ゾンビがつくる密室殺人の謎を解け=今村昌弘「屍人荘の殺人」

スマホがほとんどすべての人が手にしていて、よほどの田舎か人里離れた山奥にいかない限り、インターネットに繋ぐことができる今日、一番、つくりづらい犯行環境は「密室」ではないでしょうか。
その最難の課題を、ミステリーとはおよそ関係しそうもない、SFホラー的な仕掛けでつくりあげた密室殺人ミステリーが本書『今村昌弘「屍人荘の殺人」(創元推理文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 奇妙な取引
第二章 紫湛荘
第三章 記載なきイベント
第四章 渦中の犠牲者
第五章 侵攻
第六章 冷たい槍
エピローグ

となっていて、冒頭のところでは、このシリーズで探偵役を務める横浜の名家のお嬢様にして、不幸な体質と優れた推理力を持つ美貌の女子大生探偵・剣持比留子のところへ届いた「斑目機関」に関する調査報告が引用されています。この斑目機関のエピソードは、このシリーズを通じてのテーマになるので覚えておきましょう。

物語の本筋のほうは、関西のマンモス私大である「神紅大学」の学生食堂で、ぐだぐだと時間を潰している、「神紅のホームズ」という異名を持つ「ミステリー愛好会」の会長・明智恭介とたった一人の愛好会員で一年生の「葉村譲」のところへ、美貌の女子大生・剣持が「取引」にやってくるところからスタートします。

というのも、明智が映画研究部が夏休みに計画している「心霊映画」の撮影合宿に潜り込もうとして断られ続けているのですが、剣持と一緒であるなら、特別に参加できるというのです。どうやら、映画研究部の部室に「今年の生贄は誰だ」と書かれた脅迫状っぽいものが置かれていたため、合宿参加者が激減したためのようですが、その底には、昨年の合宿に参加した女子大生の一人が自主退学、一人が自殺という不祥事があったことが関係しているようです。

で、剣持と明智・葉村が合宿が行われる「紫湛荘」というOBの父親(大きな映像制作会社の経営者という設定になってます)の古い保養施設に行ってみると、そこに集められていたのは、美人の映画研究部員ばかり。さらに、確実の「女性目当て」と思われるOB3人が特別参加してきて・・という、いかにも事件がおきそうな筋立てです。

まあ、たいていのミステリー・ファンであれば、在校生部員でもないにも関わらず、合宿に参加してくるOB3人(そのうちの一人は紫湛荘を所有する映像制作会社の社長の息子といういかにも設定)が、一年前の事件の首謀者で、今回の被害者だろうなー、という匂いに感づくと思うのですが、今回の肝は、そのすべてが変則的な「密室」構成になっている、という仕掛けです。

というのが、ちょっとネタバレしておくと、冒頭にでてきた「斑目機関」という昔の秘密研究機関が独自開発した、人間を死亡させて数時間後に「ゾンビ化」させるというウィルスを、この紫湛荘近くで開催されていたミュージックフェスタでばらまき、バイオテロを実行したため、この紫湛荘周辺にゾンビが集まり、建物の中にも入り込んできたため、外に出られない、という状況に陥ったという設定なのですね。

しかも、おきる殺人事件が、密室の中で噛み殺されていたり、エレベーターの中で血まみれになっている状態で発見されたり、鍵をかけてたてこもった部屋の中で毒死していたり、といった感じで連続するのですが、いずれも「ゾンビ絡み」なので、しっかり謎解きしてみてくださいね。

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レビュアーの一言

今巻は事件の環境設定も予想外のスプラッタホラー仕立てなのですが、探偵役を務める「剣持比留子」も、ドラマにでてきそうな美貌ながら、意識せずして、怪異な事件を呼び寄せ、かならず死者が出る、という怪しげな特異体質の持ち主ということで、いかにも映像向きという設定。2019年12月に剣持比留子を浜辺美波さん、葉村譲役に神木隆之介さん、先輩の明智恭介役に中村倫也さんという豪華キャストで映画化されています。映画評によると、ホラー風味は少ない、ギャグ系ミステリーに仕上げられているようです。

ちなみにコミック化もされていますね。

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