諦め系高校生アクアは、スチームパンク少女や老テーラーとコルセット革命を企む=川瀬七緒「革命テーラー」

福島県の田舎町に、ポルノ漫画家の母親と暮らしている男子高校生・津田海色は、寂れていく故郷の町と、地元のそこそこの進学校に通いつつも将来何になるかの希望も見つからず、閉塞感に満ちた日常をおくっていたのですが、ある日、寂れた地元商店街にある紳士服の洋服屋・テーラー伊三郎のショーケースに手製のコルセットが展示されているのを見つけたところから、退屈な日常生活が急変していく物語が『川瀬七緒「革命テーラー」(角川文庫)』です。

本書の紹介文によると

町おこしのキーアイテムは「コルセット」!?不憫すぎる少年と偏屈な老テーラー、スチームパンク少女が凝り固まった田舎町に革命を起こす!
疲れたあなたに元気を注入する、とっておきエナジー小説。

とあって、昆虫を使って検死をする昆虫学者・赤堀を主人公にした「法医昆虫学者シリーズ」や、「女学生奇譚」や「うらんぼんの夜」など怪奇色満載のミステリで有名な筆者による、「元気が出るミステリ」です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 無頼派コルセイユ
第二章 東北弁のスチームパンク
第三章 ジャポニズムと平行世界
第四章 幻想時計台
第五章 レジスタンスの行方

となっていて、冒頭では、今巻の主人公である男子高校生・津田海色(ツダ・アクアマリン)が通学途中にある寂れた商店街の紳士服専門の洋服屋「テーラー伊三郎」のショーウィンドウの中に、18世紀のロココ調の女性用の「コルセット」が展示されているのをみつけます。現代では使用されることはほとんどないとはいえ、手製の女性用の下着がこれみよがしに紳士服専門店に飾られているのですから、通行するサラリーマンや高校生の注目の的となったのは当然です。

実は、津田少年は、ポルノ漫画家である母親が、その作品中でやたら詳しい歴史的建築物や、風俗、衣装を描くことが多いのですが、絵のトーン貼りや仕上げのペン入れを手伝うことが多いため、それらにやけに造詣の深い、歴史建築・衣装オタクに成長していて、この洋品店に飾られたコルセットの精密さに興味津々というところです。

ただ、母親の描くマンガの手伝いが忙しく、その店を再訪することができずにいたところ、その店の老店主・鈴村伊三郎から連絡を取りたい、という呼び出し状が店頭に貼りだされ・・という筋立てです。

で、この貼り紙に従って店を訪ね、偏屈で頑固な伊三郎と出会うことによって、彼のいう「革命」に賛同して行動を始めることとなるわけですね。

「革命」といっても、政府転覆の武力闘争といった荒々しいものではなく、注文を受けたコルセットを展示し、この趣味嗜好に賛同するお客たちが集まれるよう店を大改修するというものなのですが、「コルセット」というものが風紀を乱すと主張する商工会長や、コルセットの文化そのものが女性を虐げてきた歴史だ、と主張する小学校の教頭先生あがりの女性運動家・真鍋女史たちの妨害によって、津田海色こと「アクア」が母親によって児童虐待を受けているといった疑惑までもちあがる、手ごわい妨害活動を受けることとなります。

これに対して、アクアと伊三郎は、アクアの小学校時代の同級生で、イギリスの「スチーム・パンク」に詳しい、東北弁のきつい女子・三木明日香や、伊三郎の亡妻の友達の老女たちの支援を受けて、妨害活動をかいくぐって、「革命」にむけて準備をすすめていきます。そして、いよいよ決行の時に起きたことは・・という展開です。

結末のほうは原書で確認していただくとして、アクアのように日常に閉塞感を抱えている若者や、伊三郎のように年老いたとはいえ、まだやんちゃな心を失っていない老人たちすべてを力づけてくれる物語になっています。

レビュアーの一言

本巻は「コルセット」というヨーロッパの服飾史では必ずでてくるものであるにもかかわらず、その不便さから廃れてしまったものがメインのネタに据えられていて、それらをとりまく様々なエピソードも含めて、筆者の前歴が活かされている感じですね。

当方が印象に残ったのは

フランスの中部地方では刃物産業がさかんで、十九世紀の末ぐらいまで村の娘たちを使った街頭セールスが続いたわけ、パリからリヨンへ抜ける街道なんかが稼ぎばでさ。馬車とか車が来ると、刃物女が一斉に飛び出してってステップに飛び乗ったりすんの。つまり、女の子たちの重さで馬車を強制的に停めるんだよ。
(中略)
旅人はさ。エプロンを着けた娘たちが四方八方から押し寄せてくるのを見て、ものすごく怯えた。だって、区分けされたエプロンのポケットには、カミソリとか折り畳み式ナイフとかハサミとかテーブルナイフとか、武器が山ほど押し込まれてんだからね

といったエピソードですね。ドイツのゾーリンゲンと並んで。ヨーロッパの刃物の代表地といわれる「ティエール」あたりのエピソードだと思われますが、「ジブリ映画」あたりででてきそうなエピソードのように思えませんか。

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