ミステリーとしては異色な探偵役である、有名国立大学の物理学の若手研究者・湯川秀人が、同級生である警視庁捜査一課の刑事・草薙に頼まれて、彼の部下の女性刑事・内海とともに、現代科学を利用した犯罪の謎を解いていく人気のミステリー「ガリレオ」シリーズ。
このシリーズは、ガリレオ役を福山雅治さんが演じ、湯川と言い合いをしながら捜査をすすめていく相棒役に柴崎コウさん、吉高由里子さんといった有名女優が演じて、いまなお根強い人気を誇っているのですが、2022年9月に、新しい相棒となる牧村朋佳役として新木優子さんを迎えて、シリーズ第８作となる「禁断の魔術」が新作SPドラマとしてリリースされます。
今回はこの『東野圭吾「禁断の魔術」（文春文庫）』をご紹介しましょう。
ちなみに「牧村朋佳」という役柄はSPドラマ用の設定で、原作では湯川の相棒となる女性刑事は「内海薫」のままです。おそらく「内海薫」といえば「柴崎コウ」というイメージが強くてこうなったのでは、と推測するところです。
あらすじと注目ポイント
構成は
第一章 透視す みとおす
第二章 曲球る まがる
第三章 念波る おくる
第四章 猛射つ うつ
となっていて、章立てにはなっているのですが、短編３つ、中編１つの作品となっています。
第一話の「透視す」では、初対面の客の名前を透視してあてる超能力をもっているというのが売りの高級クラブのホステスが絞殺される事件です。
殺された女性の源氏名はアイというのですが、湯川も草薙につれていかれて、その透視術を見せられて驚きます。さらに、そのトリックを見破ったと、アイに告げるのですが、実はそれはアイのフェイクで、と完全に弄ばれてしまいますね。
この透視術自体は、超能力でもなんでもなくて、ガジェットを使ったトリックなのですが、固定客を増やそうとして口を滑らしたアイの行動が命取りになる事件です。
第二話の「曲球る」は、体力の限界を感じながらも、現役にしがみつこうとする野球選手の話です。彼の妻がスポーツクラブの駐車場で通り魔殺人にあうのですが、その車についていた無数の不審なサビがもとで、不倫疑惑が浮かび上がるのですが、捜査の過程で知り合った草薙の紹介で、湯川に投球ホームを分析してもらったことがきっかけで、隠された「妻の愛情」を再確認することになります。
第三話の「念波る」では、ブティック経営をしている女性が何者かに襲われ殴られて意識不明の重体となります。彼女が襲われた時、双子の姉妹がその女性が襲われたことを、「テレパシー」で感じ取って、襲われた女性の夫に連絡をとってきます。本当に双子のテレパシーは存在するのか、それとも偶然か、という謎解きですね。少しネタバレしておくと、そのどちらでもないのですが、思ってもみない「殺意」が隠されています。
第四話の「猛射つ」は、事件としては、最先端の科学技術の開発拠点と研究拠点を整備する「スーパーテクノポリス構想」がらみのスキャンダルをつかんだらしい、フリーのルポライターが絞殺されるのですが、その容疑者として湯川の出身高校を卒業し、帝都大学に入学してきた男性が浮かび上がります。
その男性は湯川と同じ高校の出身で、彼の属していた「物理クラブ」の廃部の危機をOBの湯川が救ってくれたことから、湯川の所属する帝都大学へ進学してきた、という優秀な生徒だったのですが、入ったばかりの大学を退学し、町工場に就職しているという経歴です。
実は、彼は、「スーパーテクノポリス構想」を推進する自分の姉の事故死を放置した、姉の不倫相手である政治家への復讐を計画していて、その過程で殺されたルポライターとも知り合っていたのですが、本当に彼が殺したのか・・という筋立てです。
そしてこの殺人事件とは並行して、彼の復讐計画が進んでいき、その凶器として、湯川が彼とともに製作し「物理クラブ」の勧誘に使った、ある「武器」が持ち出され、使われようとします。それに気づいた湯川は彼の犯行を止めようとするのですが、その決め手は彼の亡くなった優秀な技術者だった父親のエピソードで・・という展開です。今巻の表題の「禁断の魔術」は、犯行を止める「キーワード」となっているのですが、その意味は原書のほうでお確かめくださいね。
レビュアーの一言
最終話で登場する「武器」は「レールガン」というものなのですが、これは物体を電磁気で高速に打ち出す装置で、ゲームやSFマンガなどではおなじみのものなのですが、実際のところはまだ未実用で、アメリカ、ロシア、中国、日本、トルコなどで研究が進められていて、アメリカは陸上と艦船でテストを繰り返しているようです。用途としては、弾丸がミサイルに比べて安価なことから、宇宙ゴミや隕石を除去する宇宙兵器用や、核融合炉の中への燃料ペレットの投入用といったことが考えられているようです。
トルコでは小型の電磁砲が軍事見本市に出品されたという情報もあるようで、このミステリーで実作機が登場するのも、全く架空の話ともいえないかもしれません。
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