死にたいあなたの死ねない悩み、フルサポートで解決します=降田天「さんず」

悩んでいる人に老女からさりげなく渡される名刺大の白いカードには「有限会社 さんず」の「死にきれないあなたのお手伝いをいたします」という営業案内と「よりそいプラン」、「もろともプラン」という二つの料金コースとQRコードが印刷されています。

そのQRコードから会社のHPへとび、必要事項を記入すると、二人の男が訪ねてきて、依頼者のカウンセリングを始めるのですが、彼らの仕事は悩みの解決ではなくて・・といった感じで始まっていく、ダークサイド・ビジネスミステリーが本書『降田天「さんず」(小学館)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は五話で、

・本社からの圧迫のストレスを解消するため、若い女性コンビニ店員をパワハラした雇われ店長

・自分へのセクハラ相手を始末して刑務所に入った男の出所を待っている女性

・病気を苦にして自殺を図る蝶コレクター

・ギャンブルの借金で首の回らなくなった飲食店店主

・同僚にレイプされ脅されている女性教員

が自殺願望にとりつかれた様子と、依頼に基づいてそれを解決していく自殺幇助会社「さんず」の社員、スガとカトウの「仕事」が描かれていきます。

ちなみ、「さんず」というのは、三途の川を渡らせて、あの世へ導くといったところから命名されているようです。

まず第一話はミスの多い女性店員・笹岡花に厳しく注意している雇われ店長・野中の様子から始まります。注意されている笹岡花は女優志望の女性で生活費を稼ぐため、コンビニでバイトをしているのですが、最近、テレビ番組にチョイ役で出演してから、店でのミスが目立ち始めている状況です。

最初は目をかけていた彼女のミスが相次ぐにつれ、可愛さ余って〇〇いう諺どおり、注意のレベルがどんどんエスカレートしていったのですが、ある日、そのためうつ状態となった花が電車に飛び込んで自殺を図ります。

自殺の原因が自分にあると、周囲から無言で責められはじめ、精神的に追い詰めらた野中がバス停でバスを待っているとき、近くにいた老女から一枚の白いカードを渡されるのですが・・という展開です。

追い詰められ、「さんず」のサービスに申し込んだ野中は、自殺に踏み切れない原因が、15年前の高校生時代に自分をイジメた同級生への復讐ができていないことにあることに気づきます。「さんず」のサービスは、心残りとなったいることを解消することも含まれていたので、訪れた「さんず」の社員・スガとカトウに助けられ、その同級生を拉致するのですが、その同級生が笹岡花の自殺に関わっていることを知り、自殺の責任を負わなくていいと思い始めるのですが、実は今回のこの「さんず」のサービスの本当の依頼者は・・という展開です。

自らのパワハラの責任を言い訳する男にイライラしたあたりで、ドンデン返しのカタルシスが訪れます。

第二話は自分へのセクハラ相手を始末して刑務所に入った男の出所を待っている「三崎紀子」と名乗る女性からの依頼です。男性の出所を真直にして、本当は自分の会うことは求められていないのでは、と不安にかられ、きれいな想い出だけ残すために自殺を図るのでサポートしてほしいというものなのですが、彼女が「さんず」にサポートを頼み、自殺現場へ行く途中に、屈強な男達数人に拉致されそうになります。

実は、彼女の言っていた自殺の理由はフェイク。彼女は将来は首相間違いないと言われている女性国会議員の私設秘書をしていて、その議員の不正献金疑惑の責任を背負って自殺を図ろうとしたもだったのです。その事実を掴んだ、「さんず」のスガとカトウのとった行動は・・という展開です。

彼女を拉致しようとしていた男達の意外な正体に驚くととともに、「さんず」の本当の仕事相手には驚かされます。

このほか、毒のある鱗粉を食べて毒死を図る蝶コレクターが、自分のコレクションを譲る候補者探しを「さんず」の依頼した本当の理由や、ギャンブルの借金をちゃらにするため自殺をはかる飲食店主が、最後の食事に甘ったるい「プリン」を希望したことに隠されていた幼い頃の秘密など、作者のドンデン返しの技を堪能しながら読み進めていくうちに、最終話では、「さんず」の社員で、今巻の仕事をしてきた「スガ」と「カトウ」が隠していた秘密が明らかになっていくのですが、詳細は原書のほうでどうぞ。

ドンデン返しと巧みなストーリーテリングで知られる作者の手練の技が展開されているので、作者の:掌の上で転がされてみてくださいね。

レビュアーの一言

「自殺幇助ビジネス」というネタを扱っているので、読まずに批判する人たちがでやしないかと心配するところなのですが、本書の冒頭に「自殺幇助について、著者および編集部の意図を示すものではありません。」とあるように、自殺幇助を賛美する内容ではなく、上質なミステリなのは間違いないので、安心してお読みください。

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