菜の花食堂に「悪意」の食品事故がふりかかる=碧野圭「菜の花食堂のささやかな事件簿 裏切りのジャム」

東京郊外にある一軒家を店とする小さなレストラン「菜の花食堂」を経営する「下河辺靖子」先生、彼女の主宰する料理教室を、派遣の事務職を辞職して、アシスタントとして手伝っている「館林優希」ちゃん、康子先生に弟子入りしたシェフ見習いの「和泉香奈」さんをキャストにして、レストランでおきる日常事件の謎解きをする、コージー・ミステリー「菜の花食堂のささやかな事件簿」シリーズの第四弾が本書『碧野圭「菜の花食堂のささやかな事件簿 裏切りのジャム」(だいわ文庫)』です。

本の紹介文には

「これはもう、推理するまでもないわね」
おいしいランチと予約制のおまかせディナーが評判の菜の花食堂のオーナー・靖子先生は、洞察力が鋭くて、謎解きが得意
食堂や料理教室で起こる小さな事件を解決してくれるだけじゃなく、そっと悩みを掬い上げて静かに背中を押してくれる

とあって、今巻では、突然夫のダイエットに厳しくなった妻の嫉妬や、菜の花食堂にふりかかった食品事故に隠された悪意など、日常生活に潜んだちょっとビターな謎を解いていきます。

あらすじと注目ポイント

収録は

「春菊は調和する」
「セロリは変わっていく」
「裏切りのジャム」
「玉ねぎは二つの顔を持つ」
「タケノコは成長する」

となっていて、まず第一話「春菊は調和する」は、菜の花食堂のオーナーで料理研究家でもある靖子先生が不定期で開催する料理教室のシーンから始まります。この教室に新しく通ってきた水野裕美さんは、同じ職場だったスポーツマンの旦那さんと幼稚園の女の子をもつママさんなのですが、最近、旦那のダイエットが思うように進まないのが悩みの種のようです。

このため、料理教室の翌週に家族で来店したとき、料理の栗ご飯が気に入って、三杯もおかわりしたことがきっかけで夫婦喧嘩となってしまいます。ここで、靖子先生が、ダイエットのコツをレクチャーするのですが、裕美さんが夫のダイエットにカリカリするのは、実は別の理由があるのを見抜いていて・・、という展開です。

奥さんのイライラには、夫への悪感情ではなく別にことが隠れていることを見抜く靖子先生の洞察力はサスガですが、それにとどまらず、将来のトラブルの種の防止策も未然に講じておくところがスゴイですね。

第二話の「セロリは変わっていく」では、菜の花食堂の入口の門のところに、首輪がなく、荷造り用のビニール紐で門扉につながれている「フレンチブルドック」が見つかります。ビニールひもには、子どもが書いたような乱暴な字で「この犬あげます」と書かれた紙が張られ、体に凝ったつくりの犬用の赤い服を着せられているので、どこかの飼い犬だったのが、飼い主が飽きたかどうかして捨てられたものだと思われます。

保健所で処分するわけにもいかず、飼い主が見つかるまで、菜の花食堂でしばらく世話をすることとなるのですが、幸いにも、菜の花食堂にたまたま食事に来ていた「六花ちゃん」という女の子が母親に頼んで、譲渡を受けることになります。ところが、優希と六花ちゃんが犬を散歩させている時、六花ちゃんの同級生らしい女の子数人に取り囲まれます。彼女たちの話によると、そのブルドッグは、女の子たちの一人である「結月ちゃん」の飼い犬であったのを六花ちゃんが盗んだのだ、という言いがかりをつけてきます。彼女の持っていたスマホには、その犬を抱えた結月ちゃんの写真が確かに写されていて・・という展開です。

実のところ、そのブルドックの飼い主は、結月ちゃん一家であったのですが、では、犬を七緒華食堂の前に捨てたのは誰なのか?、そのブルドックが結月ちゃんになついていない様子から、靖子先生はある結論を導き出し・・という展開です。

第三話の「裏切りのジャム」では、手作りジャムをあちこちに店に置かせてもらうようになり、評判も上がってきた食堂の販売事業に、食品事故の災厄がふりかかります。まず、立川の駅ビルに入っている花村フーズという大きな食料品店から、菜の花食堂製の「イチゴジャム」の一つに白カビがびっしり生えていた、というクレームが入ります。それを買った客からの苦情で、幸い返金だけで穏便にすませてもらえたのですが、花村フーズとの取引はそれでおじゃんになります。

さらに、今度は吉祥寺のショップに卸しているリンゴジャム、国立のさくら食品という食材店に出しているレモンカードからもおなじように白カビが見つかったというクレームが入り、ついには地元の商工会議所に、こういった商品が「地元の逸品」に選ばれているのはおかしい、という投書が入ります。。

このまま悪評が広まっていけば、菜の花食堂の加工品販売事業だけでなく、本業のほうに影響が出かねないのですが、白カビが出たのは、複数卸した製品のうち、それぞれ一個ずつであることに不審を抱いた靖子先生は、白カビの出た製品の味見をし、あることに気付きます。それは、白カビの出た製品が、二カ月前、ちょうど会議所の「地元の逸品」の審査会の頃のレシピに基づいてつくられた味で、今は改良を加えて味が少し変わっている、ということです。

となると、この「白カビ混入事件」の犯人は、「地元の逸品」の審査会の頃に製品を手に入れて、白カビを培養し、現在の商品と中身を入れ替えたと思われます。そして、優希が審査会にあわせてイチゴジャム・リンゴジャム・レモンカードの詰め合わせセットをつくって数人に販売したことを思いだし・・という展開です。

犯人がわかったところで、これを懲らしめる「靖子先生」のやり方がなんとも「姐御」風なやり方で、妙なスッキリ感を醸し出しています。

このほか、嫁姑の仲はいいのですが、息子が勧めても頑として「同居」をしたくないと言い張る母親の、息子も気付いていなかった「弱み」が謎解きの鍵となる「玉ねぎは二つの顔を持つ」とか突然の転倒による手首の骨折をきっかけに優希ちゃんの恋バナの進展が見られる「タケノコは成長する」とか、今巻も「ほっこり」とする謎解きが物語られていますので、これを読んで肩や頭の「コリ」をほぐしてみてはいかがでしょうか。

菜の花食堂のささやかな事件簿 裏切りのジャム (だいわ文庫)
「これはもう、推理するまでもないわね」 おいしいランチと予約制のおまかせディ...

レビュアーの一言

このシリーズの特徴は、靖子先生の鋭い洞察力で、さっくりと謎解きがされていく爽快さとあわせて、物語の途中で語られる「料理ウンチク」にあります。

今巻では、ダイエットがうまくいかずに悩む夫婦にする「発芽玄米」のアドバイスや、ダイエット向きの食べる順番、あるいは「玉ねぎ氷」ってどんなものとか、雑談ネタになりそうなものもありますので、ぜひそちらのほうもお楽しみに。

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