最先端科学捜査班は透明人間の謎に挑む=中村啓「SCIS【SS】最先端科学犯罪捜査班」1

理科系出身の異色キャリア警察官・小比類巻祐一と元帝大学の教授だった天才科学者・最上友紀子を中心に、警視庁捜査一課の変わり者警察官を集めたチームが、最先端の科学をつかった犯罪事件の謎に挑むSCISシリーズのセカンド・シーズンの第1弾が『中村啓「SCIS【SS】最先端科学犯罪捜査班」1(光文社文庫)』です。

ファースト・シーズンでは、ゾンビウィルス殺人やナノロボット殺人などの謎をとき、最終盤では、最上元教授の元助手を殺した上に、最上を学会から追放した、大物科学者・榊原が滅んでいくのを見届けたSCISチームだったのですが、今回も新たな最先端科学犯罪を解く中で、彼らに敵対する組織の陰が垣間見えてきます

あらすじと注目ポイント

構成は

序章
第一章 透明になる欲動
第二章 引き寄せる呪い
第三章 再び踏まれる月
終章

となっていて、まず冒頭のところで、このシリーズの中心組織であるSCISの立ち上げを、警察庁刑事局長から直々に任されたエリートで警視庁刑事局の島崎刑事企画課長が、酒を呑んでの帰宅途中で、何者かに刺殺されます。その時、彼の近くには誰の姿もない「透明人間による殺人」。彼も「最先端科学犯罪」の犠牲者となってしまいます。
不審死をとげた島崎警視長の後を継ぎ、SCISの統括をするのが中島加奈子警視長なのですが、珈琲好きでスノッブな感のあった島崎に対し、紅茶好きのバリキャリ官僚ですが、SCISの扱う奇怪な事件の前にどこまで保つかは未知数ですね。

まず第一の事件「透明になる欲動」は、中野に住む女子大学生がバイトの帰りに自宅の玄関前で姿の見えない人物に後ろから髪を引っ張られて転倒し、頚椎骨折の重傷を負ってしまいます。これは、島崎警視長が刺殺されたのと同じ透明人間による犯罪か、 と思ってしまうのですが、これはフェイク。
犯人は第一話の途中で、倒叙的に明らかになるのですが、そこからは彼が「透明」になることの魔力に疲れていく様子を御覧ください。少しネタバレしておくと、男性が透明になると肉欲系に走ってしまうようですね。

第二の事件「引き寄せる呪い」は、呪いによって受託殺人をする、というトンデモ占い師の「犯罪」にSCISのチームが調査に乗り出します。チームの一員・江本優奈が持ち込んできた情報では、すでにその占い師は4人も呪い殺しているとのことで、その占い師とつなぎをとってもらうのですが、そこで、最上元教授が、小比類巻警視正を「呪い殺してくれ」というトンデモ依頼を持ち出してきて、という展開です。
この「呪殺」の仕掛けは、最上元教授の推理では、「ツタンカーメン王の呪い」で噂されたウィルス説か、2016年に在キューバアメリカ大使館で発生した「ハバナ症候群」が怪しいとのことですが、種明かしはいかに。

第三の事件「再び踏まれる月」は、国産の月面探査ロケットの乗員の一人となった大富豪のIT起業家に、月面の土壌を再現した「レゴリス」を使って「人工喘息」の発症が仕掛けられます。宇宙船に乗るのは健康体であることが必須なので、宇宙船の乗員の座からひきおろそうという企みです。その起業家は一緒に宇宙船に乗る相棒として、女優兼投資家の恋人の女性を選んでいるのですが、この選抜を巡って、元カノたちが恨みをもっていたようで・・という展開です。
単純な「痴情のもつれ」とおもいきや、このロケット開発会社のCEOが殺されたことによって、事件は別の様相を見せてきます。
この最終話で第2シーズンは、「国家的」な陰謀がらみの感じがするのですが、真相は次巻以降のお楽しみですね。

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レビュアーの一言

第一の事件で犯人をつきとめるため、最上元教授は、19世紀に注目された網膜光像に残った映像で犯人の姿を見つけるという「法医学オプトグラフィー」の手法を持ち出してきます。
当時、ドイツのキューネという生理学者は、ウサギを暗がりにいれ、次に明るく晴れた窓を強制的に何分間か見せる実験で「網膜光像」を実証したそうで、犯罪捜査への活用が大いに期待されたようですが、当時の技術では実用化できなかったようですね。さて、21世紀の最先端技術を操る「最上元教授」によるとどうなるのでしょうか?結果は原書のほうでご確認を。

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