若だんなや於りん、妖たちにふりかかる不幸は誰の仕業?=畠中恵「しゃばけ18 てんげんつう」

祖母の血筋のおかげで「妖」の姿を見ることができる病弱な廻船問屋兼薬種問屋・長崎屋の若だんな・一太郎と、彼を守るために祖母が送り込んだ妖「犬神」「白沢」が人の姿となった「仁吉」「佐助」、そして一太郎のまわりに屯する「鳴家」、「屏風のぞき」や貧乏神といった妖怪や神様たちが、江戸市中で、一太郎が出会う謎や事件を解決していくファンタジー時代劇「しゃばけ」シリーズの第18弾が本書『畠中恵「てんげんつう」(新潮文庫)』です。

前巻では、一太郎の周囲にいる「妖」たちや一太郎の前世が話題になっていたのですが、今巻では、一太郎や周辺の人たちに降りかかってくる様々な不運を振り払っていく話が中心です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「てんぐさらい」
「たたりづき」
「恋の闇」
「てんげんつう」
「くりかえし」

となっていて、まず第一話の「てんぐさらい」では、若だんな・一太郎のお世話をしている「兄や」の一人である白沢の化身・仁吉と一緒になるために天狗の姫様「花風」がやってきます。天狗姫はずっと昔から仁吉に添い遂げたいと考えていたのですが、一太郎の祖母「おぎん」こと妖狐・皮衣に惚れている仁吉は振り向いてくれないため、天狗姫はおぎんに直談判し、仁吉と添う条件として、古に薬祖紙が日本に落とした神薬探しに勝ったら、ということに。

天狗としては、病がちな、おぎんの孫で長崎屋の若だんな・一太郎という弱みをついたつもりのようですが、実はおぎん様の策略が隠されていますね。

第二話の「たたりづき」では、前話で「おぎん」と喧嘩して双方謹慎の罰を受けた仙狐の息子狐・仙太が、一太郎の許嫁・於りんの実家・中屋が世話になっている住職の弟子・東山坊を祟る、という持って回った復讐を企てます。しかも、その祟り方というのが、東山坊が師匠・南山坊の隠し子という噂をたて評判を下げることと、東山坊を生みの親の遺産相続騒ぎに巻き込むという、これまた直接的でない「呪い」です。果たして、「仙太」の本当の目的は?といったところが焦点になります。

第三話の「恋の闇」では、一太郎の幼馴染であえう菓子屋・三春屋の栄吉に、札差の娘さんの「お蝶さん」との縁談が舞い込みます。その娘さんというのが「小町娘」と評判の美人なのですが、どういうわけか栄吉までが「役者のような男前」という評判になっているようです。この縁談のからくりを調べるため、一太郎が縁談の相手方である札差の白柳屋にでむいたところ、この店と仲の悪い黒松屋との喧嘩に巻き込まれてしまいます。なんでも栄吉との縁談の前に、白柳屋のお蝶と黒松屋の次男・半之助との縁談が仲人からもちこまれたらしいのですが、それ以来、半之助のところに彼を中傷する手紙が頻繁に届き、それが原因のせいか、半之助が行方知れずになります。これで、お蝶と縁談話で迷惑なことが起きたと怒る黒松屋と自業自得だと主張する白柳屋との不仲がますます酷くなったというわけなのですが、一太郎はこの両家の諍いを仲裁するため、半之助の行方を探す羽目となり・・という展開です。まあ、蓋を開ければ犯罪がらみでなく、恋バナが飛び出してくるのが、このシリーズの害のないところです。

第四話の「てんげんつう」では、飼っていた猫又から「千里眼」を授かった男が、そのせいで人から疎まれたり、命を狙われるようになったため、この千里眼の力を失くしてくれ、と一太郎のところへねじ込んできます。とても、そんな才はないと断る一太郎だったのですが、「てんげんつう」の千里眼で周囲の人たちが不幸になるのを見かねた一太郎がとった方法は・・という展開です。

最終話の「くりかえし」は、深川の隅田川沿いの桜によって、一太郎や、一太郎の許嫁・於りんが、桜につく毛虫にかぶれたことから始まるお話です。その毛虫の大繁殖によって深川の桜は枯れそうになるまで追い詰められているのですが、その大繁殖をさせたのが、毛虫を「常世神」とあがめる染井村の植木屋の従業員たち。一太郎は、この毛虫を繁殖させるのを止めさせようと乗り込むのですが、そこにはかなり俗っぽい出世争いが隠れていて・・という展開です。

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レビュアーの一言

この巻にでてくる「てんげんつう」というのは「てんがんつう」とも言って、本来は猫又がもっている能力ではなくて、仏様が備える「六神力」の一つですね。

「六神力」とは

①神足通(じんそくつう) – 自由自在に自分の思う場所に思う姿で行き来でき、思いどおりに外界のものを変えることのできる力。飛行や水面歩行、壁歩き、すり抜け等をし得る力。
②天耳通(てんにつう) 世界すべての声や音を聞き取り、聞き分けることができる力。
③他心通(たしんつう) – 他人の心の中をすべて読み取る力。
④宿命通(しゅくみょうつう) – 自他の過去の出来事や生活、前世をすべて知る力。
⑤天眼通( てんげんつう) – 一切の衆生の業による生死を遍知する智慧。一切の衆生の輪廻転生を見る力。
⑥漏尽通(ろじんつう) – 煩悩が尽きて、今生を最後に二度と迷いの世界に生まれないことを知る智慧。

というものなので、遠隔地の出来事を感知する能力である「千里眼」とも本来の意味は異なるようですね。ただ、本書の場合は、遠隔地や未来・過去のことを自在に知ることのできる能力といったぐらいに考えておけばいいようです。

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