処女王・エリザベス1世と名宰相・セシルの成り上がり物語が始まる=こざき亜衣「セシルの女王」1

薙刀というマイナー(関係者の方、暴言お許しを)な部活に、素人状態から入部して、先輩やライバルや師匠たちにしごかれながら、人間面でも、武道面でも成長していく女子高校生の姿を描いた「あさひなぐ」の作者・こざき亜衣さんが、「あさひなぐ」連載終了後、1年間の充電期間を経て出してきたのが、イギリスを舞台にした歴史コミック『こざき亜衣「セシルの女王」(ビッグコミックス)』です。

舞台となるのは、イギリスが強国スペインを破り、世界を股にかけた超大国として名乗りをあげはじめた「エリザベス1世」の時代。
世界史上最も有名なイギリスの「王」といっていい、この女王から信頼の厚い、忠実な臣下として、イギリス政界を動かした「ウィリアム・セシル」が成り上がっていく物語が始まります。
今回はそのスタートとなる第1巻を中心にご紹介しましょう。

あらすじと注目ポイント

第1巻の構成は

第1話 セシルの王
第2話 メイズ・オブ・オナー
第3話 盤上の少年
第4話 小さき生き物たち
第5話 娼婦の家
第6話 ”SS”

となっていて、物語は1533年のイギリスのランカシャー・オクスフォードから始まります。
ここでいわゆるジェントリーという郷紳、つまりは地方の地主であるセシル家の長男・ウィリアムが兄弟や使用人の息子たちとノビノビと生活しているところが描かれます。
当時、イングランドはスコットランドもまだ独立状態の小国でで、また1455年から1485年まで続いた、百年戦争での立場とイギリス王家の主導権をめぐったおきた内乱「ばら戦争」の影響で、貴族たちの一部は没落し、ジェントリーたちが勢力を伸ばし始めているのですが、まだ過渡期で新旧勢力が入り乱れている状態ですね。ウィリアムの父は、王宮の衣装担当宮内官としてヘンリー8世に仕えていて、まあ、彼も成り上がっていくジェントリー階級の一員といったところです。

本シリーズでは、父・リチャード・セシルがさらに宮廷内で地位をあげ、セシル家の隆盛に導くため、長男のウィリアムを12歳で出仕させることを決め、宮廷に連れていくこととなるのですが、史実では、ウィリアムは、14歳でケンブリッジ大学のセント・キョン・カレッジに入学し、その後、ロンドンのグレイ法曹院で学び、この間に二人の女性と結婚して子供をもうけているので、この話は、12歳のウィリアムが大学に入学するまでの「未明」の合間に作者が挿し込んだ物語といえるでしょうね。

そして、手伝いとして宮中に入って、希望に燃えるウィリアムなのですが、その時の寵姫の名前を間違えて、ヘンリー8世から絞め殺されそうになったり、

その巻き添えで父がぼこぼこに殴られたり、とさんざんなめに合います。(もっとも、これによって、ヘンリー8世の寵姫であるアン・ブーリンと仲良くなれるのですから、まあ儲けもの、といったところでしょうか)

もの当時、ヘンリー8世はスペイン王家の王族であった「キャサリン妃」を婚姻無効にして(カトリックの教義で「離婚」が許されなかったので、結婚そのものを「無効」にしちゃうというアクロバット的法的措置ですね)別宮殿に押し込め、「男子を産む」と宣言した「アン・ブーリン」という若い側室を王妃にする、という乱暴な所業にでています。

この時、ヘンリー8世は、婚姻無効を認めようとしなかったカトリックのローマ教会と決別して、新しい教会(イギリス国教会)を創設するという荒技もしかけています。この時期、実はヘンリー8世の権力構造は結構脆弱で、女性君主では混乱を招くという気持ちから男子の跡継ぎを熱望したと推測されています。もともとはカリスマ性もあり、文筆にも優れた王様という評判だったのですが、老齢となってからは、その好色で肥満、利己的で残忍と結構な悪評を浴びせられています。

ただ、まあ、この第1巻の段階では、アン・ブーリンが第一子を出産するところなので、彼女の高慢なところと押しの強さは、良い方向に転がっている段階ですね。

ただ、彼女が産んだ子供が実は「女子」だと解ると・・と彼女の運命も坂道を転がり落ち始めるのですが・・という展開です。

第1巻の段階では、アン・ブーリンが、一族の期待を受けながら王宮にあがり、悲しみとともに成り上がっていく様子を堪能してください。ただ、本シリーズでは、こんな風に優しそうな魅力的な女性に描かれていくのですが、側室ではなく王妃の地位を要求してキャサリン妃を追い落として死においやった、という史実をみると相当、気性の激しい女性だったように思えます。もっとも、アンの生家であるブーリン家はそんなに力のある貴族ではなく、フランスもアン・ブーリンには冷淡であったという政治情勢も彼女の「評判の悪さ」に影響しているのかもしれません。

セシルの女王(1) (ビッグコミックス)
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レビュアーの一言

このあたりの時代を描いた歴史マンガには、ハロルド作石さんの「7人のシェクスピア」あたりが有名なのですが(「7人のシェイクスピア」はこのブログでもレビューしています。)、このシリーズはシェイクスピアが生まれる以前の、プロテスタントとカトリックの血で血を洗う抗争が始まった理由を教えてくれますね。
「7人のシェイクスピア」で冷酷な女王然としていた「エリザベス1世」が幼かったり、まだ若い頃、どういう女性だったのか、次巻以降でわかってくるんでしょうね。

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