武田勝頼、小山田信繁の裏切りの前に死す。そして松姫の運命は=梶川卓郎「信長のシェフ 32」

現代からタイムスリップをしたフレンチのシェフが、織田信長の専属料理人となった上に、彼の命を受けて信長の前に立ちはだかる様々な難題を「料理」によって解決していく『梶川卓郎「信長のシェフ」(芳文社コミックス)』シリーズの第32巻。

前巻で、織田信忠の「松姫へ離縁の意思を伝えよ」という密命を受けて、織田軍の攻めこむ武田領へ潜入した「ケン」は、亡き武田信玄の弟・竜宝の庵に滞在した後、武田勝頼・仁科盛信・小山田信茂の娘たち三人を連れて新府城を脱出した「松姫」の後を追い、山中の寺で追いつきます。家臣の裏切りが相次ぎ、武田家滅亡の時が迫る中での、松姫とのやりとりと、織田勢の猛攻を受けながらの武田勝頼たちの最後の戦が描かれます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第262話 高遠城の戦い
第263話 松姫の想い
第264話 督姫への一品
第265話 「はなくそ」の真意
第266話 小山田の離反
第267話 離別の時
第268話 武田の終わり
第269話 信忠の正室

となっていて、冒頭は武田勝頼の弟・仁科盛信の守る高遠城での攻防から始まります。ここで、盛信に対して降伏と帰順をすすめる織田信忠なのですが、ここはかつて高遠城を勝頼から引き継いだ盛信の忠義心を無視した交渉ですね。この時期、木曽義昌・穴山梅雪と武田の重臣たちの謀反が相次いでいるので、盛信も同様と思ったのでしょうが、この申し出が彼らの怒りを倍加させたのか、結果的に高遠城は落城するのですが、織田勢にも多くの損害を出すこととなります。

ちなみに、盛信の家系は、次男・信貞が継いで徳川家康に仕え、旗本として幕末まで存続しているようです。現在は「武田」の姓に復しているようですね。

そして、高遠城が落城し、新府城の重要な守城が失われたことで、城内の今後の方針を巡って大騒ぎになっています。

ここででてくる選択肢が2つ。真田昌幸の主張する彼の居城・岩櫃城に退き、上杉の援軍を待って反転攻勢にでるという作戦と小山田信茂の主張する「岩殿城」に籠城するという作戦です。
勝頼は、最初、真田のいう「岩櫃城」への退却を選択するのですが、急遽、「岩殿城」への籠城に方針転換します。これは、新規に武田に仕えた真田昌幸が信用しきれなかったという話と、岩櫃城が噴火中の浅間山に近かったためという説があるようですが、真相はどちらでしょうか。「真田ファン」としては、浅間山説をとりたいところですが、この選択が、後に、小山田信茂の裏切りによって、勝頼ら武田本家の命運を断つこととなってしまいますね。

もっとも、勝頼の「岩殿城」入りは、従弟の武田信豊の小諸城入りと呼応して、織田軍を逆に殲滅する作戦であったともされているのですが、詳細は原書のほうでお確かめください。

また、小山田信繁の謀叛は、本シリーズでは、自領を戦場とするのを防ぐため泣く泣く勝頼を裏切った、と描かれているのですが、戦後、織田信忠に息子を人質として差し出そうとするところを織田信忠に止められ処刑されています。
武田攻めの最前線にいた信忠としては、武田に殉じた仁科盛信との違いに我慢がならなかったのかもしれません。

一方、ケンのほうは、松姫へ織田信忠の言葉を伝えた後、甲斐から逃れていく松姫を守って付き従っています。この逃避行中に、姫様たちに「はなくそ」というお菓子をつくっているのですがこれがどんなものかは本編中でお確かめを。

松姫一行は、仁科盛信の娘・督姫、武田勝頼の娘・貞姫、小山田信茂の娘・香具姫、そして幼い仁科信基をつれて、八王子まで逃れています。この八王子に滞在していたときに、信忠が迎えにやってこようとしたのですが、本能寺の変が勃発し、と悲恋物語の幕切れとなっています。
この松姫たちの逃避行については原書のほうでお読みくださいね。

Bitly

レビュアーの一言

高遠城陥落後、武田勝頼の去就を決めるにあたって、自らの居城・岩櫃城への退却を進言した真田昌幸なのですが、彼は「策士」として有名で、井原忠政さんの「三河雑兵心得」では、「表裏比興之者」として、徳川家康たち三河武士を手玉にとっています。

真田昌幸は、上杉勢の援軍を待つこともあわせて主張していて、勝頼の去就を決めた軍議には、真田たち上杉派と北条派の対立といった側面もあるのかもしれません。

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