名探偵は「私」ではなく「あなた」=大山誠一郎「ワトソン力」

ミステリーの「名探偵もの」というと、見かけは子供であったり、パイプに鳥打帽であったり、太っちょの美食家であったり、アイドル女子高生や美貌のバリスタなどなど風貌や性格は様々であるにもかかわらず、そのブレのない、冴えた知力で、事件の謎をずばり解き明かすのが通例です。

でも、なぜこんな類まれな能力を持った人間が多数出現しているのでしょうか。それは案外、こういう人物が関係しているかもしれません。

ということで、本書の紹介文によると

僕以外みんな名探偵!
いたって平凡な刑事・和戸に秘められた力
それは、そばにいる人々の推理力を飛躍的に高めてしまう能力だった。

ということで、自分では名推理を展開せず、周囲の者に事件を解かせる探偵のアシスト役が主人公のミステリーが本書『大山誠一郎「ワトソン力」(光文社)』です、

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一話 赤い十字架
第二話 暗黒室の殺人
第三話 求婚者と毒殺者
インタールードⅠ
第四話 雪の日の魔術
インタールードⅡ
第五話 雲の上の死
第六話 探偵台本
第七話 不運な犯人
エピローグ

となっていて、まず冒頭では、本篇の主人公で警視庁捜査一課第二強行犯第三係の和戸宋志が、何者かによって八条ほどの大きさで、一面コンクリートで窓はなく、ドアが一つある部屋に監禁されているところから始まります。

実は彼は、半径20メートルの範囲にいる人物の「推理力」を飛躍的に高める能力を有しています。彼は、その力を発揮するため警視庁に就職するのですが、最初の勤務先の奥多摩交番でおきた不可能犯罪の犯人を、彼の能力で推理力を高めて謎をといた事件関係者から聞いて通報した手柄で捜査一課に抜擢され、それ以後、彼の属する捜査一課の第三係は、彼以外の係員の強化された推理力のおかげで驚異的な検挙率を示しています(もっとも、彼自身は推理力は人並みなので、功績をあげることもないのですが・・)。

その彼が、自分が監禁された原因として過去の事件が関係しているのかも、と今まで出くわして、周囲の推理力をアップさせて解決した事件を思い出していく、というストーリーです。

まず第一の事件「赤い十字架」は、雪山のペンションでおきた殺人事件の謎解きです。そのペンションのオーナーが撃たれて死んでいるのが発見され、彼の右上の先には、赤黒い十字架が五本描かれています。さらに、彼の妹も自室で銃で撃たれて死んでいるのが発見されるのですが、ペンションの周囲や被害者の死んでいた部屋の外へでる出口の雪には犯人の足跡はなく、ペンション内にいる客たちが犯人であることは間違いないのですが、そのトリックは、そして5本の十字架の意味は・・ということで、ペンション内にいた客たちが、和戸の能力によって推理力を高められ、順番に謎解きと犯人を指摘していくのですが・・という展開です。

第二の事件「暗黒室の殺人」は、地下二階にあるギャラリーでおきた殺人事件です。そのギャラリーではある作家の作品展が開催されていで、関係者と数人の客が集まっていたのですが、近くで起きた陥没事故で電源が消失し、真っ暗闇になってしまいます。その暗闇の中で、作家がオブジェで殴られて死亡するという事件が発生して・・という展開です。今回は、その犯人がその作家から携帯電話を奪った理由が鍵となりますね。

第三の事件「求婚者と毒殺者」では、本篇の主人公・和戸宋志が招かれた、財閥オーナーの娘の婿選びの会場での毒殺事件です。そこには和戸のほか三人のお婿さん候補のエリートが集められていたのですが、その娘と独占的にダンスを踊っていた男性が、ダンスが終わった後、テーブルに置かれていたワイングラスの一つを取り上げ中身のワインを飲んで毒死します。犯人は皆の見ている前でどうやって毒を仕込み、被害者に飲ませることができたのか。という謎解きです。

そして、この後、雪の中のシートに囲まれた半地下式になっている建築現場で、ライフル銃でオリンピック候補選手が殺されているのが発見される密室殺人事件(第四話「雪の日の魔術」)、ロサンジェルス行きの旅客機の機内で、乗客の一人が毒薬を注射されて死亡するのですが、その毒殺事件の隠された本当の犯意と意外な犯人(第五話「雲の上の死」)、主人公の和戸が帰宅途中に火事現場から救出した男性の部屋に残されていた、結末の書かれていない「ミステリー劇」の犯人を、男性の属する劇団の団員たちが順番に一人ずつ推理を披歴する仮想殺人事件(第六話「探偵台本」)、バスジャックされたバスの車内で発見された男性の刺殺死体の真犯人を、バスの乗客と犯人、運転士が推理していく事件(第七話「不運な犯人」)が語られていきます。

そして、この七つの事件で推理を披歴し、真犯人を当てた「名探偵」のうちの一人が、今回、ワトソン力をもつ「和戸宋志」を監禁した犯人ではないか、と和戸は推理するのですが・・という展開です。最後の謎解きの鍵は、和戸のワトソン力は半径20メートルの範囲内なら、どんな遮蔽物があっても効果を発揮する、というところです。

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レビュアーの一言

前著「アリバイ崩し承ります」で、新米刑事に頼まれて、難事件の容疑者の主張するアリバイを崩して真犯人をつきとめる美人時計店主・時乃に負けない特殊能力の持ち主が本巻でも登場します。自らは推理をしないで犯人をつきとめるやり方は、省力的であることには間違いないのですが、犯人がつきとめられるまで、事件の関係者たちが勝手バラバラに自分の推理を喋り散らしていくのを我慢する辛坊強さが別途必要になるようですね。

扱われる事件は全て「殺人事件」なのですが、生臭さグロっぽいところはないので、安心してお読みください。

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