「ぜんや」の次世代・お花と熊吉の活躍が始まる=坂井希久子「すみれ飴 花暦・居酒屋ぜんや」

居酒屋ぜんやの女主人・お妙の親と夫の仇となる一橋治済と因縁の対決をしてから数年後、夫婦となった只次郎とお妙。只次郎が侍の身分を捨てて町人になり、鴬の飼育と商いの指南、妻のお妙が経営する人気の飯屋兼居酒屋「ぜんや」を営む中、「ぜんや」をおきる様々な人情物語が描かれる「居酒屋是ぜんや」の第二シーズンの第1弾が本書『坂井希久子「すみれ飴 花暦・居酒屋ぜんや」(時代小説文庫)』です。

第一シーズンの最後では、徳川幕府を陰から支配する黒幕・一橋治済にいいようにあしらわれ、身の危険を感じてそれ以上の深入りを止めた只次郎とお妙は、「ぜんや」を中心にいつもの平穏な暮らしを続けています。

「ぜんや」では、二人の養女となった「お花」も14歳になって、店の手伝いをはじめているのですが、なかなかうまくいかず、薬種問屋の手代となった「小熊」が成長した「熊吉」とはいつも喧嘩ばかりで、と第二シーズンでは、前シーズンでやせっぽちで実母にイジメられていたお花の奮闘記が描かれます。

あらすじと注目ポイント

収録は

「菫の香」
「酒の薬」
「枸杞の葉」
「烏柄杓」
「夏土用」

となっていて、第二シーズンでは、第一シーズンの最終巻で、実母から捨てられ、ぜんやに引き取られた「お花」は14歳になり、只次郎・お妙夫婦の養女となって居酒屋の手伝いを始めているのですが、幼いころからの人見知りと不器用さは直っておらず、只次郎や近所の人にも遠慮しながら暮らしているようです。

お花をきにかけていた、薬種問屋の丁稚の「小熊」こと「熊吉」は、18歳となり大柄な青年に成長し、店では主人に見込まれて、手代に抜擢されているのですがその分、先輩からのやっかみもひどくなっているようです。

この第二シーズンは、この二人の成長を中心に展開されていくこととなりそうですね。

第一話の「菫の香」では、まず、ぜんやの手伝いを始めている「お花」の姿が描かれているのですが、幼いころからの不器用さと人見知りのせいか、養女となって三年経っても、まだ只次郎・お妙夫婦への遠慮が目立っています。

大川沿いに捨てられたのを、只次郎・お妙に救われて、海苔問屋の宝屋の養女となった「お梅」に実の親と思ってもっと甘えろとアドバイスされるのですが、微妙な態度はそれ以後も続いていきます。

そんな中、安価で有名な煮売屋の魚で、宝屋の女将がじんましんになったのを、お花があちこちに指摘したことで、その煮売屋とトラブルになります。自分の行動に自信をもつお花に、お妙がしたアドバイスは・・という展開です。

実の親に虐待され、捨てられた、「お花」のトラウマがまだ癒えていないところが見え隠れしています。

第二話の「酒の薬」では、お花のことを幼いころからきにかけてくれている、薬種問屋の手代・熊吉が薬の取り違えで、取引先に平身低頭している姿から始まります。熊吉が間違えたわけではないのですが、この取り違えが大問題にならずの終わったことが、彼が幼少期から仲の良い友達と別離してしまうことにつながるのですが、ここではまだ発端が見えてきたところですね。

話の本筋は、熊吉の務める俵屋で新薬を開発するため、市中で買い求めた怪しげな薬を服用しての賑やかな酒盛りですね。只次郎が服用した「酒が嫌いになる薬」の効能のほどが一番の焦点です。

このほか、お妙に子供ができたため、動揺するお花の姿が描かれる「枸杞の葉」、熊吉が背整理を頼まれていた生薬はごちゃまぜにされる事件のおきる「烏柄杓」といった話が続いた後、最終話の「夏土用」では、只次郎の思い付きでやることになった、「ぜんや」の鰻尽くし料理で、優れた嗅覚をもつお花が鰻の香りと食べ物の香りの記憶を組み合わせながら、絶品料理メニューを考え出していくので、詳細を原書で読んであげてくださいな。

この最終話でようやく、お花はお妙に料理を教わる許可をもらいこととなります。

レビュアーの一言

お妙さんの名品料理と只次郎の鴬の鳴き声指南の様子が描かれることの多かった第1シーズンに比べて、第2シーズンは、薬種問屋の手代・熊吉とぜんやの娘・お花が物語の中心になってきたせいか、取り上げられるネタも漢方薬などが多くなっています。

さらに、前シーズンではまだ赤ん坊だったのですが、お転婆に成長した長屋の左官屋の女房「おかや」や妙に礼儀正しい、酒問屋升川屋の跡取り息子・千寿など前とは一風変わったメンバーが登場して、シリーズの雰囲気も変わってきています。

主人公の「お花」が相当控えめで陰キャなのですが、これがどう変化していくか、乞うご期待というところでしょうか。

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