相場師あがりの僧侶は老舗料理屋の幽霊や老舗商店の跡継ぎ騒動の謎を解く=畠中恵「御坊日々」

幕末・維新の動乱も鎮まって、銀座の赤煉瓦街もでき、牛鍋屋も繁盛して、徳川時代の生活どころか、西欧文明が怒涛のように乱入して混乱を極めた明治初めも遠くなった、明治20年代。明治初期に、当時の住職が急死し、廃仏毀釈もあって廃寺になりかけた上野の「東春寺」を相場で儲けた金で買い戻した僧侶「冬伯」が、寺に持ち込まれる様々な相談事の謎解きや解決をしていく、時代ミステリーが本書『畠中恵「御坊日々」(朝日新聞出版)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「色硝子と幽霊」
「維新と息子」
「明治と薬」
「お宝と刀」
「道と明日」

となっていて、まず「序」のところで、本巻の設定がざくっと紹介されていて、主人公となるのは、廃仏毀釈で廃寺となりかけ、追従の神社や檀家も離れた寂れ寺の、相場師を兼業している住職・冬伯。かれは幕末頃、この寺の先代住職だった宗伯の弟子だったのですが宗伯の急死で寺を離れていたのですが、相場で儲けて寺を買い戻し、再興させたという経緯です。
ただ、一旦離れた檀家はもどってはこず、いまは兼業の「相場」で寺の活動費を稼ぎながら、檀家の回復を細々と始めているというところなのですが、相場で失敗って、再び寺を手放すことにならないか、弟子の「玄泉」に心配されながら、近くの住人からもちこまれる相談事や謎解きをしています。

まず第一話の「色硝子と幽霊」では、上野で江戸の頃から料理屋をしている老舗「八仙花」の女将が持ち込んでくる相談事です。「八仙花」は江戸趣味の残る料理屋だったのですが時流に遅れ、維新後は商売もだんだんと左前になってきていたのを、この女将が色硝子を入れたりといった洋風趣味を取り入れ、和洋折衷の料理屋として繁盛店に復活させたという歴史をもっています。
ところが、最近、その洋風趣味もありきたりになり、再び流行らなくなってきたところで何か新機軸をいれたいと思っているのですが、その経費の捻出と、どんな新機軸にするかで家庭内の意見対立が激しくなっている上に、この店に幽霊がでるという噂もたちはじめ、という展開です。

「八仙花」建て直しのアイデアを求められや冬伯が、幽霊出現の謎解きと店の後継者問題、そして幽霊話を逆手にとった新機軸のアイデアがどんなものだったか、原書のほうでお確かめください。

第二話の「維新と息子」は、自分の息子が実の息子ではないのでは、という疑いを払しょくしきれない母親が引き起こす、後継騒動です。舞台となるのは上野で古くから「紅」を扱っている北新屋という老舗なのですが、ここの跡取り息子の「昌太郎」が産まれた時に、近くを通りかかった顔見知りの小間物屋の妻も体調を崩して北信屋の店内へ運び込まれて、男の子を産むという偶然に見舞われます。その小間物屋の妻は産褥で死亡してしまったため、しばらく、昌太郎の母親・与志江が二人に乳をやっていたのですが、この時に、どちらが本当の北新屋の子供なのか、嫁(与志江)と姑の間で争いになって・・という筋立てです。

その時から、与志江は、昌太郎が本当の実子なのか疑いをもっていたのですが、年をとって少しボケのでたところで疑いが激しくなったというところです。
彼女は、その小間物屋の子供の行方を探し、「文吉」という若い男性を探し当てるのですが、北新屋の女将が実の息子を探しているという話を聞いて、すっかり、文吉は北新屋の本当の「跡取り気分」になってしまうのですが・・という筋立てです。

しかし、文吉には多額の借金があり、代わって弁済するため、母の与志江は、離縁するはずだった昌太郎の嫁の持参金に手をつけたり、嫁入り道具を売っぱらおうとしたため、上野の顔役である嫁の父親が乗り出してきて、と騒ぎが拡大していきます。

老舗の北新屋を揺るがす後継ぎ問題のごたごたを冬伯がどうおさめるか、彼の手腕に期待しましょうか。

このほか、上野の貧民窟の若い者をまとめている顔役・辰馬と手下数人が、東春寺に「お宝」が隠されているという噂を聞きつけて、それを奪おうと寺内へ入り込んできます。寺の隣のある神社の宮司もそれにまきこまれての大騒動となる「明治と薬」、幕末にどこかに隠されたという徳川の埋蔵金をめぐって、冬伯の仲間となった「辰馬」が二人組の侍くずれに襲われたり、その埋蔵金を使って、東京の都市整備をやろうとする政府の高官が出現し、冬伯の師僧である「宗伯」の急死の理由が明らかになる「お宝と刀」「道と明日」など、明治初期の混乱が収まり、新しい時代の姿が固まっていく中での庶民の暮らしの中の様々な謎ときがされていく、「明治時代」のコージー・ミステリーです。

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レビュアーの一言

畠中恵さんは、旧幕府の旗本の若様たちが「警官」になって事件解決に活躍する「若様組」シリーズや、江戸の闇の中に紛れていた「妖」たちが明治になって一般市民の中に紛れこんで生活しながら、怪事件に絡んでいく「明治・妖・キタン」シリーズなど、一風変わった「明治もの」を手がけているのですが、今回は、そのどちらのジャンルにもはまらない新しい「明治もの」となっています。

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