クラウドファンディングを使った身代金調達に隠された秘密を暴け=京橋史織「午前0時の身代金」

誘拐事件の犯人から身代金の要求といえば、以前は電話で身代金の金額と受け渡す場所を告げてきて、そこの警察の電話の逆探知とその裏をかこうとする犯人との虚々実々のかけひきがあって、というのがかつての「誘拐もの」。最近では電話という手段は流行らなくなってきたのか、最近では二宮和也さんと多部未華子さん主演の誘拐ドラマ「マイファミリー」では、犯人側との連絡手段がスマホのゲームというのが斬新だったのですが、いずれも身代金の要求先は誘拐された女の子の家族か会社でした。

そこをごろんとひっくりかえして、クラウドファンディングによる身代金請求という仕掛けで展開していくのが、本書『京橋史織「午前0時の身代金」(新潮社)』です。

2021年の第8回新潮ミステリー大賞を、審査員全員一致で受賞し、デビュー作が、発売後4日で重版となったという話題のミステリーですね。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 消えた依頼人
第二章 未曽有の脅迫状
第三章 クラウドの審判
第四章 運命の選択
終章  心に兆すもの

となっていて、まず冒頭は、東京にある中堅の弁護士事務所に司法修習をすませたばかりの新米弁護士・小柳大樹が、信じていた恋人にクレジットカードや現金を持ち逃げされた女性の相談にのっているところから始まります。その恋人が結婚詐欺師であることが信じられない女性を説得しようとして、うまくいかない彼の様子から、真面目で熱心ではあるものの、実績がおいついていかない「新人ぶり」がよく出ています。この事件は、最後半のところで、なんとか解決することになるので、そこまで覚えておいてくださいね。

本筋の事件のほうは、小柳の先輩弁護士で、この事務所の共同経営者の一人である「美里千春」弁護士に依頼がきていた案件のヘルプに入る所からスタートします。その依頼者は「本條菜子」という21歳の美容専門学校に通っている若い女性で、一昨日、詐欺グループに追われていたところを、美里弁護士によって助けてもらったとのこと。

ところが相談の第一声で、「私は詐欺をやっていました」という衝撃的な発言が飛び出します。

詳しく聞くと、彼女はSNSで知り合った友人の恋人・川崎に騙される形で、降り込め詐偽の「受け子」をやらされてしまったとのこと。彼女が詐偽の片棒を担がされたことを知った友人は、彼女を一味から抜けさせようとするのですが、恋人による暴行で大怪我をおい、入院の末に敗血症で死亡してしまいます。

その友人の仇を討つため、川崎が彼の属する犯罪組織の元締めから請け負った、鞄窃盗の手助けをするふりをして、すきをみて、鞄の中にあった封筒をファミレスのゴミ箱に捨てて逃走します。封筒を菜子が:盗んだと気づいた川崎が、取り返すためにおいかけてくるところを、通りかかった美里弁護士が車でピックアップした、という経緯です。

その後、菜子は一旦は両親と同居する自宅へ帰ったのですが、川崎たちが封筒を取り返そうと電話をかけてきたり、家の近くまでやってきたことから、美里弁護士に保護を求めてきて、小柳は彼女の担当となるのですが、ちょっと目を離したすきに、何者かに誘拐されてしまう、という失態を演じてしまいます。

そして、その翌朝、犯人らしき人物からIT企業サイバーアンドインフィニティに、菜子の身代金10億円を、日本国民からクラウドファンディングで、4月11日午前0時から午後24時までの24時間で募集して用意しろ、という前代未聞の身代金要求の脅迫メールが届きます。

この時点で、菜子の父親が有名なTVキャスター、母親が有名女優であることがわかるのですが、両親が身代金を用意することは犯人によって禁じられ、菜子の運命は「日本国民の善意」に左右されることとなり・・という筋立てです。果たして、10億円のクラウドファンディングが成功するのか、ハラハラの展開となっていきます。

一方、菜子の誘拐を許してしまった小柳のもとへ、週刊誌の記者をやっている倖田という男が接触を図ってきます。彼からもたらされた「極秘情報」によると、今回の身代金騒動はフェイクで、本当の狙いはサイバーアンドインフィニティ社。そして同社には別の脅迫メールが届いていて、それが本当の狙いだというのです。さらに、サイバーアンドインフィニティ社が受けている脅迫には、小柳のボスである美里弁護士が関係していそうな証拠写真も見せてきて・・と別筋の事件も動いていきます・

そして、この誘拐事件には、菜子を詐偽に引き込んだ「川崎」が絡んでいると推理した、小柳は、従妹で探偵をやっている「和香」に潜入捜査を頼むのですが、これは悪手。和香は川崎たちに捕まってしまい、サイバーアンドインフィニティ社が:開発した新システムの情報を脅し取る脅迫事件のほうへと巻き込まれていきます。

菜子の身代金のクラウドファンディングの結果は、そして和香の運命は、と二筋で物語が展開していくのですが、徐々に二つがすり寄り始め、一つにまとまった時、二つの誘拐事件の意外な真犯人が明らかになっていきます。

Bitly

レビュアーの一言

誘拐事件の身代金の調達を、被害者家族ではなく、クラウドファンディングによって「日本国民」にさせるというアイデアはまさに現代っぽい仕掛けですね。しかも、少しネタバレしておくと、1万円以上の高額寄付には件数制限がかけられていて、件数制限のない一口5千円の寄付を大量に募らないと達成できないという、まさに「善意」を試すやり口ですね。

ただ、「善意」頼みということは、募金額未達成の危険性もかなり高いわけで、犯人の意図がどこにあるのかわからなくなってくるのですが、ここにも作者の仕掛けが隠されているので油断しないでくださいね。

息もつかせない怒涛の展開と、小柳弁護士の義憤あふれる直情径行の動きと、クールで策謀家の美里弁護士の知略が魅力の、ぜひシリーズ化してほしい物語です。

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