専攻する目つきも、気も強い女性学者・由布院蘆花とともに、有名な自然遺産や建築遺産でおきる怪奇殺人の謎を解きながら、日本の古代からの建築物に隠された世界史級の秘密に導かれていく建築史ミステリーが本書『蒼井碧「建築史探偵の事件簿」(宝島社) 新説・世界七不思議』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 巖竜洞の殺人
第二章 金字塔の雪密室
第三章 石灯籠の不可能犯罪
エピローグ

となっていて、まず第一話は、今巻の主人公・不結論馬が高校生の頃、岩手県の一関市の鍾乳洞・巖竜洞で出くわした事件です。
その鍾乳洞には、鎌倉の初期、当地を納めていた奥州藤原氏派の武士が、鎌倉勢に攻められ洞内で自ら首を切り落として自害したという伝説が残っているというのを、宿屋の老女将から聞きます。その伝説が呼んだのか、彼と同行していた別の大学のアウトドアサークルの一団のうち二人の男女が道に迷ったのか、洞内で行方がわからなくなってしまいます。そして、その洞窟の中に入ったところで、二人のうちの男性が首を切られて死んでいるのが発見されます。さらにその奥で、女性のほうが地底湖の中で溺れて死んでいるのが発見されます。
二人がどこにいたのかは、サークルのメンバーは誰も知らないなか二人を殺害したのは・・という謎解きです。もっとも、謎解き自体はあっさりと種明かしされて、今話の中心は、事件の舞台となった岩手県で、平安時代に覇を唱えていた奥州藤原氏の建立した中尊寺、毛越寺、観自在王院、無量光院の庭園で、伝説のバビロンの空中庭園が伝承されている、というもの。ここでは、平泉の庭園だけではなく、日本の庭園の起源はバビロンの空中庭園だった。というトンデモ説が展開されています。

第二話の「金字塔の雪密室」の殺人の舞台となるのは「富士山」です。この話で、結馬は義兄の後輩学者である由布院蘆花と出会い、彼女の研究テーマである富士山の山岳信仰の協力者である民間研究者を紹介するため、山梨県の富士吉田市の「天金白山荘」という山荘で事件に遭遇することとなります。
ここで結馬と由布院は身体に障害をおったり、精神を病んで将来を悲観している5人の男女に出会います。かれらはその山荘が山際に所有しているログハウスに泊まっているのですが、翌日、折り重なった刺殺されている状態で発見されます。全員が朝食にやってこないのを不審がった宿の女将と結馬と由布院が向かうまで周囲には雪が積もっていて足跡もなく・・という筋立てです。
今回のトンデモ話は、富士山とギザのピラミッドとの類似性ですね。

第三話の「石灯籠の不可能犯罪」は、結馬の妹の那綱の同級生・鞠子の実家の石材店でおきた火事騒動です。その石材店は経営のほうが思わしくなく、従業員が待遇に不満を持ち始めているという放火がおきそうな環境はあるのですが、問題は火の気のない石材の資材置き場でどうやって火を点けたのか、というところですね。
謎解きのヒントになりそうなのは、火事がおきた当日、資材置き場の正面に「石灯籠「が立っていたというところなのですが・・という展開です。
今回のトンデモ話は、日光東照宮とペルシアのマウソロス霊廟との類似性ですね。舞うソロス霊廟というのは、紀元前4世紀、ペルシアの属国であった「カリア」という国の総督のお墓なのですが、ピラミッド形の屋根を冠し、外壁に沿ってライオンの石像やギリシア賢人、基壇の周囲にはギリシア神話やアマゾン族との戦いを描いた彫刻が配置されているなど豪華なものであったようですね。

建築史探偵の事件簿 新説・世界七不思議
『このミス』大賞作家の最新作。鍾乳洞の首無し死体、密室状態のログハウスでの大量殺人、誰もいない場所での謎の発火、不可思議な事件に遭遇する建築史学者は、それらを解決することで歴史的建造物「世界七不思議」(ギザの大ピラミッド、バビロンの空中庭園...

レビュアーの一言

今巻の犯罪の舞台となる場所や遺跡と関係づけられる「世界の七不思議」は
・バビロンの空中庭園
・ギザの大ピラミッド
・オリンピアのゼウス像
・ロードスの巨像
・エフェソスのアルテミス神殿
・ハリカルナッソスのマウソロス霊廟
・アレキサンドリアの大灯台
です。時代や、人によってこの「七不思議」の細部が違うのは、江戸時代の「本所七不思議」と同じなのですが、今巻の読みどころは、それぞれの事件の謎解きよりも、世界七不思議が日本の建築物に受け継がれたとする「トンデモ説」の面白さでしょう。
歴史のトンデモ話や、怪しげな陰謀説のお好きな方は、きっと舌なめずりする仕上がりだと思います。

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