栞子と扉子の母娘が、孫への蔵書相続を阻む祖父の「謎」を解く=「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅲ 扉子と虚ろな夢」

本の読めない古書店員・五浦大輔と人見知りの激しい「本」オタクの美人古書店主・篠川栞子が結ばれて決着した第一シリースから数年後、二人の間に生まれた娘・扉子も成長して、しっかり「本」オタクとなり、ビブリオ古書店メンバーの一員として加わった「ビブリア古書堂の事件手帳」シリーズの第2Seasonの第3弾が本書『三上延「ビブリア古書堂の事件手帖 Ⅲ 扉子と虚ろな夢」(メディアワークス文庫)』です。

前巻では小学生になったのですが、母親に似てコミュ障なところを発揮していた扉子が、祖母の篠川智恵子の父親の「手帖」を覗いてみたら、といった黒いアドバイスなどもあって、段々と、読書好きな友達もできていたのですが、高校生となってもあいかわらずの他人嫌いなところは払しょくできていません。そんな彼女が、今巻では、ビブリオ古書堂の同業者の蔵書の処分騒動に巻き込まれます。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ・五日前
初日・映画パンフレット「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」
間章一・五日前
二日目・樋口一葉「通俗書簡文」
間章二・半年前
最終日・夢野久作「ドグラ・マグラ」
エピローグ・一か月前

となっていて、今巻の物語の発端は、ビブリオ古書堂の店主・篠川栞子のもとへ、樋口佳穂という女性が「息子(樋口恭一郎)に相続権のある古書が、あと数日で勝手に売り払われようとしているので、それを阻止してほしい」という依頼をもってくるところから始まります。彼女によると、彼女の前夫・杉尾康明は、虚貝堂という古書店の店主の一人息子だったのですが、十数年前に離婚し、彼女は現在、他の男性と再婚しています。その杉尾康明が二カ月前に癌で病死したのですが、康明の蔵書が正統な相続人である彼女と康明との間の子・樋口恭一郎に無断で、祖父の虚貝堂店主・杉尾正臣によって古書即売会で全冊売り払われようとしている、とのことです。とはいっても、警察や弁護士に頼んだりといった大げさなことにはしたくないので、なんとかビブリオ古書堂などの同業者から説得してもらえないか、ということですね。

古書と同業者に関わることなので、栞子はこの依頼を受けるのですが、あいにく実母・智恵子に頼まれた海外業務が入っていて、実質的なところは夫の大輔に任されるのですが、この話をこっそり聞いていた扉子もこの依頼に首を突っ込んできて・・という設定です。

一方、虚貝堂のほうでは、店を訪ねてきた恭一郎に店主の杉尾正明が、息子・康明の蔵書も出品している古書販売会のアルバイトを依頼していて、ビブリオ古書堂に頼まれた案件の関係者が古書頒布会に一同に会することとなるのですが・・という展開です。

ここで、ちょっと付け加えておくと、依頼主の樋口佳穂と前夫の杉尾康明との離婚理由は、康明が読書旅行と称して溜まった本を読みふける旅に出た先で、そのまま行方不明になったことにあって、康明は行方不明になって五年後、ひょっこり実家に帰ってきたのですが、記憶は失われたままという過去をもっています。

まず第一話の『初日・映画パンフレット「怪獣島の決戦 ゴジラの息子」』では、レジに立っていた恭一郎が、辞書を買った女性客の「蔵書票」がついていたというクレームや、映画のパンフレットを包装したビニール袋に「G」や「F」といった落書きがマジックでされているというトラブルに悩まされます。さらに、その映画パンフレットが、虚貝堂の店員のミスなのか、やけに安価な値付けがされていて・・といった展開です。
落書きされたビニール袋を見て、扉子がとっさに映画のパンフレットの値付けミスに隠された詐取事件に気付いていきます。

第二話の『二日目・樋口一葉「通俗書簡文」』は、康明の蔵書であった「樋口一葉全集」の数冊に五千円札のピン札が挟みこまれているという事件がおきます。しかも、そのお札の記番号(シリアルナンバー)の最初のアルファベットが一文字で、ゼロ並びの「000001」から「000005」までというコレクター間では数万円以上で取引されるレアものです。「000002」から「000005」までは回収できたのですが、樋口一葉が手紙の書き方の指南した「通俗書簡文」という一冊だけが見つかりません。レジに値札が残っているので、誰か買ったのではと思われたのですが、売れたらしい時間はお客がいない時間帯で、どうやら古書店の関係者が安価な値付けのされた一葉の古書とレアものの五千円札を黙って手に入れた疑惑がわいてきて・・という展開です。

第三話の『最終日・夢野久作「ドグラ・マグラ」』は日本三大奇書といわれる夢野久作の「ドグラ・マグラ」の初版で著者のサイン入りという希少本が、復刻版の函に入れられて古書販売会に出品されているのが発見されます。それは、康明の蔵書であったことがわかるのですが、何の目的でそんな入れ替えをしたのか、といった謎解きです。謎解きの鍵は、病死する間際に、康明が彼に近しい人たちに「自分が死んだら、好きな本を一冊持って行っていい」と言っていた言葉にあって、本を読まない息子に自分の思いを託す父親の気持ちがせつないのですが、ここから、虚貝堂の店主が息子の蔵書を、孫に相続させず全て売却してしまおうとしている真意と、それを阻止しようとする息子の前妻の本当の狙いが怒涛のように明らかになっていきます。

ビブリア古書堂の事件手帖III ~扉子と虚ろな夢~ ビブリア古書堂の事件手帖 ~扉子と不思議な客人たち~ (メディアワークス文庫)
春の霧雨が音もなく降り注ぐ北鎌倉。古書に纏わる特別な相談を請け負うビブリア&...

レビュアーの一言

物語の結末がわかって、ちょっと一安心というところで油断してはいけません。season1で栞子をさんざん嘲弄したのですが、season2では、栞子や大輔とも和解し、毒気も抜けてきたのかな、と思われていた篠川智恵子の「ブラック」ぶりが明らかになってきます。
そのターゲットの一人は今巻の主人公である「樋口恭一郎」なのですが、最終的なターゲットは・・・ということで、まだまだこのシリーズは波乱含みの展開のようです。

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