絵本作家+容疑者の逃走で明らかになる探偵ガリレオの秘密=東野圭吾「透明な螺旋」

天才物理学者・湯川学をメインキャストにして、同級生の警視庁捜査一課の刑事・草薙と、彼の部下の女性刑事・内海薫が、現代科学をつかった難事件を、その科学的知識と推理力で謎解きをしていくミステリーで、福山雅治主演のドラマとして人気の衰えない「探偵ガリレオ」シリーズの第10弾が「東野圭吾「透明な螺旋」(文芸春秋)」です。

前巻でアメリカから帰国し、東京のはずれに建設された帝都大学の新しい研究施設に勤務していた湯川なのですが、今巻では、老齢となり余命も短くなっている両親の住む横須賀で介護生活をしながら暮らしているところに、草薙たちが房総沖で起きた事件の謎解きを持ち込んできます。

あらすじと注目ポイント

物語の最初のところでは、昭和40年代、秋田から上京してきて千葉の紡績工場に勤めている女性が、ひったくり泥棒からハンドバックをとりかえしたもらった縁で、長野出身のわかう男性と知り合い、結婚して女の子ができるのだが、突然、彼女を不幸が襲い・・といったエピソードが語られます。
あぁ、これは今巻でおきる事件の誘導部分だな、と思って読み飛ばしておくと、今巻でしかけられているトリックに足をすくわれる事になるので注意しておいてくださいね。

事件は房総沖の銃殺死体

物語の本筋のほうは、上野の生花店で働いている「島崎園香」という若い女性の話から数タートします。彼女はシングルマザーであった母親と暮らしていたのですが、その母親の急死後、映像関係のイベント企画をしている男性と知り合い、同棲生活を始めます。

最初、才能にあふれた彼との生活は楽しかったのですが、彼が退職してはじめた企画会社の仲間たちと不和になり、仕事もうまくいかなくなったあたりから、彼の拘束癖がひどくなり・・といった話が伏線ではられます。園香の母親は、児童養護施設で成長し、その後、その施設の職員となって園香を育ててくれた、というところが母親のエピソードで紹介されるのですが、ここらも謎解きの大事なキーとなっているようですね。

事件のほうは、10月の初め頃。房総沖で、背中から撃たれ死亡している男性の漂流死体が発見される、というもの。身元を全国各地の警察に照会したところ、東京の足立区で行方不明届が同居している女性から出されている「上村」という男性であることが判明するのですが、その女性というのが「島崎園香」で、彼女は届けを提出した後、勤め先を休職して、行方をくらましていることがわかり・・という展開です。

園香は、同棲していた上村に家庭内DVを受けていたようなのですが、園香がそのせいで休暇をとったとき、70歳過ぎの上品な老女が彼女が勤める店へ訪ねてきて、といったことがおきていて、これも園香の失踪に関係がありそうな筋立てです。

同棲女性は絵本作家と逃走

そして、園香の自宅を捜査したところ、「アサヒ・ナナ」という著者の絵本が三冊みつかり、園香がその作家の熱心なファンで交流もあったという情報から、出版社へ問い合わせるとその作家も取材旅行と称して、行き先がわからなくなっていることがわかります。さらに、絵本作家「アサヒ・ナエ」の自宅マンションの防犯カメラの映像を確認すると、大きな旅行バッグをもって、ナナと一緒にマンションをでていく園香の画像が残っていて・・と事件が展開していきます。ここで、アサヒ・ナナの本名が「松永奈江」といって、園香が幼い頃から世話になっている女性の名前が「ナエ」さんといい、事件のおきた直後、「ナエさんという人と連絡をとっていた」というところと符号してくるわけですね。

この「アサヒ・ナナ」こと、松永奈江の書いた絵本「ひとりぽっちのモノポちゃん」という「モノポール」という単一磁荷をもつ理論上の素粒子をモチーフにした絵本の取材で「湯川学」が理論的なアドバイスをしていたという記録が見つかったことから、湯川が草薙によって捜査協力に駆り出されます。

絵本作家と湯川のつながりが事件の肝?

湯川から松永奈江にメールで連絡をとり、居場所を探り出してくれという草薙の頼みを拒否し、「偽メールは出せないが、別の形で捜査協力する」と奇妙なことを草薙に告げる湯川。その後、奈江の交友関係から越後湯沢の元リゾートマンションへ潜伏しているらしことを草薙たちがつきとめ乗り込むのですが、奈江と園香は、その数時間前にマンションから逃げ出します。草薙の捜査情報は、部外者では湯川しか知らないはずなのですが、ひょっとすると、奈江の知り合いである湯川が情報をリークしたのでは、という疑惑も広がり・・といった展開です。

さらに、いつものように高級クラブ通いをしている草薙のいきつけのクラブのママが、この事件に意外な関心をもってくるあたりも見逃せない謎解きのヒントですね。

前巻までは、冷静な事件の観察者然としていた「湯川」なのですが、今巻では事件にかかわる逃亡者たちを支援する容疑者といった疑いもでてきて、事件関係者と探偵という二面をもちながら展開していく「探偵ガリレオ」ものになっています。

Bitly

レビュアーの一言

今巻で色濃く描かれるのが、昭和40年代頃、一回目の東京オリンピックが終わり、高度経済成長に向かって大きく熱気を帯びていく日本社会の中で、不幸な出来事に翻弄されていく母子の姿です。実は、今巻では、湯川学の意外な過去も垣間見えてきますので、「探偵ガリレオ」ファンにとっては、主人公・湯川学のプロフィールに新たな記述を加えることのできる一冊になっています。

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