呑兵衛たちは「宅飲み」で日常の謎をとく=石持浅海「Rのつく月には気をつけよう」

新型コロナ・ウィルスの感染拡大に伴う外出自粛で飲食店、特に居酒屋系は大変なダメージを受けたわけですが、そのかわり客足というか需要を伸ばしたのが「宅飲み」の世界。
UberEatsをはじめとした料理のデリバリーサービスや持ち帰りなども随分と当たり前のサービスになってきました。
そんな宅飲みのブームに先駆けて、気心のしれた男女が一人の自宅に集まって、自作の料理を肴に、持ち寄った酒を酌み交わしながら、それぞれの日常でおきる「小さな謎」を解いていくという宅飲みミステリーのシリーズがこの『石持浅海「Rのつく月には気をつけよう」(祥伝社文庫)』『石持浅海「Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス」(祥伝社単行本)』です。

メインキャストは、食品会社に勤務している湯浅夏美と熊井渚、国の研究機関の研究員をしている長江高明。3人は大学の同窓生で、大学時代からの飲み仲間で、就職先も同じ東京なので、卒業後も全員東京だったので、機会をつかまえては飲み会をやっていたのですが、いつも同じメンバーではつまらないため、誰かが友達をゲストとして連れてきて、料理の上手い長江のマンションで彼の手料理と酒盛りを繰り広げるうちに、ゲストや夏美や熊井が日常体験したちょっとした謎を長江が解き明かしていく、という筋立てのコージーミステリーです。

「Rのつく月には気をつけよう」のあらすじと注目ポイント

第一作である「Rのつく月には気をつけよう」の収録は

「Rのつく月には気をつけよう」
「夢のかけら 麺のかけら」
「火傷をしないように」
「のんびりと時間をかけて」
「身体にはよくてもほどほどに」
「悪魔のキス」
「煙は美人の方へ」

の七篇。

表題作の第一話の「Rのつく月には気をつけよう」を簡単にレビューすると、登場する料理は大量の生牡蠣と酒はアイラ島のシングルモルト。ここに夏美の友人の女性が招待されたのですが、以前に「牡蠣にあたった」という経験をした彼女が語ったのは、二年前の4月に会社の同じ部署の先輩の新築祝いに招かれていった宴席での食中毒事件です。
そのときの昼食の前菜で生牡蠣が出されたのですが、それを最初に食べた家の主である先輩が何もつけずに食べた牡蠣が「酸っぱい味がする」と言い出します。幸いそれまでに牡蠣を食べてしまっていたのは、その女性だけで、彼女はドレッシングをかけて食べていたので気づかなかったようです。しかし、残念ながら、その時、家人が用意していた牡蠣はすべて廃棄されると言う残念な結果になったのですが、その二日後に食中毒の症状が出た、という話です。

その話を黙って聞いていた、今回の酒宴のホスト役である長江は「牡蠣を食べてあたったというのは嘘でしょ」と彼女の話を否定してきます。口の悪い熊井は、長江を「ちょっと、揚子江」とあだ名でよび詰問するのですが、長江が語った推理とは・・という展開です。

4月といえば英語で「April」。牡蠣は「R」のつく月には食べてもいい、と言われているのですが、まさかそんな理由でもなく、という筋立てですね。

このほか、板チョコ5枚をバレンタインデーの義理チョコで送った彼女への送られた同僚からのホワイトデーのお返しが、固くなったパンであった理由とは(「火傷をしないように」)とか、交際していた彼女がMBAの取得のために渡米留学して疎遠になってしまった、という長江の同僚男性が、彼女が留学の決断をする前に、煮込みの足りない固い豚肉の角煮を食べさせられた意味は(「のんびりと時間をかけて」)とか、日常生活のちょっとした出来事に潜んでいる深ーい真実が明らかになっていきます。

この巻の最期の二篇は夏美と長江のそれぞれのお目出度い話なのですが、当初はここで完結し、シリーズ化しないつもりであったように思われます。

Rのつく月には気をつけよう (祥伝社文庫)
湯浅夏美と長江高明、熊井渚の三人は、大学時代からの飲み仲間。毎回うまい酒に&...

「Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス」のあらすじと注目ポイント

前作の「Rのつく月には気をつけよう」収録の最後の短編が書かれたのが2007年なのですが、それから11年後の2018年に再び宅飲みメンバーが復活したのが二作目の「Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス」です。

前作の最後で婚約した長江高明と熊井渚はその後、長江がアメリカの大学に移籍し、そちらで暮らしていたのですが、帰国して三人が卒業した大学に職を得て、再び「宅飲み」が復活した、という設定です。
今巻では、前巻の三人に加えて、渚の夫となった「冬木健太」と息子の「大」、長江夫妻の娘「咲」が新キャストとして飲み会に参加してきます。

収録は

「ふたつ目の山」
「一日ずれる」
「いったん別れて、またくっつく」
「いつの間にかできている」
「適度という言葉の意味を知らない」
「タコが入っていないたこ焼き」
「一石二鳥」

の七篇。

基本的な構造は前巻と同じパターンなのですが、例えば第一話の「ふたつ目の山」では、夏美の息子・大くんが年長組で一緒だった同級生の親の出来事といった感じで、謎の範囲が少し変わっているのと、料理人が長江だけでなく夏美の夫の「健太」が追加されています。

第一話で供されるのは、ローストビーフとカリウフォリルニア産の赤ワイン。
このローストビーフをうまく料理するには、焼くことと薄く切るという「二つの山」があることにかけて、上司の引っ越しのガレージセールで、大型の旧式のマッサージチェアをもらった部下の田野井夫妻がチェアが大きくて玄関ドアから入らないのを、一部分解して部屋の中に運び込んだのですが、分解したときにどこかを壊してしまって結局廃棄することになった、という夏美の話を聞いて、長江の言った「田野井ママの作戦勝ちだね」といった意味は・・といった筋立てです。
少しネタバレすると、上司からの贈り物を無下に断れない「宮仕え」での奥さんの英知が示されます。

このほか、わざわざ曜日を変えて、別々に同じ習い事や学習塾に通わせてもらっている「双子」の秘密(「一日ずれる」)とか、毎週、シーツを洗濯するほど洗濯にかこだわるのに、掃除はロボット掃除機まかせという潔癖症なのかズボラなのかわからない元同僚が転職していった本当の理由(「適度という言葉の意味を知らない」)とか、前巻に比べて、人間関係が難しくなってきたのか、解かれる謎のほうも少し苦味を増している感じがします。

ちなみに、二冊目の最後のほうでは、三冊目がでるとした場合の「種まき」もしっかりしてあるので、そのあたりもお見逃しなく。

Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス
長江、渚、夏美は大学時代からの飲み仲間だった。やがて長江と渚は夫婦になり、&...

レビュアーの一言

このシリーズの魅力の一つは、日常のちょっとした出来事の底に意外な事実が隠れている、という意外さなのですが、その道具立てとなっている料理と酒も魅力の一つ。

第一作では、砕いたチキンラーメンと家庭用の生ビール、チーズフォンデュとオレゴン産の白ワイン、ぎんなんと静岡産の日本酒、第二作ではサーモンの酒粕漬けと米焼酎、イカの肝焼きと秋田産の日本酒といったのが出てきます。グルメ小説のようなコテコテの描写はないのですが、抑え気味ながら食欲と呑兵衛心をそそる描き方がされているのも魅力です。

ただ、原書では、主人公たちがウィスキーも焼酎もストレートでぐいぐい呑んでいるので、あまり真似はしないほうが肝臓のためにはいいかと思います。

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