美貌の悪運探偵は、巨人の彷徨うテーマパークで「安楽椅子探偵」として謎を解く=今村昌弘「兇人邸の殺人」

九州の名門出身の美貌のお嬢様でありながら、不吉な事件を身近に引き寄せるという特異体質のために、父親から勘当同然に家を出され、関西のマンモス私大に通う「剣崎比類子」と、彼女にワトソン役を要請されながら、事故死した先輩の手前から断り続けている神紅大学ミステリ愛好会会長「羽村譲」の二人が、戦前に日本中で奇怪な研究を進め、組織壊滅後も日本各地で凶悪怪奇事件を引き起こしている「班目機関」の謎に挑む「屍人荘シリーズ」の第3弾が本書『今村昌弘「兇人邸の殺人」(東京創元社)』です。

本の紹介文には

入ったら最後、姿を見ることは二度とないーー廃墟テーマパークにそびえる奇怪な屋敷。深夜侵入した葉村と比留子を異形が襲う

とあって、今回は、班目機関がかつて「超人」研究を行っていた研究所が遺るテーマパークでの密室ミステリーです。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 アンラッキー・ガール
    <追憶 Ⅰ>
第二章 兇人邸
    <追憶 Ⅱ>
第三章 予期せぬ死
第四章 隔離された探偵
第五章 慧眼
    <追憶 Ⅲ>
第六章 惨劇の夜、再び
第七章 生き残り
    <追憶 Ⅳ>
第八章 裏切り
第九章 最後の仕掛け

となっていて、剣崎比留子や羽村譲が巻き込まれる現代の事件の合間に、戦前の班目機関がこの地で行っていた「超人」をつくる研究の実験台とされている女の子の独白が挿入される仕掛けとなっています。

現代の事件のほうは、かつて「班目機関」の研究活動のスポンサーとなっていた老舗の医療・製薬関連企業の子会社の若社長・成島が、班目機関の研究の一部を秘匿している人物のところへ忍び込んで盗み出す企みに、剣崎に同行を求めるところから始まります。成島は、ほかにも研究成果を秘匿していたと思われる人物へ接触していたのですが、それは空振りに終わっていて、今回、比留子のいるところでは「何かがおきる」という体質を利用して、完全な空振りは避けよう、というけっこう安直な動機なのですが、追及はやめておきましょう。

で、成島と比留子たちが忍び込むのは、30年前にH県の地元市が地域振興のためにヨーロッパの古い都市を模してつくったのですが、見事に空振りし、今ではその廃れぶりが「廃墟」ブームにのっかって人気がでてきているというテーマパークの中にある、かつての班目機関の研究所を模してつくった「兇人邸」と呼ばれる邸宅です。しかも、このテーマパークの運営会社の社主が班目機関の元研究者であった上に、その会社の従業員十数名がテーマパークに招待された後、行方不明になっている、といういわくつきです。このあたり、事件の臭いをプンプンと振りまいていますね。

成島と秘書の裏木、このシリーズのホームズ役とワトソン役の比留子と葉村は、複数人の傭兵部隊ととともに、その「兇人邸」に深夜の忍び込み、邸の主の「不木玄助」を拘束し研究資料の在処を白状させようとするのですが、邸内で常人離れをした身体能力をもつ巨人に襲われ、あっという間に、邸内への案内役の元従業員も含め、4人が殺され、首を切られてしまいます。

さらにこの後、テーマパークの従業員行方不明事件でスクープを狙うフリーの女性記者が潜入してきたり、邸の主の「不木」が不審死を遂げ、その首が切られていたり、といった事件が起きて・・という筋立てですね。

この巨人の襲撃により、侵入部隊のメンバーの多くを失った上に、鍵をもっていたメンバーが巨人のいるエリア内で殺されたため、鍵を取り戻すことが不可能となり、比留子や葉村、成島たちは邸内に閉じ込められてしまうこととなります。おまけに襲撃から逃げるために、比留子は、別の建物内に避難し、本隊と別れ別れになってしまって・・という設定で、この巨人の正体と、「不木」を殺した犯人と、首を切ったのは誰?といったのが今回の主要な謎解きとなってきます。

巨人の正体は、途中に挿入されている、かつての班目機関の研究所の回想でおぼろげにつかめてくるのですが、実はここにも作者の罠がしかけられているので要注意です。

謎解きとあわせて、巨人の襲撃をかいくぐっていくサスペンスフルなシーンも連続していきますので、いろんな味が楽しめるミステリーとなっています。

レビュアーの一言

第一巻「屍人荘の殺人」ではゾンビに取り囲まれて孤立、第二巻「魔眼の匣の殺人」では館と外の地区とを繋げる橋が焼き落とされるという「物理的密室」だったのですが、今回は邸を脱出するために外とつながる「跳ね橋」をおろすと二度とあがらなくなって、凶暴な巨人がテーマパーク内に解き放たれてしまい、自分たちだけでなく第三者にも被害を広げてしまうため、脱出せずに留まらざるをえない、という「心理的密室」が構成されています。

さらに、ホームズ役の比留子は、現場から離れたところに避難しているので、葉村たちからもたらされる情報だけで推理を組み立てざるをえない、という「安楽椅子探偵」の推理モノにもなっているところに注目です。

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