平家に叛旗を翻した裏切り者武将の真意は?=高田崇史「QED 源氏の神霊」

東京都目黒区にある漢方薬局に勤務する薬剤師ながら、日本史の秘められた謎にめっぽう詳しい「桑原崇」が、同級生のフリーのジャーナリスト・小松崎の依頼で日本全国でおきる怪異な事件の謎解きに駆り出されながら、後輩の薬剤師・棚橋奈々とともに旅をし、各地の名所や神社・仏閣に隠されている秘史を明らかにしていくQEDシリーズの22冊目で本編完結後の長編2作目が本書『高田崇史「QED 源氏の神霊」(講談社ノベルス)』です。

今巻では、若い頃の鵺退治で武名をあげながら、源氏の一族を裏切って平家側につき、さらにそれにも最終的に叛旗を翻したという裏切りの連続で評判に悪い「源頼政」の真実が明らかになっていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
平等院の虚空
宇治川の波風
瀬田川の烽火
御裳川の濁水
水天宮の霊地
エピローグ

となっていて、今回の舞台は源頼政の墓所のある京都から、彼が平家と激しく戦った滋賀、平家の滅亡した壇ノ浦のある下関となっています。

まず事件のほうは、京都府亀岡市のつつじが丘小学校に隣接した丘陵地にある「頼政塚」で、腹と喉を鋭利な刃物で切り裂かれて一人の男性が血だまりの中で死んでいるが発見されます。被害者は水瀬正敏という60歳過ぎの男性で、妻を数年前に亡くした後、息子に暮らしていたのですが、この息子もこの時点で行方が分からなくなっています。

この「頼政塚」には、無礼なことをしたり、塚を傷つけたりすると祟りがある、という民間伝承があるらしく、今回も石碑の一部が欠けていたことから、その祟りではと噂を呼ぶことになります。

このシチュエーションからして、息子が第一容疑者として浮上してくるのですが、彼も遠く離れた下関で、ロープで首を絞められ、碇のオブジェに繋がれたまま関門海峡に投げ込まれて水死しているのが発見されます。

この二人は、近隣の人に聞いても悪評判はない人物なのですが、先に殺された父親のほうが数年飴、下関に単身赴任していた経歴があったというのが、唯一の手がかりでしょうか。

そして、さらに水瀬正敏が所属していた歴史サークルに講師として呼ばれていた女性が、壇ノ浦の水死体となって発見され、と事件が連続していきます。

一方、桑原崇と棚橋奈々は奈々の妹・沙織が、桑原の悪友のフリーライター・小松崎と再婚することから、その結婚式に出席するため京都へきています。

そして、この機会を利用して、宇治平等院にある「源頼政」の塔頭最勝院にある彼の墓に参ったことから、今巻の連続殺人事件の謎解きに駆り出されていきます。桑原崇は前巻の「QED 優曇華の時」で「まだ一人として手をつけていない謎」が隠されていると言っているのですが、その謎の解決編がこの巻となるようです。

で、その「謎」というのが、裏切り者として有名な源頼政で、当時、77歳という高齢で、「三位」という「武門」としては最高位以上の階級に叙せられ、不自由も不満もなかったなずの老武将が、以仁王という王族に呼応してなぜ平家に叛旗を翻したのか、といったものですね。

この「頼政」の謎を解くため、宇治の平等院をスタート地点にして、頼政が平家の軍勢とj激しく戦った宇治川から大津の瀬田の唐橋、さらには殺人事件のおきた亀岡にある「

頼政塚」、さらには下関へと導かれていき、以仁王の令旨をうけて挙兵した源頼政の乱に始まり、木曽義仲が平家を京都から追い落とし、壇ノ浦で平家一門が滅亡するまでの源平合戦に隠されていた秘史を桑原崇が明らかにしていきます。

少しネタバレしておくと、源頼政の挙兵の謎は、今巻の連続殺人事件の「カバー」として使われている気配があって、このシリーズの特徴でもある「過去の歴史の因果か現代に・・」といった因縁ものとはちょっと違った仕立てになっています。

Bitly

レビュアーの一言

今巻では、敗北するとわかっていても、源三位頼政が兵をあげて平家に反逆した理由や、平家を京都から追い落とした功績者である木曽義仲が、後白河法皇や京の貴族に罠にはめられていった真の理由とかが明らかになります。

「勝者総取り」という歴史の原理のためか、源頼朝や源義経たち、河内源氏のうちの義朝系ばかりに陽が当たっている陰に隠れてしまっている、摂津源氏(多田源氏)や信濃源氏などの通説とは違うマニアックな秘史がでてくるので、中世鎌倉時代を専門とする秘史ファンにはたまらないかもしれません。

ついでにいうと、源氏の正統は河内源氏の系統の頼朝ではなく、摂津源氏の頼家だというトンデモ説がでてくるので、「鎌倉殿の十三人」ファンも必読です。ただ、小余綾俊輔シリーズの「源平の怨霊」とはネタ被りがあるので、未読の人は注意が必要です。

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