新九郎は京都へ帰還し、今川家相続の逆転打を模索する=ゆうきまさみ「新九郎奔る!」10

戦国時代の「下剋上」の典型として、堀越公方足利政知の息子・茶々丸を攻め滅ぼして「伊豆」を我が物にしたのを皮切りに、関東管領の上杉氏の家臣から小田原城を奪い取り、その後、相模国を領土とし、戦国大名の魁といわれる「北条早雲」の若き頃の姿を描く『ゆうきまさみ「新九郎奔る!」』シリーズの第10弾。

前巻で姉・伊都の旦那さんで駿河国守護職を務める今川義忠が、遠江の支配権を狙って遠征したところで流れ矢に当たって戦死したことによって勃発した、義忠反対派によって担ぎ上げられた義忠の従兄弟で、留守居を務めていた今川範満と、義忠の妻・伊都と息子・龍王丸を推戴する故義忠派の抗争に巻き込まれた新九郎だったのですが、太田道灌との手打ちを済ませた後の始末が描かれます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第五十九話 帰京 その1
第六十話  帰京 その2
第六十一話 帰京 その3
第六十二話 文明九年 その1
第六十三話 文明九年 その2
第六十四話 文明九年 その3
第六十五話 糸口

となっていて、太田道灌との手打ちの後、小鹿(今川)範満に守護の居館である駿河館を譲り、姉・伊都と龍王丸を小川の代官屋敷に移した新九郎だったのですが、龍王丸が家督をつがず、当分、小鹿範満が守護代行を務めるという今回まとめた調停策は、双方に不満を鬱屈させているようで、早速、伊都たちを郎党と囲んだ宴席で新九郎はからまれていますね。

そして、この不満はそれぞれの心中だけに留まっておらず、その夜に、何者かによって伊都と龍王丸が襲撃を受けます。

新九郎の手勢たちによって暗殺者を撃退するのですが、このままでは伊都・龍王丸派と範満派との抗争の再燃は間違いないなく、そうなると約定違反の上、敗退する可能性大の情勢です。この事態を逆転するため、新九郎は「勝つための策」を思いつき・・という展開です。ただ、この策を実行に移すために、姉・伊都や龍王丸派の武将の説得に3ヶ月を要するのは、新九郎の立場の弱さを象徴しています。

駿河の騒動をひとまず収束させ、京都に帰還した新九郎なのですが、未だに大御所の足利義政の不興は解けておらず、無位無官無職の身の上なので、龍王丸の早期の家督相続のためには、力が足りません。このため、従兄の伊勢貞宗の助力を頼むのですが、現将軍・足利義尚に対して、まだ権力を移譲しようとしない大御所・足利義政の意向もあって、なかなか思うように任せません。
ただ、ここで、戦が長引いていることによって、有力諸将である大内政弘に動揺が見られるとともに、あくまでも主戦を主張する畠山義就は彼と袂を分かって、河内へ攻め込むなど、足利義視の周辺の武将が離れていき、西軍側は瓦解していきます。美濃へ落ち延びていく足利義視に、彼のために命を落とした兄の思い出を抱える新九郎が放った言葉は・・ということで詳細は原書のほうで。

一方、新九郎や伊都たちが京都へ逃れたあとの関東では、関東管領の前の家宰の息子・長尾景春が反乱を起こし、五十五の戦いで関東管領の上杉顕定に軍を破り、勢力を拡大していきます。

これに立ちはだかったのが、新九郎を今川家の家督相続に関する交渉で新九郎をいいようにあしらった太田道灌で、彼は現在の東京都北区から練馬区にわたる東京都北部の広大な地域を支配していた、長尾景春勢の豊島一族を打ち破るなど、長尾景春の反乱の鎮圧に大貢献をしていき、扇谷上杉家も隆盛していくこととなります。

ただ、太田道灌が長尾景春の乱を鎮圧しはじめているのは、龍王丸の早期の家督相続を目論む新九郎にとってはあまり良い兆候ではないですね。

新九郎、奔る!(10) (ビッグコミックス)
今川お家騒動「交渉編」、波乱の最終局面! 新九郎と太田道灌の交渉を経て、 今川...

レビュアーの一言

本巻では、成長し将軍位を相続した足利義尚と細川勝元の息子・聡明丸こと「政元」が登場しています。

足利義尚は最初の頃、六角征伐など幕府の威信の回復に力を尽くすなど精力的な執政を行っていたようですが、次第に酒色におぼれて23歳で若死しています。

一方、細川政元は、義尚の後を継いだ足利義材を追放して実権を握って専制体制を敷いたのですが、最後は湯殿で行水中に暗殺されています。彼は修験道に凝って、女性を近づけなかったため子供はおらず、ここで細川京兆家の直系は断絶することとなります。

新九郎の前世代である足利義政や細川勝元も相当変わった人物だったのですが、後世代の足利義尚や細川政元もそれに負けない変わった人物であったようです。

【スポンサードリンク】

コメント

タイトルとURLをコピーしました