アシリパは第七師団と五稜郭で激戦。箱館戦争第二幕の決着は?=野田サトル「ゴールデンカムイ」第291話〜第300話

アイヌの娘「アシリパ」と日露戦争の生き残りで「不死身の杉元」と呼ばれた杉元佐一たちが、極東アジアを舞台に、幕末の新選組の生き残りの土方歳三や日露戦争で頭蓋骨の上半分を失った情報将校・鶴見中尉率いる第七師団を相手にアイヌ民族が明治政府打倒のために集めていた大量の金の争奪戦を繰り広げる明治のゴールドラッシュストーリー『野田サトル「ゴールデンカムイ」(ヤングジャンプコミックス)』の第291話〜第300話。

前話までで、先祖の残した金塊と北海道の広大な土地の割譲を約束した新政府の契書を見つけ出したアシリパからそれを奪うため襲撃してきた鶴見中尉率いる第七師団兵と五稜郭での激戦が展開されます。土方歳三と永倉新八にとっては、箱館戦争の第二幕といったところですね。

あらすじと注目ポイント

構成は

第291話 骨董品
第292話 函館湾海戦
第293話 侵入者
第294話 静寂
第295話 ふたり
第296話 武士道
第297話 五稜郭脱出
第298話 ウイルクの娘
第300話 最延長戦

となっていて、まず、前話の最終盤で函館山の観音像の裏に隠された洞穴の中から、箱館戦争の真っ最中に回天丸から取り外して隠した主砲を引っ張り出し、永倉新八たちはアシリパたちに艦砲射撃を加えてくる大湊要港部の駆逐艦に反撃を開始します。

操作するのは、元パルチザンのソフィアの連れてきたマンスールという砲兵で、本書によると回天丸の主砲68ポンド砲(50斤ライフル砲という説もあります)の有効射程は2700mあったらしいので、五稜郭を狙っている駆逐艦隊に背後から砲撃を加えることに成功します。

もちろん、鯉登少尉の父親の指揮する駆逐艦隊も反撃を加えるのですが、マンスールたちの精密な砲撃に主艦も被弾し、戦闘不能に陥ります。この後、沈没していく主艦「雷」と鯉登司令官は運命をともにするのですが、ここらは艦長の伝統的行動に沿っています。

一方、五稜郭の攻防戦の方は、ソフィアの守る北口は守りきっているのですが、第七師団は東口の橋梁の下を伝って侵入することに成功し、アシリパ・杉元・土方の連合軍と白兵戦が始まります。鶴見中尉や鯉登少尉・月島軍曹たちの主力部隊は東口から攻め込み、権利書の奪取を狙って、アシリパたちの捜索を始めます。

そして、南口からは、二階堂たちの部隊が侵入し、土方をかばって二階堂によって都丹が斃されてしまいます。都丹を倒した二階堂は杉元を見つけ、弟の仇をとるため、彼と一騎打ちを始めます。杉元は手榴弾を腹にかかえ、杉元を道連れに自爆しようとする二階堂からからくも逃れることに成功し、ここで双子の片割れ二階堂は爆死します。

南口を守る土方たちは、二階堂によって都丹が倒された後、次々と入り込む第七師団兵の攻撃に劣勢になっています。単身で戦う土方は多くの兵に囲まれるのですが、ここに杉元が救援に駆けつけ、九死に一生を得ることとなります。

しかし、全体的な劣勢は否定できず、北口にいるアシリパと白石は、南口と東口の陥落の情報に権利書を守るため五稜郭からの脱出を決意します。北口ではソフィアのひきいるパルチザン部隊と日露戦争の二〇三高地攻囲戦でロシア軍と死闘を演じた陸軍最強といわれる第七師団との戦いが激化しています。

そして、北口にある馬小屋に火をつけて第七師団の注意をひきつけた上で、白石が騎馬で南口から脱出を図ります。馬上には、アシリパが入っているかのような袋を積んでいるのですがこれはフェイク。
アシリパは城壁のふちに待機し、城外に逃れた白石が、対岸から縄を渡して渡堀するつもりなのですが、白石は鯉登少尉に脱出を阻止され、さらに鶴見中尉がアシリパの居場所に気づき、突進してきます。

再びアシリパが鶴見中尉に拉致されてしまうのか、というところで駆けつけたのが杉元で、馬上にアシリパをすくい上げ、合流した白石とともに、ソフィアの守る北口へと馬を進めます。

杉元はソフィアに同行を勧めるのですが、ソフィアは拒否。五稜郭に仲間とともに残留して、第七師団を足留めし、アシリパの脱出を援護するつもりですが、ここに現れたのが、鶴見中尉です。鶴見の撃った銃弾がソフィアを撃ち抜きます。

ソフィアは撃たれて倒れた状態で、鶴見中尉に彼のロシア人の妻と子供を戦闘に巻き込んで殺してしまったことを謝罪します。鶴見はソフィアの謝罪を受け入れた後、彼女にとどめをさします。しかし、その後の「キミのことは許した」という言葉は、アシリパの父・ウイルタへの恨みはまだ持っている、ということでしょうね。

南口から逃れたアシリパ・杉元・土方の後を鶴見中尉たちが追うのですが、城外の防風林の中で、尾形がライフルを構えて待ち構えています。ただ、アシリパたちを撃つより前に、自分を狙うロシアの狙撃兵との対決を優先し、返り討ちにします。ここで樺太から継続していた「狙撃兵の一番争い」の伏線は回収されています。

尾形の狙撃をかわしたアシリパたちは、函館本線の線路沿いへ進み、函館行きの汽車に乗り込みます。ところが、ここには第七師団兵を乗せた増車両が連結されていて、という展開です。

レビュアーの一言

幕末〜明治初期にかけての函館戦争では、函館湾戦争で新政府軍の朝陽を撃沈したものの、蟠龍、回天が座礁し、五稜郭の北方に旧幕府軍が建造した四稜郭も占領され、じりじりと五稜郭へと追い詰められるという戦績を辿っています。
その後、函館湾からの「甲鉄」をはじめとする新政府軍の軍艦からの艦砲射撃をうけ、函館市街も占拠され、最終的には榎本たちが投降し、戦争が終結しています。
いってみれば函館湾の制海権をどちらがとるかで戦況がかわったわけで、このシリーズでも、箱館戦争の教訓どおり、鶴見中尉たちは大湊要港部の艦隊によって函館湾を制して、ここから砲撃を行ったわけですが、箱館戦争に生き残りたちによる陸上からの反撃は想定外だったと思われます。

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