国有地不正売却絡みの書類偽造には青春時代の約束が隠れていた=中山七里「能面検事の奮迅」

東京地検時代にDVによって逮捕されている加害者に、感情豊かなところにつけこまれ、DVの被害者の隠れ先をつかまれ、その女性が殺害される、という失態を犯したことをきっかけに、その表情から感情が消え去り、全く顔色が読めなくなった大阪地検の検事・不破俊太郎の推理と活躍を、彼の部下で感情豊かな上昇志向バリバリの書記官・惣領仁美を語り部として描く検察ミステリー「能面検事」シリーズの第二弾が本書『中山七里「能面検事の奮迅」(光文社)』です。

本の紹介文には

忖度しない。空気を読まない!完全無欠の司法マシン、再臨。
大阪地検一級検事、不破俊太郎。政治とカネの闇にかき消された真実を暴く。

とあって、前巻では、大阪府警の大々的な「証拠物件紛失事件」の陰に隠されていた復讐殺人事件を明らかにした、不破と惣領のコンビが、今回は、近畿財務局の国有地売買に絡む書類偽造事件に隠されていた真相を明らかにします。(本音を言うと、紹介文の「政治とカネの闇にかき消された」というのは読者をミスリードしてしまうかもな、と思います。)

あらすじと注目ポイント

構成は

一 不正許すまじ
二 介入許すまじ
三 馴れ合い許すまじ
四 忘却許すまじ
五 露見許すまじ

となっていて、冒頭では本シリーズの舞台となる大阪地検で現在取り扱っている中で一番大きな事件である「国有地払下げ事件」の捜査に加わらないか、地検の次席検事・榊から打診がくるところから始まります。

この事件は近畿財務局の国有地の払下げで、ある学校法人が小学校の建設用地とするという名目で購入したのですが、その購入価格が評価額の四割に満たなかったため、裏で利益供与があったのではと疑惑を呼んでいたのですが、当事者の学校法人の理事長がなんと、財務局OBの地元国会議員への現金供与を自供。しかし、当時の財務局の担当職員と国会議員はそれを否定している、というものです。場合によっては、財務大臣までつながる大きな政治スキャンダルになりかねない事件なので、大阪地検のほうでも特捜部に加えて、地検内の選り抜きを集めて捜査を進めようとしていて、「能面検事」として地検内の評判はイマイチながら、実績のある不破にも白羽の矢が立った、というわけです。

ここで実績をあげれば今までの大阪府警案件とあわせて大功績となり、東京地検への返り咲きも夢ではないのですが、予想通り、不破の変事は「NO]です。

しかし、諦めきれない榊次席検事が説得を続けている中、特捜部が保管していた財務局の証拠書類の一ページが差し替えられていることがわかります。そこは財務局の担当官と学校法人理事長との交渉経過をまとめた部分なのですが、そこがそっくり入れ替えられ、文章の辻褄が合わなくなっている上に、紙も財務省で使用しているものではないのが判明します。

このすり替えを行ったのは、大阪地検、近畿財務局どちらなのか、そして元の書類には何が書いてあったのか、と、地検特捜部の担当検事である高峰主任検事と、財務局の担当である前田調整官に疑いの目が注がれ、この事件は「贈収賄疑惑」にあわせて、「公文書捏造」の事件となっていくのですが、両者とも犯行を否定していて・・という筋立てです。

さらに大阪地検が絡んだスキャンダルということで、最高検も乗り出してくることとなり、東京から「公文書捏造」のためのチームが派遣されてきて、大問題化していくのですが、このチームの中に、あのピアニスト探偵・岬兄吾の父親である岬次席検事も含まれています。

このチームの大阪地検側の一員として、不破検事も加わることとなり、内部の敵となるかもしれない岬次席検事の配下で、不破・惣領のコンビは公文書偽造の捜査にあたることとなります。しかし、大阪地検の勢力を削いで、人事異動で東京地検側の人材を送り込むことを目論んでいる最高検側は、肝心なところへ不破が関与するのをことごとく邪魔をしてくるのですが・・という展開です。

捜査の出発点は、「公文書偽造の犯人捜し」ということなのですが、学校法人の理事長・萩山が、購入予定地の候補地は3箇所あったが、2箇所については学校用地として適さないという前田調整官の発言があった、という部分が、書類の中から消えていることから、不破は、焦点の売却地以外の候補地を実際に調査に出かけます。そして、候補地の一つである倒産した病院跡地が、閑静な住宅地の近くで、工業団地の住民も住んでいて、学校の建設候補地としてはもってこいな立地であることがわかります。さらに、その近くにあった大学の寮に、高峰主任検事と前田調整官が学生当時住んでいたことと、二人とも近くにあった学生向けの大衆食堂「一膳」の常連であることがわかり、その食堂で仲良く肩を組んでいる二人の写真も見つかります。

初対面だと主張していた二人の関係は、そして、この土地が学校用地としては向かない、と候補地から外した前田調整官の意図は・・といったことを軸に、不破・惣領ペアの捜査と推理が進んでいくのですが、ここから先の詳細は原書のほうで。

すこしネタバレしておくと、二人の間柄が判明し、この書類偽造の理由が明らかになったところの先に、さらにドンデン返しがあるので、最後まで油断せずに読んでくださいね。

レビュアーの一言

今巻の事件の謎解きの鍵となる廃病院と京阪大学の「寺井寮」は大阪府の岸和田市の寺井とうところにある設定となってます。

今回の容疑者となる検事と財務省の公務員の二人は「関西有数のマンモス大学」の出身となっていて、現在、関西地方にある大学で一番学生数の多いのは立命館大学なのですが、岸和田の近くということから考えると、東大阪にキャンパスのある近畿大学っぽい感じがします。

ちなみに、大衆食堂「一膳」の元主人に聞き込みに行った不破と惣領は、岸和田について

岸和田ちゅうのは良うも悪うも地縁が濃いんよ。元々、地元に就職するヤツが多いし、ほれ、だんじり祭りあるでしょ。あれは他んとこに出ていった者でも祭りの日ィだけはかえって来よる。

と表現していて、ここで学生時代に知り合った高峰と前田の友情の深さをほのめかしていま

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