探偵ガリレオは念力を操る宗教指導者のトリックを見ぬく=東野圭吾「虚像の道化師」

天才物理学者・湯川学をメインキャストにして、同級生の警視庁捜査一課の刑事・草薙と、彼の部下の女性刑事・内海薫が、現代科学をつかった難事件を、その科学的知識と推理力で謎解きをしていくミステリーで、福山雅治主演のドラマとして人気の衰えない「探偵ガリレオ」シリーズの第7弾が「東野圭吾「虚像の道化師」(文春文庫)」です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「幻惑す」(まどわす)
「心聴る」(きこえる)
「偽装う」(よそおう)
「演技る」(えんじる)

の4篇で、ガリレオシリーズの特徴である、科学技術トリックを駆使した犯罪を湯川・内海が謎解きをしていく短編集となっています。

「幻惑す」(まどわす)

まず第一話の「幻惑す」の事件は、「クアイの会」という新興の宗教団体を取材している雑誌記者の目の前でおきます。教団の幹部たちの会合に出席していた週刊誌の記者「奈美」の目の前で、一人の幹部が教団を裏切ろうとしているとして、教祖から糾弾されます。教祖はその幹部に手をかざし「念をおくり」はじめると、その幹部は何かから逃げるように教団ビルの5Fの窓から飛び降りて墜落死します。

草薙や内海の捜査に協力して、湯川が教団に体験入会し、実際に、この教祖の「念力」によって体が熱くなる経験をするのですが、湯川が明らかにしたそのトリックは・・という筋立てです。

「心聴る」(きこえる)

第二話の「心聴る」は大手町の「ペンマックス」という会社でおきます。最近、耳鳴りに悩まされて医者に通っているそこの女子社員・脇坂睦美の部署で、上司の部長が自宅のマンションのベランダから飛び降りて墜落死します。その部長は最近、いつもびくびくして何かにおびえているようで、社内では三ヶ月前に自殺した部長と不倫していた女子社員のたたりでは、という噂もたっています。そんな折、その部署の加山という男性社員が、通院した病院で、幻聴からとつぜん暴れだして近くの老人に暴行をし、居合わせた草薙に取り押さえられるという事件がおきます。彼も最近、頭の中で突然人の声がするようになって、プレゼンの席でも失態を犯していたようです。

加山を取り押さえた草薙は、加山からナイフで刺されて負傷してしまい、見舞いにきた草薙の同期の警察官・北原といつものガリレオのメンバーの内海と湯川が、この会社で連続する「幻聴」事件の謎を解いていきます。

「偽装う」(よそおう)

第三話の「偽装う」は、湯川や草薙の大学の同級生の結婚式に出席したところ、大雨による崖崩れで会場に足止めになってしまったところ、近所の別荘でおきた殺人事件の捜査に急遽かりだされることとなります。その事件は、別荘の主の夫のほうが散弾で撃たれてロッキングチェアの上で、妻のほうが同じ部屋で首を絞められて死んでいるのを、訪れた娘によって発見されたものです。

その女性は、草薙と湯川が結婚式会場に来る前に、自車がパンクして困っているところを通りかかって助けてくれた女性なのですが、そこから湯川は、彼女の嘘と殺人事件の真相を明らかにしていきます。

「演技る」(えんじる)

最終話の「「演技る」は劇団の演出家をしている「駒井」という男が胸にナイフを突き立てられて死んでいるのが発見された、という事件です。警察の捜査を攪乱するため、、劇団の主力女優の「神原敦子」という女性が、様々な偽装工作をこらしていくのですが、それを湯川がひとつづつ取り外して、真犯人と犯行理由へと繋いでいきます。

真犯人の正体にも驚くのですが、神原敦子が偽装工作をした動機も驚きです。

レビュアーの一言

最近の長編では、物理トリックというより、心理トリックのほうが多くて、物理学者である「湯川」の専門的な知識に基づく推理の点で不満の残るところも多くなっているのですが、シリーズ七番目の本作の段階では、マイクロ波を使った装置であるとか、電磁波を使って音を伝える装置であるとか、科学オタクが喜びそうな機械がでてきます。シリーズ最初の頃の雰囲気を漂わせてる作品が多い一冊といえます。

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