平清盛の弟・頼盛が、源平争乱下の謎解きに挑む=羽生飛鳥「蝶として死す 平家物語推理抄」

源平の合戦で、源義経に壇ノ浦まで追い詰められて、そこで平清盛の一統の「桓武平氏」は、安徳天皇とととに入水し、「平家にあらずんば人にあらず」に象徴される権力の絶頂から、一挙に坂をころがりおちて一族滅亡に至った、というのが一般的なのですが、実は、平清盛の弟が平家一門の都落ちに同道せず、鎌倉幕府成立後も生き残った人物がいたのをご存じでしょうか。
その男・平頼盛は、清盛の父・平忠盛の五男で、清盛より15歳下の弟で、母親は源頼朝・義経たちの助命嘆願で有名な「池禅尼」。その平頼盛、通称「池殿」が、平家の全盛期から鎌倉幕府成立後までの間、政権の周辺部でおきる怪事件の謎を解き明かしていく歴史ミステリが本書『羽生飛鳥「蝶として死す 平家物語推理抄」(東京創元社・ミステリフロンティア)』です

あらすじと注目ポイント

収録は

「禿髪殺し」
「葵前哀れ」
「屍実盛」
「弔千手」
「六代秘話」

となっているのですが、少しばかり、このシリーズの探偵役・平頼盛のことを紹介しておくと、清盛とは15歳年下の異母弟で、清盛の出世による平家一門が隆盛していくに伴い、彼も世にでていくのですが、頼盛は父・忠盛の正妻・宗子(池禅尼)の子であったことから、側室の子である清盛からは警戒され、清盛の子・重盛とは出世のスピードも相当差がつけられていた上に、時折見せる、清盛への反抗的行動から、たびたび解官されては復活を繰り返しています。もともとは武に優れた武将だったのですが、武官職を解かれて、軍事的基盤を破壊されてからは、清盛・重盛、後白河院、源義仲、源頼朝といった当時の権力者の間をすり抜けるように泳ぎきった人物です。

まず第一話の「禿髪殺し」は、清盛が太政大臣となり、平気一門の権勢は増大していく中、頼盛は清盛によって突如、参議を辞めさせられ悶々とした日々を過していた時期です。
そこでおきたのが、清盛が平家へ不満をもつ輩と密告奨励のために都中に放った密偵である「禿髪」と呼ばれる赤い衣の少年の一人が野犬に喰い殺されて死亡しているのがみつかるという事件です。これを単純に清盛のところへ知らせると不審がられて逆に捕縛されるかも、と怖れた住民たちは、参議の職を解かれた後、復活の機会を狙っている池殿こと頼盛に情報をもっていき、彼の功名心につけこんで事件を解決してもらおうと仕組むわけですね。

で、宮中への復活を画策する頼盛は、清盛の許可を得て、この事件の捜査に乗り出します。そして、殺された禿髪が殺害された当日、彼と一緒にいた「紅梅尼」という老女を見つけ出し、老女の証言の嘘を見抜いて真犯人を見つけ出します。ところが、これにはさらに裏があり、頼盛がたぐり出した事件の黒幕はとんでもない大物で・・という展開です。
清盛と頼盛兄弟の複雑な人間関係が垣間見える解決編となっています。

第二話の「葵前哀れ」は、平家政権の傀儡天皇であった高倉帝の愛妾であった「葵女御」が、宮中退出後、変死した事件の謎解きです。
「葵女御」は高倉帝の寵愛が薄れて宿下がりしたところで奇病にかかり、死んだことになっているのですが、実は後宮内の勢力争いに巻き込まれてしまい、彼女が悪用されることを心配した帝が寵愛が薄れてしまったとみせかけていたことを高倉帝から頼盛は打ち明けられ、彼女は奇病ではなく毒殺された疑いのあることを聞かされます。
死んだ彼女の骨は黒ずみ、柔らかくなっていて、「石薬」と呼ばれる薬にも用いられる劇物を飲んだときの症状を示しているのですが、彼女にそれを飲ませた犯人は・・という謎解きです。
彼女は、宮廷内のライバルの妃やその取り巻きたちから毒を飲まされる怖れがあったので、高倉帝は自分が毒見をしたか、与えたもの以外、口にしないように厳命し、葵女御も忠実にそれを守っていたのですが・・という伏線がはられています。

第三話の「屍実盛」は、時代がさらに移って、木曽義仲の挙兵によって、平家一門が都落ちした京都での謎解きです。都へ攻め入る義仲軍を避けるため、平家一門は西国へと落ち延びているのですが、平頼盛は、平家の大勢の動きと離れ、都へ留まっています。

今まで、平清盛を中心とする桓武平氏の主流から圧迫され続けていた池殿流平家の総帥。平頼盛は、ここで自流を主流へと押し上げるために捨て身の作戦をとってきた、というところでしょうか。
そして、都で実権を振るう木曽義仲が、頼盛へもってきた難題は、倶利伽羅峠の戦で討ち取ってしまった、幼い頃、義仲の命を救ってくれた命の恩人でもある斎藤別当実盛の身体を、掘り起こした首のない5つの屍の中から選びとれ、というものです。
実盛はその老体を隠すため、髪や髭を墨で染めていたたため、それとは知らず、義仲の郎党が討ち、首をとっていたのですが、入京後、落ち着いてから胴体を掘り返して丁寧に供養しようと思っていたところ、胴体を埋めたあたりから5体もの屍体が掘り起こされてしまい、どれが実盛のものかわからなくなってしまったのですね。
義仲は京都占領軍をバックに、頼盛に命を助けるのとひきかえに、実盛の本当の遺体を見つけ出すのを命じてきたわけですね。さて、5つの屍体のうちから本当の実盛の屍体をみつる頼盛の推理は・・という展開です。
この話の最後のほうでは、頼盛は義仲軍の監視をかいくぐって見事に京都から脱出するので、そのからくりもあわせて読んでみてくださいね。

今巻の後半では、平家の清盛一統が義経によって追い詰められ、政治の実権が「鎌倉」に移った後、許嫁を父・頼朝によって斬られ、精神に不調をきたした「大姫」の行動に隠された謎をとく「弔千手」であるとか、清盛の孫「六代」の行方をめぐって、頼盛の息子がその六代ではという疑いがかかり、北条時政と対峙することとなる「六代秘話」とか、源平争乱その後の「平氏」の物語も描かれています。

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レビュアーの一言

通説の歴史であると、清盛による政権掌握と平氏の専横、そこから木曽義仲・源頼朝が挙兵して平氏滅亡、さらには鎌倉幕府内の血を血で洗う内部抗争と続いていって、平氏一門のはじっこにいた平頼盛の姿は印象がないのですが、今シリーズは、歴史の陰に隠されていた名探偵として「平頼盛」を呼び覚まし、源平争乱時の新たな一面を見せてくれています。さらに、時の権力者の間をうまく泳ぎきって平氏の別流の「池殿流平氏」をもりたてようとする、すこし生臭い「名探偵」を出現させてくれています。
このレビュー時には、すでに第二作「揺籃の都」がでているのですが、中世の戦乱下を舞台に歴史ミステリーは、公家風味と武家風味の混じり合った独特のミステリーとなっています。

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